通勤ラッシュ

NADA

全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ

朝の通勤ラッシュの駅の改札口


まるで水牛の群れのようだ

横入り、追い抜いていく者

ぶつかっても謝罪も無い


皆が改札から駅のホームに向かって急いでいる

余裕を持って行動できるのが理想的だが、冬の寒い朝のベッドから出るのは、誰だって億劫だ


ギリギリまで寝ていたいのが人間のさが

奈美もご多分に漏れず、遅刻しそうで小走り

ちょうどホームへと滑り込んできた電車へと押し合いへし合い乗り込む


ながらスマホなんて当たり前

何が入っているのか邪魔な大きなリュック

揺れても押されてもマスク越しの無表情のまま携帯の画面を見つめる乗客


見慣れたいつもの光景

奈美は携帯で時間をチェックする

会社の最寄り駅に着いたらダッシュすれば何とか間に合う


ギュウギュウの車内は暑くて汗が出てくる

外はこの冬一番の冷え込みで凍えそうだったけれど、走って来て飛び乗った電車の中は蒸し暑い

この寒暖差で体調を崩す


マフラーだけでも外したいけれど、混み合う車内では身動きが取れない

我慢の限界が近いと思い目を閉じると、最寄り駅へと到着のアナウンスが流れた


ドアから流れに押されて吐き出されるように電車から降りると、出口へ向かって一直線

バッファローの群れは勢いを増し、周りなど目に入らない

我先にと、いい年をした大人同士が必死に牽制しあう


古き良き日本の譲り合いの精神は、何処へいってしまったのだろう

そんなことを考えている余裕は無い

あと10分で始業時間だ


改札でサラリーマンの前の若者が料金不足か何かで引っかかる

舌打ちするサラリーマンが後ろに戻り隣の改札へと移動しようとする

奈美は押されて足を踏まれた

足の痛みを堪えながら、奈美も隣の改札に並び直す


これも日常茶飯事、こんなことをいちいち気にしてなんていられない

やっとのことで改札を抜けて駅から出ると、極寒のオフィス街

汗をかいた体が一瞬にして冷える

最後の力を振り絞って、人混みを走り抜けて会社のあるビルに息を切らして駆け込む




バッファローも今や絶滅危惧種らしい

こんな生活を続けていたら、奈美も社会に淘汰されてしまいそうな気がする


そろそろ本気で独立して仕事をすることにしなければ…

在宅で時間に縛られずに自分のペースで働きたい

闇雲に、皆と同じように都心部の大手企業で働くことが幸せなのか


ここのところ、そんなことをずっと奈美は思案している

結婚もしないで30歳を越えて、一生懸命働き続けてきた

朝の電車みたいに、流れに押されて、自分の意志なんて関係なく進んできてしまった


バッファローも生きるために餌場を探して、群れの集団について行けば安心だと思って突き進むのだろう

でも、本当のところは誰も行き先も知らず、安全も保障も何も無い状態なのだ


皆がそうしているから

独りだけ違うのは怖いから


進んで行った先に充分な食糧が無くても

途中で肉食獣に襲われても

川に飛び込んで溺れても

それでも集団について行く生き方を続けていていいのか?



冷えた体のせいか、奈美は少し身震いをすると肩を丸めて会社へと向かった




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通勤ラッシュ NADA @monokaki

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