戦え!クリムゾンドラゴン!!

@syu-inononn

平穏は続かない

 戻った平穏といつもの生活。

 ーーーーいつまでこんな日々が続くのか。

 そんな不安が心をよぎる。


 メルフィーアはいつも通り学校に向かい、教室に入ろうとした。


「おはよー!お願いがあるんだけどいい?」


 いきなりクラスメイトの男子が声をかけてきた。


「おはよう、東(アズマ)。なんだ?言ってみろ」


 メルフィーアは教室に入りながら応えた。


「こないだの入院したカミトに見舞いに行っただろ?」


「あぁ、わたしが原因だからな」


 彼女の当然と言うか素っ気ない様に見える言葉に気後れせず、彼は応えた。


「お願いがあるんだけどいい?」


 彼は両手を合わせて頭を下げた。





「屋上はいいですね~。風が気持ちいいし、

 人もいません。昼ごはんを食べるには

 最適の空間ですね」


「ですねーって・・・・あなたの場合

 クラスメイトたちが絡んできて鬱陶しいから

 とんずらこいただけでしょ?」


 少し大きなフクロウが、自分より少し小さいトートバッグを脚で器用に吊るしながら応えた。


「そんなこと言わずにね!コレあげますから」


 カミトはフクロウから自分の弁当が入っているトートバッグを受けとると、小さいチョコ菓子を食わえさせた。


「これで機嫌取りなんて・・・・・はむ!!

