アル君 物語から学ぶ

 僕も6歳になる頃には、自分の立場みたいなものがわかってきた。


 とはいってもモア様やメイドや執事の方々の話を聞いて、何でモア様は魔王なのに国を動かすのではなく、隠遁の様な生活をしているのかなど···


 まずは身近な所から。


 モア様の部下の数は二十五人、うちメイドが十五人で執事が十人で、そのまとめ役は執事長のエドガー様だ。


 エドガー様曰くモア様が隠遁したのは約百年前の人間の軍と大魔王ザラキア率いる魔族軍による大戦争時、ザラキアの部下としてモア様もエドガー様も働いていたらしいのだが、敵味方双方をすり潰す様な戦い方を好むザラキア様の戦い方について行けなくなり、戦死を装って国外に脱出したらしい。


 しかし、それすらもザラキアにはバレていたらしく、これまでの功績と地位を捨てること、ザラキアの国に害をなさないというこれまでのザラキアとは思えない寛大な条件で国外逃亡の罪を許し、周辺諸国を巡った後にザラキアの魔帝国と急拡張を続けていたステム王国の間にある国の僻地に居を構えたとのことだ。


 子供達を育てるのはいつの日か魔族と人間、そしてエルフ、ドワーフ、獣人の五種族が真の意味で共栄できる場所を作りたいという願いかららしい。


 周辺諸国を旅した事や、戦争での武名があったことからか、モア様が今住んでいる緩衝国の王族や、ステム王国の隣接する諸侯達とモア様は交流がある。


 モア様の博愛主義を受け入れられるという事はそれぞれの宗教的にありえ無いのだが、モア様の温厚な人柄と長年培ってきた様々な知恵を借りる為に手紙が送られてくる。


 人数は多くないとは言え筆マメなモア様は全て丁寧に返答しているから凄い。


 ちなみに僕らが今住んでいる国はマギマ王国というらしい。


 王族は魔族だけど獣人も重用されている多民族国家であり、特にめぼしい産業や資源があるわけではないが魔帝国とステム王国双方の政治的理由で生かされている国だ。


 まあ国土の割に人口は多いらしいので治安は良いのだろう。


 国の話はこれくらいで、もっと身近な話をすると、屋敷と子供達の数だろうか。


 屋敷は広い···と言うか小さな城にも見え、森の中にポツンと存在する。


 昔は人が多く住んでいたのだろうが、自然に負けて飲み込まれてしまい、石造りかつ、強固な保存の魔法がの城にだけ掛けられていた為、原型を保っていたらしい。


 それを補修して住んでいるとモア様に言われた。


「沢山部屋があるから子供達を育てるスペースや物を置くスペースには困らないよね」


 とモア様は言う。


 で、モア様が拾ってくる子供達の数は現状二十人程であり、最年少は僕である。


 毎年15歳までに旅立つか残るかを選ばなければならない。


 旅立つ時は懇意にしている行商人が近くの街に連れて行ってくれるので、そこで冒険者になるか、その街で暮らすかを決めるらしい。


 街にはモア様に拾われた人達が集まり共同のコミュニティがあるので露頭に迷うことは無いらしい。


 というか行商人もモア様に育てられた子供達なので僕達にも優しくしてくれる。


 食事は基本的に自給自足だ。


 森を切り開いた農地はある6歳になったら必ず手伝いをやらされるし、更に大きくなったら狩りを教わる。


 森の中なので鹿、イノシシ、野鳥の類が捕れることがある。


 ハンターとしての技能があれば冒険者になった時に応用が効くのだとか。


 僕もモア様が読んでくれる冒険者の成り上がりの物語や英雄譚に憧れて、冒険者になりたいという気持ちもあるけど、もっと魔法を学びたいという気持ちもある。


 その事をモア様に相談すると


「うーん、魔法をもっと学びたいか···だったら学園に言ったほうが良いけど···私のコネがあるのは魔帝国の方だから人間の受け入れはしていないからなぁー···そんな不安そうな顔をしないで。ちゃんと考えておくよ」


 と言われた。











 6歳になったことで畑仕事の手伝いや部屋の掃除を魔法を使いながら行っていく。


 畑仕事だったら得意な水を生み出す魔法で水を撒いたり、掃除は魔糸で箒や雑巾を操って同時並行で掃除をしたりする。


 勿論お風呂のお湯を沸かすのも僕の仕事だ。


 それで間時間に文字の読み書きや簡単な算術を学んでいく。


 できた方が将来の選択肢が増えるからとか。


 読み書きがわかってくると屋敷にある本を読める様になった。


 勿論簡単な本だけど、物語を読むとイメージが湧いてくる。


 例えば英雄のお話だと、まず簡単な主人公の生い立ちが語られる。


 貧しかったり、貴族だったり、王族だったり、勇者だったり、魔族だったり、エルフだったり···


 勇者が主人公のお話だと、強力な力を持つ勇者は人々から恐れられていたと語られる。


 勇者はこんな力を持っていても友達となってくれる存在を探しに世界を旅し、仲間を集め、ダンジョンに潜ってそこで人の言葉を話すドラゴンと出会う。


 ドラゴンも強力な力で人々から怖がられ、ダンジョンに籠もったそうだけど、同じく人々から怖がられる勇者の話を聞いてドラゴンは自身を倒すことでドラゴンスレイヤーとなれば人々から怖がられることは無くなり、英雄になれると話した。


 勇者はせっかくできた友達を討てないと話すが、ドラゴンもせっかくできた友達だからこそ幸せになって欲しいと願う。


 双方の葛藤、ドラゴンの素材に目がくらんだ勇者の仲間···物語は結局ドラゴンを倒して勇者は貴族のお姫様と結婚して幕を降ろすけどこの屋敷にある物語は大半が最後に疑問を残して終わる。


 本当にこれが正しいのかっていうことを考えさせられるお話が多い。


 疑問に思って、一緒に書庫に来た年長のお姉ちゃんに話を聞くと


「モア様は理想と現実の差を常に考えて生きてきたから。子供である私達にもこれが絶対に正しいっていうのは作ってほしくないんだと思うの。正しい選択ってわからないけど納得のいく選択を取れるようにってね」


「アルが今読んでいた物語の主人公は英雄にはなったけど、理解者を失ったよね。お姫様との結婚が本当に幸せなのかはわからないけど、友達を失ったという事を一生抱えて生きていくし、仲間の欲みたいな物を視て今までと同じ仲間でいれるのかね?」


 そう言われると確かに主人公は納得のいく選択よりも名誉を取ってしまったのかもしれない。


 幸せの定義は人それぞれだけど僕には主人公のその後が幸せには思えなかった。


「ありがとうお姉ちゃん」


「どういたしまして」


 僕は黙々と本を読み漁るのだった。

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