〜捨て子の王子〜勇者にはなれないけど英雄を目指したいと思います!

星野林

忌み子のアル君 女魔王に拾われる

「何! 双子だと!」


 ステム王国の王、ステム四世は司祭から告げられたその言葉に頭を抱える。


 それはステム王国の国教に双子の片方は悪魔の子と忌み嫌う教義があるからだ。


「しかし、産まれた御子息様の片方に勇者の証がクッキリと印されております!」


「それは誠か!」


 忌み子が産まれたという事実よりも喜ばしい新たな勇者の誕生、しかもそれが自分の息子であることに王は大いに喜んだのだった。








 勇者と魔王···同じ言語を話し、似たような思考回路を持つが、互いの容姿の違い、双方を敵とする宗教的教義、血なまぐさい復讐の連鎖で今なお勇者率いる人類と魔王率いる魔族は争いあっている。


 勇者と魔王は神からの祝福として左右どちらかの手の甲に六芒星の痣が浮かび上がる。


 この痣を持つ者は持たざる者に比べて魔力、筋力、生命力が大きく違ってくる。


 膨大な魔力で様々な魔法を使い、怪力で大剣を振り回し、一般人が致命傷と言える攻撃を受けてもピンピンしている。


 ただ魔王も勇者も世界に1人というわけではない。


 世界にそれぞれ10人単位で存在するし、人間側の勇者は国の戦略兵器としても運用される。


 ···魔族と人間の争いだけでなく、宗教の違いや資源地帯を巡り、人間同士や魔族同士でも争いは絶えない。


 これに人類から派生したとされるエルフやドワーフ、魔族から派生したとされる獣人も加えた5種族により世界は常に争われている。


 そんな争いの絶えない世界の南方にある大国···それがステム王国である。


 広大な穀倉地帯から供給される食糧と数多の大型ダンジョンから取れるマジックアイテムや資源の数々は国を潤し、幾つもの小国を吸収し、ステム四世の時代では北の雪原地帯を支配するシルバー帝国、西部地域を支配する大魔王ザラキアの魔帝国に並ぶ三大強国の一つとされている。


 そんな国で第二王子が産まれるという情報は周辺諸国でも噂になっており、その出産の様子を魔帝国とステム王国の緩衝国家群の1つ、人里離れた場所に隠遁していたとおる魔王がその様子を遠視の魔法で覗いていた。


