におい 1人台本 不問1
サイ
第1話
お、アンタこないだの!
いやぁ、元気そうでなによりだなぁ!
(笑って)あぁ、あれはほんと、御愁傷様というかなんというか…。
…へぇ、お祓いに、ねぇ。
そんで、効果はあったのかい?
…祓えてるかどうかって、そりゃあ。
…いや、ひとつ、面白え話を聞いたんだ、その話を聞いてからでも遅くはねぇだろ?
一寸(ちょっと)ばかし、付き合ってくれよ。
ある女が夜、そぼ降る雨で足元を濡らしながら歩いていた。
その道は車がよく通るが、人はほとんど通らない、うるさいが静かな道でな。
街の中でも主要な道路で、太くて、真っ直ぐ長い道だったそうだ。
そこを女が歩いていると、ふと、何かに気づいた。
周りにはだれもいない。
街灯は女とアスファルトを寂しく照らすのみ。
しかし、「そこ」だけ、
人のにおいがした。
目視では人の姿はみつけられていなかったから、においがしたことに驚いた。
いったい、どこからにおったのか。
思わず振り返るが、やはり誰もいない。
においの主は、どこにいるのだろう。
女はそのにおいに覚えがあった。
柔軟剤か何かは知らないが、知り合い数名から、そのにおいを嗅いだことがあったから。
故に、人のにおいだとすぐにわかった。
人の姿はない。しかし、人のにおいはする。
残り香だろうか。
しかし、一直線に伸びた長い道路に、人影は一切見られない。
隠れられそうな場所といっても、死角はない。
加えて、天気は雨だ。「そこ」に人がいるならともかく、いないのであれば雨ですっかり洗い流されてしまうことだろう。
よく目を凝らすと、「そこ」にあるものを見つけた。
マンホール。
人が入るには、十分なサイズの。
女は何も見なかったことにして、そのまま自宅のある住宅街へと歩いていった。
一軒の家のセンサーライトが、何かに気づいて点灯した。
…って、話だ。
どうよ、この話。
…何だその顔。面白え話だろう?
また見えざるものの話をしやがって、とでも思ってんのか?
いいだろう、ファンタジーだよ、ファンタジー。
女は勝手に人だと思ってただけで、実際はかわいい妖精さんだったかもしれねぇじゃねぇか。
…現実的な話じゃないって言うけどよ、マンホールに人がいたとしたって現実的な話じゃねぇよ。
それに、アンタはたしかに、現実的でないものを背負(しょ)って歩いてたわけじゃねぇか。
…いつって、そりゃあ…。
さっき、だよ。
ハズレ引いたんだ、アンタ。次はいい祈祷師に会えるといいな。
におい 1人台本 不問1 サイ @tailed-tit
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