アル君 魔王様に魔法を教わる
僕はモア様が好きだ。
母親としても師匠としても尊敬できる。
ただ時折ドジる事だけはやめて欲しい。
先日、僕に修行をつけている時
「あっ、ヤベ」
と言って僕の腕が吹き飛ばされた。
魔糸を使った魔法なのだが、魔王であるモア様クラスになると腕がバターを斬るように簡単に骨まで切断されてしまった。
直ぐにくっつけて貰ったが、僕が魔糸を使っても物を斬る事はできない。
魔量総量が関係しているのかと思い聞いてみると
「私の魔糸には属性を付与しているんだよ」
「属性の付与?」
「魔法は無魔法以外に何種類魔法があったかな?」
「五つ!」
「そうだね。無魔法は他の魔法と組み合わせやすいって性質があるんだよ。私の場合は魔糸に風魔法を組み合わせているんだ。なんでだと思う?」
「え? ···うーん、わからない」
「風魔法は風を【操る】魔法だから操るという行為への適性が高いんだ。簡単に言うと風魔法を組み合わせた方が魔糸を自由に操れるんだよ」
「でも僕は風魔法は苦手だよ」
僕は火魔法と水魔法の適性が高いが、風魔法と雷魔法の適性が低い。
「大丈夫、私みたいに魔糸を何千と操るってことは難しいかもしれないけど、練習すれば百本位なら自由に操れるようになれるよ」
「本当?」
「魔王様は嘘は付かないよ」
その後、モア様が僕に対して練習メニューを考えてくれた。
まずは皆のお風呂のお湯を沸かすこと。
手を突っ込んで魔力を込めてお湯を沸かしていくんだけど、均一にするのが凄い難しい。
皆が入れるお風呂なので、僕が30人ほど入れる広さはある。
だから最初は、お風呂の周りを歩いて熱の加える場所を常に変えながら温めるという方法をしていたが、魔糸を伸ばして魔糸に熱を込めるやり方をすると、お風呂のお湯を均一に温めることができるようになった。
ただこれでは時間がかかる。
なのでお湯を生み出すという事にした。
水魔法で水の玉を作り出し、それを空中で固定、熱を加えてお風呂に流すという事をしたのだが、僕の魔量総量だとお風呂にお湯を全て満たす事ができない。
それを踏まえると熱湯をまず生み出し、そこに汲んできた水を入れることで心地よいお湯へと変えるという答えを出した。
試行錯誤を繰り返し、納得のいくのに約一ヶ月もかかってしまったが、モア様曰く考える事が大切らしい。
「魔糸で熱を均一にするだけでも合格点だけど、アルはそこに早さを追求したよね。魔法では常に良くするって事を考えることが大切なんだ」
「常に良くする?」
「あぁ、正解は無数にある。例えばアルはお湯を流すという方法を使ったけど、お湯の中に熱した魔石を投げ入れるという事をしても良かったハズだ」
魔石とは魔物から取れる魔力の籠もった石で、魔道具の燃料から魔法の媒体、はたまた薬品を作る時にも使われる石である。
石を使ってということは考えられなかった。
こういうのは自分の力のみでやるから意味があるのかと思ったからだ。
モア様はある物を使ったほうが魔法使いとしては大成するんだとか。
良い道具や良い武器を使ったほうが良いように···だと。
また、魔石を熱しておけば、僕の魔量総量だとギリギリ水をお風呂に満たす事ができるし、お湯へと変えるリソースを減らすことができる。
魔石を幾らか投げ込めばお風呂の水はお湯に変わる。
そして魔石がお湯を温める続けるので、数時間は温かいというのも良い点だろう。
僕はお風呂をお湯に変える事ばかり考えていたが、入る人達の事が抜けていた。
僕が必死にその時の適温にしても、後から入る人達はぬるま湯になってしまっているからだ。
「確かに魔法は敵を殺す事もできるけど、人を便利にする事もできる。ただそれは正しい使い方を知っていないとできないからね。じゃあ正しい魔法の使い方って何だろうね」
「正しい···正しい···? うーん、多すぎてわからないよ」
モア様は僕の頭を撫でながら
