第7話 実行①


 8月某日、作戦実行の日が訪れた。


 時間は午前7時30分、さっそく俺たちは千波駅を中心に通勤電車内を物色し始める。



 ちなみに、さらに本作戦の成功確率を上げるため、つまりイモ子が痴漢被害に遭う可能性を上げるために、思い切ってイモ子には自身の高校時代の制服を着用してもらうことにした。


 昨晩酔っ払って思いついた考えではあるが、なかなか良い判断だ……と当時は思ったのだが、今日になって冷静になって女子高生姿のイモ子を見ると……。



 うーん、22歳の女子高生か……。



 いや……本人の正体を知っている俺から見ると、かなり痛い子になってしまっているような気がするが。


 元々童顔で体つきも小さいので、なんとか女子高生に見えないこともない。


 ……はずだ!



 しかしここで早くも誤算。

 いや、大誤算というべき事態が発生していた。



 まず最初に気づいたのは、平日の通勤時間帯だというのに、予想よりも電車の乗客が少ないということだった。


 そしてその理由はすぐに判明した。


 俺は社会人になって忘れてしまっていたのだ。

 

 今現在、学生は夏休み期間中だ!



 社会人には夏休みなんてあってないようなものなので、それでも車内にそれなりの人数がいるが、普段はいるはずの学生が差し引かれたため、激混みという程ではなく、それなりに隙間が空いているように見える。



 多分、痴漢っていうのは乗客の過密状態を利用、悪用して犯行に及ぶものだろうから、これは作戦遂行上大きな問題だ。


 そして今回の作戦では、イモ子が痴漢の性欲を刺激して犯行を誘発させるということになっているが、これだけ空間が空いているのに対象に近づいていってはさすがに不自然になってしまう。


 いや、そこまではまだ良いのだけれど(良くはないけど)、もっと分かりやすい問題もあった。



 それは、夏休み期間で周囲には学生が全然いないのに、ひとり、女子高生の制服を着て一人で電車内にたたずむ存在だ。

 一層コスプレ感が増してしまい、見方によってはそういう業界の人に見えてしまう。


 さすがのイモ子も、その不自然な状況に気づいたのか、ムッとした顔で俺に向けて冷たい視線を送ってくる。


 おおぅ、ごめんよイモ子。


 心の中でそう呟く。




 そのまましばらく被害が発生しなかったので、俺たちは適当な駅でその電車を一旦降り、駅構内で新たな作戦会議を講じる。


「ねぇー、先輩! イモ子にだって恥ずかしいと思う感情はあるんだよ? これじゃ

ただの羞恥プレイだよ! しかもイモ子は高校生のときスカートめっちゃ短く改造してたから、これをこの年になって着るの結構きびしいんだよ!?」


 ……ああ、もう、だからごめんって。


 分かったから、悔しそうに顔を真っ赤にしてスカートの両裾を持ち上げながら俺に訴えかけるのをやめなさいな。


 周りから見たら、イモ子の童顔が悪い方向に作用して、まるで社会人の俺がマッチングアプリとかで女子高生を呼び出して、嫌がっているそいつに恥ずかしいポーズを取らせているといったような、別事件の現場になってしまう。



 俺は思わずキョロキョロと周囲に警官が居ないかを確認してしまうのだった。

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