メルフィーアに秘められた力

 彼女は目の前のレバーを握りパネルの表示を

 確認した。



「動作、エネルギー残量問題ないな?」


 そして、ジェネシスに問う。


『ナイ』


「よかった。わたしも役に立てたみたいだ」


『アノ地球人達ハ何者ダ?』


「この国の優秀な人たちとしか言えないかな」



 メルフィーアはあの一連の出来事の後、

 クリムゾンドラゴンごとジェネシスをおじ様に

 紹介した。

 おじ様なる人物はその時が来るのを

わかっていたのか、深く頷き、わかったとだけ

彼女に応えた。


 メルフィーアはクリムゾンドラゴンの

メンテナンスを日本国軍のすごい科学者の皆さんに任せる事にした。

 そして、動力原のエネルギーはしばらくすれば

溜まるので問題なかった。

 一週間くらい経てばほぼ満タンになった。



『トコロデ、メルフィーア』


「どうしたんだ?ジェネシス」


『昨日の夜、格納庫ノ近クデ派手ナ音ガ

シタノダガ、知ッテイルカ?』


「さぁ?訓練の音じゃないのか?」


『ココニキテカラ聞イタ音デ1番派手ダッタカラ

聞イタ。理由ハワカラナイガ、ソノオ陰デ、

エネルギーの充填量モ前回ヨリ多イ』


「じゃぁ、問題ないと思うぞ」


 メルフィーアは笑った。

 内心、彼女はホッとしていたのだ。


「クリムゾンドラゴン!!ゴー!!」



 彼女は巨大トリケラトプスの前に

ドラゴンを走らせた。

 トリケラトプスは興奮しており、

今にもこっちに来そうだ。


「クリムゾンブレイド!!!」


 メルフィーアは紅い騎士に相応しい大剣を

出し、構える。


「来い!!」


 タッ!タッ!タッ!タッ!タッ!

 タッ!タッ!タッ!


 軽やかなリズムを刻みながら、

 トリケラトプスがかけてきた。

 すごいスピードだ。今にもぶつかりそうだ。




 巨大な騎士であるクリムゾンドラゴンは、

 動じなかった。

 剣を構えていた。



 カミト達は地下に用意された巨大な避難施設の

 入り口で見張りをしていた。

 そして、衛星カメラから送られる映像で

メルフィーアの戦いを見守っていた。



「メルフィーア!!危ない!!」


 カミトはその光景を見て思わず、叫んだ。

 目を覆ってしまいそうな光景があると思った。


 ダーーーーーーン!!!!

 ズッサァァァァァァァ!!!!!


 巨大な何かが斬れて、倒れる音が響いた。


「え?」


 彼が見た映像には先程と変わらぬ紅い騎士の姿があった。

 そして、その後ろには真っ二つ裂けた肉塊が

あった。




 ーーーーそうか。剣で切ったんだ。


 カミトはホッとしていた。


 ーーーー頑張れ。今、頼れるのはメルフィーア。貴女だけなんだから。


 祈りながらカミトは映像を見つめた。





『流石ダ。メルフィーア。

 ソノ戦イ方、誰カニ教ワッタノカ?』


 クリムゾンドラゴンのコックピット内では、ジェネシスが賞賛の言葉をパイロットに贈っていた。

 メルフィーアは得意気に応えた。


「わたしを誰だと思っているんだ」


 まるで歴戦の戦士みたいな言葉だなと

 ジェネシスは漏らしかけた。


「待った」


 メルフィーアは即座に異変に気づいた。



 さっき2つに切った怪獣の肉塊が

ゴソゴソ動き出した。

 しかも不気味なことに何かが生えている。


 ーーーーザザザザザッ!!!!


 メルフィーアは急いでクリムゾンドラゴンを操った。その肉塊と距離を取るためだ。


 ーーーーグチャグチャッ

 ーーーーヌチャヌチャッ


 肉塊は蠢き、一つの塊になった。


 ーーーーメチャメチャッ

    クチャクチャッ

    ヌチャヌチャッ


 肉塊は不気味な音を立てながら形を変えていく。


 クリムゾンドラゴンを動かしていたメルフィーアは

 変に近づかない方がいいと判断した。

 もしものときがあったら大変だからだ。


 そして肉塊は色変えながらなにか別のものになった。

 それはずんぐりむっくりとした肉食恐竜のようだった。


「キシャァァァァ!!!!」


 鼻の上に鋭い角が生えた怪獣は吼えた。


「クリムゾンインパクト!!!!」


 細かく振動する剣で斬りつけようとした。



 ボヨォォォン!!!!


 クリムゾンドラゴンはその大剣と一緒に吹き飛んだ。


 ジュリジュリジュリィィィィィィ!!!!