「そうだね。その時その時で正しい魔法は変わってくるんだ。例えば庭でエドガーが魔法で野菜に水やりをしているけど、あれも正しい使い方だし、メイド達が料理の為に火魔法を使ったりするのも正しい魔法の使い方だろうね」
モア様は続けて
「でも目の前にゴブリンが現れたら正しい魔法の使い方は変わるよね。呑気に水やりなんかしていたらゴブリンに殺されてしまうよね。そういう時は攻撃の魔法を使わないとね」
「これが魔法は時と場合によって正しい魔法が変わってくるという事なんだよ」
「魔法だけじゃないよ。道具だってそうだよね。包丁なんていい例だ。普段は料理に使うけれども有事には武器としても使えるよね」
「なるほど?」
僕はモア様の言うことを半分くらいしか理解できなかったが、モアはニコニコしながら
「まだ早かったかな~」
と僕のほっぺたをぷにぷにしてくるのだった。
「今日は魔力を使った加工品を作ってみようか」
「ポーションとか?」
「それもあるね」
モア様は何でも知っているし、それを優しく教えてくれる。
僕以外にも今日の授業は子供達皆でやるみたいだ。
今日作るのはポーションという魔法の薬品で、主に回復薬として使われるが、体温を上げたり、逆に冷ましたり、一時的に筋力を上げたり、疲れを飛ばすのポーションと言う。
魔法の薬品がポーションであるので、効能に合わせて回復薬とか増筋薬とか名前が付くらしい。
ポーションの材料は水と砕いた魔石、そして効能に合わせた素材と魔力だ。
上質な魔石、希少な素材、魔力の量でポーションの質は決まるらしい。
まずはモア様が作ってくれた回復のポーションだが七色に光っている。
体を半分に切断した鶏にかけると上半身から新しい下半身が生えてきた。
「ちなみにこれくらいの効力をこの素材で作ると魔王の私でも半分くらいの魔力を持っていかれるからね」
「モア様の魔力ってどれくらいなの?」
お姉ちゃんの一人が聞くとモア様はこう答えた。
「うーん、君達を一から五くらいにとするとエドガーが百で、私が五千くらいかな? ざっと千倍以上ってところかな」
皆すげーとか流石モア様と言う。
モア様はパンパンと手を叩くと場の空気を切り替え、早速ポーション作りの授業が始まった。
なぜポーションを作るのかというと、回復のポーションが作って売れるだけで飢える事は無いらしい。
町だとギルドなどの組織がポーションを作れる人員を囲い込んでしまうらしいが、村では薬師として重宝されるからひっそり暮らしたい人や、いつか冒険者になりたい人達も自分で信用できるポーションが作れれば生存できる確率がぐっと上がるらしい。
ポーションは偽物も町だと売っているらしいし、色や匂いで効能を判断するから、どうしても粗雑な品も出回ってしまうのだとか。
「うーん···ダメかな···」
治験様にメイドさんたちが飼育している大馬鹿カエルに僕はポーションを付けるが特に変化は無い。
どうやら失敗したらしい。
「もう少し込める魔力の量を増やすのと、魔石をもっと丁寧にすり潰さないと駄目だよ」
とモア様にアドバイスを貰う。
小型犬ほどの大きさで、水辺でボーっとしていて、攻撃されても気が付かないでそのまま肉食獣や魔物に食われることから大馬鹿と名前が付いたカエルだが、飼育のしやすさ、可食部位の多さ、ぷるぷるとした食感とさっぱりとした味わいで普通に美味しく、クソ不味いゴブリンの肉でも餌として食べてくれるので家畜として人気だとか。
そんな大馬鹿カエルにナイフで傷を付け、新たに作ったポーションを塗ってみると、じんわりと傷が治っていく。
「アルもできたね!」
僕はポーションを舐めてみると
「不味い、苦い!」
「はは、良薬は苦いものだよ」
全員がポーション作りを成功させたら、モア様は大馬鹿カエルの一部を絞めてその日の夕飯にするのだった。
大馬鹿カエルの素揚げに卵と酢を混ぜたソースで味を整えた料理はとても美味しかった。
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