第3話 たよれるVRの相棒

 成田は、アルバイト先のイタリアンレストランで、パスタを入れた鍋をふりながら、昨日の、十円ゲームセンターでの出来事を思い出していた。


 『マンザイ! バンザイ‼ VR』のなかに現れた田戸蔵は、ものすごくリアルだった。登場時に張り手をしたお腹も、ツッコミを入れた時の頭のたたきぐあいも、ちょっとハリがありすぎの気もしたが本当にリアルだった。

 そして、大爆笑につつまれたステージは最高に気持ちがよかった。


 今日のバイト帰りも、絶対にあの十円ゲームセンターに行こう。


「おつかれさまっしたー」


 成田は、アルバイトが終了すると、おおいそぎで着替えをすませて十円ゲームセンターへと向かった。昨日と全くおなじ場所に、手書きの看板と地下へとのびる階段がある。

 成田は足取りも軽くその階段を降りていった。


「いらっしゃいませ。おおきに」


 十円ゲームセンタの自動ドアをくぐると、メイド姿のお姉さんが笑顔で出迎えてくれる。 


「嬉しいわぁ。今日もきてくれたんやなぁ」

「モチロンですよ。いい練習になりますから」

「練習?」

「実は俺、お笑い芸人なんです! マンザイをやっています」

「そうなんやぁ。わたし、お笑いがめっちゃ好きなんです。コンビ名を教えてもらいます?」

「でんでん兄弟って言うんですけれど、知らないですよね?」

「でんでん? えっと、ごめんなさい……」


 メイド姿のお姉さんは、もうしわけなさそうに肩をすくめる。


「あはは、知らなくて当然です。俺たち全然売れてないし、テレビにも数えるくらいしか出演できていないですし」


 成田は、ありったけの笑顔でそう答えた。知らないなんて言われるのは、もう慣れっこだ。


「それよりも、今日も『マンザイ! バンザイ‼︎ VRゴーグル』のテストプレイ、させてもらえます?」

「かしこまりました。今、VRゴーグル持ってきますね」


 メイド姿の女性は、成田にVRゴーグルをかぶせると、十円ゲームセンターは、瞬く間にお笑いのステージへと変化する。

 そして、成田の右隣に、めちゃくちゃリアルなVR田戸蔵が現れた。


「どーもぉ! 成田です!」

「田戸蔵です! 二人合わせて……」

「でんでん兄弟です! デデデン!」

「でんでん兄弟です! デデデン!」


 ・

 ・

 ・


 今日のステージも大爆笑で幕を閉じた。


 あれから一週間、成田は毎日のようにバイト終わりに十円ゲームセンターに通って、毎日VR田戸蔵と漫才の練習をした。

 休みの日には、何時間もぶっ通しで、ネタをくりかえし、くりかえし練習をする。

 夢中になった理由は、ネタの完成度だ。

 VR田戸蔵の考えるネタは、どれもこれも最高に面白かった。

 本当の田戸蔵のネタと同じ、いやひょっとしたら、田戸蔵よりも面白いかもしれない。


「このネタってだれがつくったんですか?」

「すみません。それは企業秘密なんです」

「あの……このネタを本当のお笑いライブで使うのって……ダメ……ですよね?」

「うーん。わたしでは、ちょっとわからんので、開発した人に電話してみます」


 そう言うと、メイド姿のお姉さんは事務室へと消えていった。

 三分ほどたっただろうか。メイド姿のお姉さんは、ニコニコ顔でもどってきた。


「お待たせしました。でんでん兄弟さんが、ネタをつかうぶんには問題ないらしいです」

「本当ですか!」

「ええ。間違いありません!」


 だったら、一度お客さんの前でやってみよう!

 ひょっとしたら、とんでもないチャンスをつかめるかもしれない。

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