 地面が擦れる音が大音量で響く。


「ジェネシス。戦い方を変えるぞ!!」


 メルフィーアは両手を覆っていた手袋の片方を外した。

 そして、ポケットにしまっていたであろう安全ピンで指を刺した。


「くっ」


 小さな痛みに苦痛を覚え、メルフィーアは顔を歪ませた。


『メルフィーア、ナニヲスルツモリダ?』


「ジェネシス!わたしは言ったただろ!

 戦い方を変えるって!」


 メルフィーアは叫んだ。

 そして、指の血を滲ませたまま手袋を嵌め直さず、

 彼女はレバーを握った。


「・・・・クッ」


 貧血を起こすほど出血はなかったが

 彼女は疲弊した。


「クリムゾン!ヴァルカン!ブレイク!!!!」


 クリムゾンブレイドの刀身が赤く光った。


 ーーーージュワァァァァ!!!!

    ゴゴゴゴゴゴ!!


 赤く光る刃が怪獣を切り刻んだ。

 複数の肉塊になった。


 そして・・・・・


 それらは

 変色し、そのまま固まった。


「倒した・・・・・」


 メルフィーアはその光景を見て

そのまま倒れ込んだ。



 ♪♪♪


 カミトのポケットから機械音が響いた。

 カミトはポケットに入っていた通信機を

取り出すと通信機の表示を見た。


 unknownと表示されている。

 カミトは、最悪はおそらくないだろうと思い、

 そのまま通信をつなげた。


『メルフィーアノ友達カ?』


 機械が男の声を紡いでいる。

 そんな感じの声がした。


「誰かは知りませんが、友達と言うよりライバルと呼んでくれた方が彼女らしいですよ」


 動かなくなったクリムゾンドラゴンを映像で見ながらカミトは応えた。


『フフッ』


「何を笑っているんですか?」


 いろいろ言いたい気持ちを抑えながらカミトは返した。


『スマナイガ、頼ミガアル。

 クリムゾンドラゴンノ首ノ後ニ緊急脱出孔ガアル。

 ソコカラクリムゾンドラゴンノ中ニ

 入ッテクレナイカ?』


「いいですけど、オレがそこで悪さしない保証はないですよ?」


 牽制の意も兼ねてカミトは言葉を返した。


『俺ハオマエガソンナコトヲスルヨウナ男デナイクライワカル』


「へ?」


『気絶シタメルフィーアヲ外ニ出シテヤリタイノダ

 ・・・・生憎、俺ハ今ソノ為ノ身体ガナイ』


「はぁ?」


 カミトはどういうことだと思った。

 クリムゾンドラゴンが自分と話しているのか

 と思えばなんか違うようだ。


『・・・・スマナイガ、頼厶。カミト』


「・・・・いいですが、あなたは何者ですか?」


『俺ハジェネシス。メルフィーアヲ補助スル存在ダ』


 カミトは了承の返事を返し、通信機を切った。

 そして、近くにいた弟アラトの肩を叩いた。


「アラト、オレをクリムゾンドラゴンの近くまで跳ばせるか?」


「いいけど、怪我とかしない?」


「中のパイロットは気絶しているそうだ」


「兄さん、お人好しなんだから」


 アラトの言葉にカミトは無言で睨んだ。


「さて、こっちの準備はできている。頼むぞ」


 アラトはちょっとヒヤッとしたが


「了解!第九楽章!空前絶後!!」


 いつも通りアラトは手早く印を結び、自身の刀を抜き、空を斬り裂いた。


「第十一楽章!電光石火!」


 カミトは印を結び、集中すると全身が光り、

 アラトが斬り裂いた空間の裂け目に消えた。



 カミトが空間の裂け目を通って出た先は

 クリムゾンドラゴンの近くに立っていたビルの屋上だった。

 カミトは言われた通り、首の後ろの当たるところから中に入った。


 少し広い空間、コクピットの中に出たカミトは倒れ込んだ人物を見つけた。

 自分とほぼ同じ身長の人物であるメルフィーアだ。

 肩に腕を引っ掛けて連れていくしかないだろう。


『・・・・キタカ。メルフィーアノコト、頼厶』


 突如、機械音が響いた。


「・・・・」


 戸惑いと驚きを隠せないカミトはメルフィーアに近づいた。

 そして、肩にメルフィーアの腕を引っ掛け彼女を持ち上げようとした。


「誰だー?」


 突如と耳に入るメルフィーアの声。


「・・・・起きていたんですか?」


 カミトは冷静に返した。


「違う。今起きた」


 不機嫌そうにメルフィーアは言葉を返した。


「肩、貸しますよ。少し動けますか?」


「・・・・いやだけど身体が言うこと聞かない」


「別にこれは頼んだのはあなたではないですから」


「なんのこと?」


 メルフィーアはカミトの言葉に食い付いた。


「なんでもないですよ、行きましょう」


 二人は肩を組んだ状態でクリムゾンドラゴンを出た。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る