「新たな勇者降臨の予感はしていたが、まさかステム王国の第二王子の片割れが新たな勇者とは···大きな火種になりそうだ」


 魔帝国に服従している魔王の一人である胸の下半球を露出させた独特な黒服を着た、赤黒い髪と羊の様な巻かれた角を持つ女は新たな火種に頭痛を覚える。


 一方で双子の片割れが司祭に取り上げられ、そのまま箱に詰められると川に流される様子を目撃した女魔王は


「え? 確かにステム王国の国教は双子は忌み子だから片方を廃嫡することはあるけど、部下に預けるとかじゃなくて川に流すの? 箱に詰めて?」


 遠視で視ている限り木製の箱はまだ浮いているが、直ぐに沈みそうである。


「ああもう視てられない」


 女の魔王は物質を転移させる魔法で川に浮かぶ木箱を自身の目の前に転移させた。


 木箱を開けると


「あんぎゃーあんぎゃー」


 と産まれたばかりで皺くちゃな顔を真っ赤にし、泣き叫ぶ赤ん坊が中に居た。


「あぁもう私は馬鹿かこれで何人目だよ」


「モア様! 部屋で赤ん坊の声が聞こえましたが···まさかまたですか!」


 モアと呼ばれた女魔王は声の主である頭髪の無いモノクルを付けた単眼の魔族の男性に呆れられた様に言われる。


「エドガーごめんて···見捨てられなくて···」


「優しいのは美徳ですが、そうホイホイと子供を拾って来られると困ります。どうするんですかこの子は」


「責任を持って育てるよ···」


 モアは赤ん坊を抱き寄せて


「今日から私がお母さんだよ。よろしくね···えっと名前どうしようか」


「いや、私に聞かれても···拾ったのはモア様なのでモア様が名付けなさいな」


「そうだね···アルにしよう」


「また安直な」


「呼びやすい方が良いだろ?」


「まったく···」


 エドガーという魔族は一度部屋を退室し、タオルを数枚持ってきた。


「これで包んで上げてください」


「なんだかんだエドガーも優しいじゃん」


「優しく無ければこんなへっぽこ魔王に仕えませんよ」


「うわ、酷い!」


「それならば少しは魔王としての自覚を持ってください」


 エドガーが呆れながらそう言うが、その様子を見ていたメイド達はいつものことかとクスクスと笑うのだった。






「アル君は元気ですね。乳の吸い付きが凄いですよ」


 そう言うのは牛の獣人の女性で、彼女も昔モアに拾われた戦災孤児であり、今はメイドとしてこの屋敷で働いていた。


「私が調合したミルクを飲ませているんだが、どうしても量を飲んでくれなくてね···」


「味覚が繊細な赤ん坊ですし、我々大人が大丈夫だと思っても人工のミルクより乳の方が赤ん坊の口に合うのかもしれませんね」


「魔族や獣人、エルフやドワーフなんかは今まで拾ったけど、人間の赤ん坊を拾ったのは初めてだからねぇ」


「しかし、これで全種族制覇ですか···モア様は博愛主義の化身ですね」


「やめてよ···ただ目の前で困っている子供を見捨てられない駄目な女だよ」


「100年前の大戦で、単騎で人間の軍隊を壊滅させた人とは思えませんよ」


「あの頃は私も荒れていたんだ」


 モアはそう言った時に扉が開き、子供達が入ってきた


「アルー」


「アルまだミルク飲んでるの?」


 モアが拾ってきた子供達であり、様々な種族の子供達である。


 新しくできた弟分かつ、人間という種族に物珍しさを感じるのだろう。


「こらこら、まだ授乳中だから皆邪魔しちゃ駄目だよ」


「「「はーい!」」」


 子供達は部屋から出ると庭の方に走って行った。


「あの子達も大きくなりましたね」


「そのうち彼ら彼女らも旅立っていくのかな? 残る子も居ると思うけど···毎回旅立ちは寂しいなぁ」


 乳を飲んでいたアルは吸い付くのをやめて


「げぷ」


 と可愛らしいゲップをした。


「アル君お腹いっぱいかな?」


「髪の毛も生えてきてこの子は絶対にモテそうだ。魔族視点からだけど」


「そうですね。可愛らしい顔立ちだと思いますが、赤ん坊は皆似たりよったりですからね」






 月日が流れ、アルも自分の自我みたいなものが芽生え始め、屋敷の子供達と遊ぶようになっていった。


「アル見ててね、指に魔力を通して魔力の線を人形に繋げるの。そうするとほら! 人形が動いたよ!」


 お姉さんがやっているの傀儡使いなら必須となる魔糸操作と呼ばれる技術であり、それを人形遊びで用いていた。


「指に魔力を〜···えい!」


 アルの指先から青色の糸が出るが、人形に触れる前にプツリと切れてしまう。


「あぁ、残念。まだアルには早いかな?」


「うぅ···」


 アルは横を見ると大きい男の子達が、甲冑の騎士を操りながら戦っていた。


「今日こそ勝つからな!」


「負けねーぞ!」


 中身が空のハズの甲冑は生きている人間のようにカチャカチャと音を立てて、刃先が潰された剣を打ち合っている。


