すべてをバッファローが・・・
広之新
本編
むかし、むかし・・・おじいさんがいました。彼はいつも何かに怒っていました。今日も雑貨屋の店先から商品がはみ出して歩道に置かれています。
「けしからん! こんなところに物を出しっぱなしにして!」
おじいさんは雑貨屋に入っていきました。
「おい、おやじ! 何度言ったらわかるんだ! 歩道に物を置くな!」
「すいません・・・」
雑貨屋の主人はおじいさんの迫力に恐れをなして商品を店の中にしまいました。
「全くなっておらん!」
おじいさんは店を出てまた歩道を歩きました。すると自転車が止めてありました。
「誰だ! こんなところに自転車を置いたのは! 危ないじゃないか!」
おじいさんは自転車を蹴りました。すると中学生の女の子が出てきて頭を下げました。
「ごめんなさい! ちょっとだけ・・・」
「自転車にぶつかってケガをしたらどうする! どこの学校だ? 名前を言え! 学校に文句を言ってやる!」
おじいさんは散々怒鳴り散らしました。女の子が泣くほどに・・・。周りで見ていた大人たちもとりなすこともせず、じっと見ているだけでした。係るとそのおじいさんにどんな目にあわされるか・・・。
このおじいさんは元は大企業の重役でした。退職後も元気でしたが、やることがありません。だから町内パトロールと称してこんなことをしていました。
「儂のおかげでこの町がよくなる」
おじいさんはよいことをしていると思っていました。周りの人が「老害だ!」「迷惑だ!」と言っているのも耳に入りません。
「おっ! あれは! きつく注意しなければならん!」
おじいさんは遠くに見つけました。ペットの犬を散歩させている人を・・・。おじいさんは俄然やる気が出てきて、その人に近づいていきなり怒鳴りました。
「コラ! こんなところを散歩させていて人にかみついたらどうする!」
「そんな・・・」
「ちょっとそのリードを貸せ! 保健所に連れて行って処分させてやる!」
おじいさんはその人からリードをひったくろうとしました。すると後ろから大きな音がして地響きがしてきました。
「何だ?」
おじいさんは振り返りました。すると全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れがおじいさんを踏みつぶしていきました。
おじいさんを心配する人もいましたが、喜ぶ人も少なくありません。
「これで安心して車を停められる」
今までは少しでも路駐しようなものなら、おじいさんにすぐに見つかりこっぴどく叱られたものでした。いやそれどころか、ただ車に乗っている人にも「排気ガスが臭い」などと文句を言っていました。
その若者もその1人でした。しかし今や怖いものはありません。彼は迷惑なほど大きな音を立てるスポーツカーに乗り、猛スピードで町中を走り回りました。皆が慌てて道を開け、その騒音に耳をふさいでいます。
「どうだ! かっこいいだろう!」
若者は窓を開けて得意げに叫びました。すると全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れがスポーツカーを踏みつぶしていきました。
それを見ていた青年が鼻で笑いました。
「ふふん! いい気味だ。どうせスポーツカーでナンパするつもりだったのだろう! 邪魔者がいなくなって清々する」
その青年は通りを歩く若い女性に声をかけ始めました。
「お姉さん! 俺と遊ばない?」
だがその女性は無視して通り過ぎました。だが青年はあきらめません。
「冷たいなあ。ちょっとだけでいいんだけど・・・」
青年はしつこく女性に付きまといます。女性がかなり嫌がっているのに・・・。すると全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが青年を踏みつぶしていきました。
それを見ていた中年男が驚いて目を丸くしていました。
「どうなっているんだ?」
彼はとりあえず煙草に火をつけました。ここは禁煙地区なのにです。
「ふう! やっぱり落ち着くなぁ」
中年男はさんざん煙を出した挙句、くわえていた煙草を投げ捨てました。すると全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが中年男を踏みつぶしていきました。
「これはいい。早速、ユーチューブに上げよう!」
その光景を撮影するユーチューバーがいました。彼はどちらかというと迷惑系のユーチューバーです。再生回数のためなら度を越したことでもします。
「そうだ! 他の奴にもっと悪いことをさせよう。そうしたらこんな映像がもっと撮れる!」
彼はそう思いつきました。すると全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れがユーチューバーを踏みつぶしていきました。
その近くにさりげなくおしゃれな衣装に身を包んだ女子アナがいました。彼女は先ほどのユーチューバーの彼女のようです。彼女はあざといポーズを取りながら言いました。
「すごーい! 信じられなーい!」
すると全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが女子アナを踏みつぶしていきました。
おしまい。
すべてをバッファローが・・・ 広之新 @hironosin
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