 美味し~~!!」


 フクロウはうっとりした顔で地面に降り、溶けた。

 厳密には膝を折っているだけだが。


「溶けちゃう~」


 そんな一時に突如来客が訪れた。


「カミト、探したぞ」


「なんですか?オレは今から弁当を食うとこです。食べてからにしてもらえます?」


 昼食の弁当を広げて食べようとしているカミトはメルフィーアに対して返した。


「そうだな。わたしも食べるとするか」


 メルフィーアは手に持っていたビニールバッグに入っているパンを取り出すと食べ始めた。




「で、用事とはなんでしょう?」


「・・・・そうだな。聞きたいことがあってな。まず、カミトの父親は何者だ?」


「え?家になかなか帰ってこない呑んだくれですよ」


 カミトは平然と応えた。


「ちょっと!カミト!!旦那様のことをそこまで言わなくてもいいんじゃないの!!!」


 フクロウの抗議の声に対してカミトは口を開いた。


「事実じゃないですか」


「カミト、なんかあったのか?」


 メルフィーアは冷静に言葉を発した。


「あなたには関係ないです」


 カミトの冷たい言葉に怒りを隠せない存在がいた。


「そこまで言わないの!!何も知らないんだから。ごめんなさい。勇者さま、カミトのお父さんは大戦の英雄なの」


「大戦って?えーと、第三次世界大戦の?」


「そう」


「何が人類最強の男だ。ただの人殺しじゃないか」


 カミトはむすーっとした顔で漏らした。



「それを言ったらわたしだって一緒だ。危うく人を何人も殺しかけたんだからな」


「それは不可抗力です」


 ああ言えばこういう。

 メルフィーアはカミトの言葉に気にさわったのだろう。

 そして、それはカミトも一緒だった。



 ーーーー彼女とアイツは同じじゃない。違うんだ。


 カミトのその感情を理解したのか、メルフィーアは話を変えた。


「まぁ、いい。クラスメイトたちの頼まれてたのもあってちょっと気になってたからな」


「そういうことですか」


 メルフィーアは制服のブレザーに隠していた数枚の色紙をちらつかせた。


「こんなもん、ただのおまじないみたいなもんだろ?」


「だから、国軍の連中はあまり好きじゃないんです」


 おそらくカミトは英雄の息子として特別視されるのが嫌なんだろう。

 メルフィーアはそれをわかっていたのかある事実を漏らした。


「言っておくがこないだのクッキーの女の子は違うぞ」


「何を言い出すんですか。いきなり」


 カミトはドキッとした。


「もちろん、礼は言っているよーだな。感心感心」


 メルフィーアはカミトの反応を見て、ウンウンとうなづいた。


「で、わたしにもなにか用事があるのかしら?」


「さえずりさーん!待ってました!」


 さえずりと呼ばれたフクロウは羽を羽ばたかせ、宙を舞い、メルフィーアの肩に止まる。


「どうやらわたしにしか答えられない質問のようね」


「まぁ、もう一人は答えてくれそうにないですから」


「今回は無料で答えてあげる。こないだのお礼もかねてね」


「簡単な質問ですよ」


 メルフィーアは自分の聞いた話を繋げた結果を知るべく口を開いた。


「カミトのお母さんなんですけど」


「はいはい?」


「名前はツクヨミっていうんですか?」


「ぶーっ!!」


 メルフィーアのささやかな疑問を聞いてカミトは盛大に噴いた。


「違いますよ!」


 全力の否定がカミトによって提示された。


「えーとね。ツクヨミ様はわたしの仕事の上司で

 カミトのお母さんはホームステイ先のご主人さん。だからね、全く違うのよ」


「あーそういうことか」


「わたし自身はここら辺の住民じゃないから

 カミトのお母さんみたいな人に

 面倒見てもらっているのよ」


「なるほど」


 メルフィーアは手をポンと叩いた。


「あの、メルフィーアさん。オレの疑問に答えてくれます?」


「なんだ?言ってみろ」


 あっさり胸張って言葉を返されたら言いにくくなる。

 カミトはずっと思っていたことを口にした。


「あの、ロボットはなんなんですか?」


「クリムゾンドラゴンだ」


 メルフィーアはあっさり応えた。


「クリムゾンドラゴンっていうんですか?」


「そうだ」


 堂々と応えるメルフィーアと対し、カミトは戸惑いを覚えた。


「あの巨大ロボット、クリムゾンドラゴンって言ってましたよね?どうやって出したんですか?」


「・・・・気が付いたら呼び出していた」


 メルフィーアは少し考え込んだ後、静かに答えた。


「え??」



「実を言うとだな、わたし自身もわからないのだ」


 メルフィーアはハハハハっと豪快に笑った。


「・・・そうですか」



 カミトはうつむいた。


「なんだ?あれは?」


 メルフィーアは学校の裏山の方を指差した。


 そこには高層ビルと同じサイズの巨大なトカゲがいた。

 トカゲといえばトカゲだ。

 サイの形に似ている変な色のトカゲだ。


「・・・・・・・トカゲにしてはデカすぎじゃないですか?」


 カミトは呟いた。


「おーい!メルフィーア!!先生が探してたぞ!!」


 メルフィーアのクラスメイトの声がした。


「ドラゴーン!!!!」


 メルフィーアはどこからか取り出した剣を天に掲げ、叫んだ。


「逃げろ!!バカ!!」


 剣から放たれている光にメルフィーアは包まれてた。

 その光景が始まった瞬間、カミトは駆け出した。

 そして、屋上近くまで来ていた少年を掴んだ。




 紅蓮の鎧を纏った巨大ロボット、クリムゾンドラゴンは、巨大なトカゲの前に姿を現した。

 サイを彷彿とさせる奇妙なトカゲだ。



「カミト、見ろよ!!トリケラトプスだ!!」


 カミトが連れて行った少年が叫んだ。


「トリケラトプスって恐竜の!?」


 言われて見れば角が三本ある。

 口もオウムっぽい感じだ。

 トリケラトプスの本来の大きさは、

 博物館に収まる程度だが、今ここにいるそれは

 あまりにも巨大で過ぎると言えよう。


「博物館で見たのと色が違うような気が・・・・?」


「だって、あれは想像上だろ?」


 カミトは少年の言葉になにか返そうとしたが

 少し考えてやめた。


 ーーーー確かにそうだ。その通りだ。

 しかし、蒼く光る黒い皮膚と黄金色に輝く角は目立ち過ぎるとしか言えない。


 ーーーー本当にそれはトリケラトプスなのか?


 カミトはひたすらその言葉を抑えた。




「ジェネシス。行くぞ」


 メルフィーアはコクピットに座り、スイッチを押した後、レバーを強く握った。

 メルフィーアが身に纏っているのはブレザーの制服ではない、赤を基調としたパイロットスーツだ。


『・・・メルフィーア、無理ヲスルナ』


「わかっているよ」


 メルフィーアはフフッと笑いながら返した。

 彼女は嬉しいのだ。また、懐かしい日の友人と話できるのが、そして紅の騎士になることが。

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