「お手玉お手玉ジャグリングー」


「みてみて! 私は10個回せるよ!」


 小さな火の玉を出してジャグリングをする子達。


「えい!」


「おお! すっげぇ浮いた!」


「ゆっくりなら動けるよ!」


 風を操って僅かに浮かぶ少年達。


「今日も子供達は元気ね」


「私達も小さい頃はあんな感じだったわね」


 と洗濯物を浮かんでいるお湯の玉の中に入れ、ぐるぐると回して回転させて洗っているメイドさんや、それを風魔法で乾燥させているメイドさんもいる。


 アルの周りには魔法が日常的に存在していた。


 アルも遊びながら魔力を操作する術を学んでいく。








「いいかいアル魔法というのはだね」


 僕の名前はアル···モア様や皆からそう呼ばれている。


 皆と魔法を使って遊んでいるけれど、僕は魔法って無意識に使うものではなくてもっと理由があるのではないかと思っていた。


 なぜ魔力を込めれば火がつくのか。


 なぜ魔力を変化させれば水が生み出せるのか。


 なぜ魔力は土や風を操ることができるのか。


 疑問は尽きない。


 そのことをモア様に話すと目を白黒させて


「アルは目の付け所が良いね。知りたいのなら教えてあげるよ」


 とモア様の部屋で僕は皆と遊んだ後に魔法のお勉強をするようになった。


 モア様曰く、魔法を使うには魔力が必要で、魔力は空気中の魔素を体内で取り込んで魔力に変化させる。


 魔力は胃袋みたいな場所に溜められて、その魔力を使うことで魔法が使えるらしい。


 魔力を取り込みやすい体質の人は疲労回復が早く、魔素から魔力への変化が上手い人は短い睡眠しか必要とせず、魔力総量が多い人は大規模な魔法が使えるんだとか。


「どれも一定値までは鍛えることができるんだ。5歳から12歳を魔力成長期と言ってね、体の成長に合わせてさっき言った取り込む、変化させる、蓄えるも成長していくんだ」


「皆が遊びながら魔法を使っているのはその方が鍛えられるから。魔法が使えれば食いっぱぐれる事は無いからね」


 食いっぱぐれるという意味はなんとなくしか僕にはわからないが


「皆が魔法を使えるわけじゃないの?」


「人間社会も魔族の世界も貴族がこの事実を秘匿しているんだ。さてなぜでしょう」


「皆が魔法を使えた方が便利になるんじゃないの?」


「そうだね。でも今まで貴族しか魔法が使えなかったのに、皆平等に使えるようになったら貴族はどう思うかな?」


「不安がるかな?」


「そうだね。自分の地位を脅かすかもしれないと思うだろうね。だから隠す事を選んだんだ」


「ただどうしてもさっきのサイクルができない人も居てね、そういう人は魔法を扱うことができないんだ。あとは素質になっちゃうかな。上手い下手はどうしても出てくるから」


「ふーん、じゃあ大人になったら成長しないの?」


「そういうわけではないんだ。微量ながら成長するし、使えば使うほど効率が変わってくるんだ」


「効率?」


「例えばA君とB君が居るとするじゃないか。2人は同じ魔力サイクルの持ち主です。でもA君の方が魔法の威力や早さが強かったり早かったりします。なぜでしょう」


「それが効率?」


「そう。魔力のロス···魔素を取り込むのにも、魔力に変化させるのも、魔法を放つのにも必ず漏れが出てくるんだ。それをいかに無くすかで威力も早さも変わってくる。後は工夫」


「工夫?」


「同じ火の魔法でも火の球を操るのもあれば火の剣を生み出すのもある。魔法を組み合わせることで色々な魔法が使えるんだ」


「でもお姉ちゃんやお兄ちゃんの中には火の球を作れなかったり、水を生み出せない人もいるよ?」


「魔法にも得意不得意があるんだ···よし、じゃあこの葉っぱを持ってみて」


 モア様は庭で育てているマシソという食べ物の葉っぱを僕に差し出した。


「握ったよ?」


「じゃあ魔力を流してみようか」


 僕が魔力を葉っぱに流し込むと片方は燃えて、片方は湿った。


「魔法は主に6種類あるんだ。主に炎、水、雷、土、風そして無···これが五大魔法と無魔法と呼ばれるモノだね。で、アルが握ったマシソの葉っぱは流れた魔力に反応する性質があってね。アルは炎と水の魔法が得意みたいだね」


「得意不得意で変わるの?」


「得意の魔法は魔力効率が良いんだ。不得意の魔法は効率が悪いから使えなかったり、威力が弱かったりするんだ」


「無魔法だけハブられているけど何か違うの?」


「無魔法は魔法サイクルができているのなら必ず使える魔法なんだ。例えば魔糸を出して物を操るとか、遠くの物を視る遠視···とかね」


「難しい」


「はは、最初はわからない物ばかりだよ。一つ一つ覚えていこうね」


「はい!」

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