第6話 計画②

 ということで。


 さっそく俺は、「痴漢事件」の罠を貼るための「被害者役の女」を探すことにした。


 正直なところ、これが一番の悩みどころだった。



 俺は大学に4年間通ったものの、卒業後まで交友の続く友人が殆どいない。


 いや、卒業後も数回は何かしらの飲み会に呼ばれたような気もするが、どいつもこいつも仕事の愚痴しか言わないようなつまらない会であり、また、会社を辞めてアルバイトを転々としている俺からすると、つまらなさだけではなく別の居心地の悪さも加わって、疎遠になってしまったのだ。


 そんな中で、今でも連絡が取れる相手、しかも女。



 ……となると、あいつしかいないんだよな。

 大学の2つ下の後輩、妹野江奈いものえな



 そいつは、自分のことを「イモ子」と自称するちょっと痛い子ではあるが、年齢に似つかわしくない童顔で、出るところが出ているなどスタイルも悪くなく、顔も表情も頭もユルそうなところは、ある意味今回のミッションにはうってつけな人物だとも思うのだが、


 ……ちょっと全体的にユルすぎるんだよなー。



 そんな彼女の評価は、出会ったころから変わっていない。

 イモ子はそのユルさのせいなのか、可愛いというよりかはマニア受けしそうな愛嬌のある顔のせいなのか分からないが、学内で一部の男子に結構人気があったようだ。


 そこまでなら別に何も問題がないのだが、俺が聞いた噂によれば、下心で近づいてくる男達に対して誘われたら一切断らないというスタンスから人間関係トラブルを頻発させ、最終的にイモ子をめぐった刃傷沙汰まで発生してしまい、当局がイモ子の人間関係を洗ったところ次々と「関係者」が浮上していき、その中には彼女持ちの男も含まれていたりして、多くの人に影響が及び、騒動がさらに大きくなってしまったとか。


 ちなみにその一連の騒動のことを「芋づる式イモ子事件」と呼んだりするらしい。


 そんで、学校中の特に女性たちから総スカンを食らって、孤立していたところに俺が声を掛けて一緒に酒を飲みにいくことなったのだが、それ以降、なぜか彼女は俺のことを慕ってくれているのだ。


 まあ彼女に声を掛けたのは、同じ学内ボッチ同士ということでなんだか放っておけなかったからというだけなんだけど。



 ……ちなみに俺は彼女には一切手を出していないよ? いや本当に。



 そんな彼女に電話を掛けた翌日のこと。


音瑠ねるせーんぱーい。」


と、どこか気の抜けたような声で俺の住処を訪問してきたイモ子こと妹野江奈。


 何も躊躇せずに玄関ドアを開けて俺の部屋にズカズカと入り込んでくる。

 一人暮らしの男の部屋に。


 ……そういうとこだぞ、イモ子。



 そんな彼女に今回の計画への参戦を依頼したところ、


「えー? なんでわざとイモ子が痴漢されなきゃいけないのー?それって先輩がイモ子の痴漢されているところを見たいっていうことなのー? んー、でもそういえば先輩って自分からは何もしないくせに好きな子を取られては興奮するNTR好きの生粋の変態さんだもんねー?」


等と、拒否する姿勢も見られたが、彼女も過去に痴漢に遭って嫌な思いをしたことがあるのを逆手に取って、悪を懲らしめるために必要なんだとか、その他あることないこと並び立てて熱意を持って説得したところ、


「そーなんだー、すごいねー。 他でもない先輩からのお願いだし、うん、イモ子も痴漢ってマヂむかつくからねー。」


と言ってなんとか快諾(?)してくれたのだった。



 よかった。

 まずは無事に第一歩は踏み出せそうだな。


 うん、よし!



 ……いや、ちょっと待て。



「誰がNTR属性持ちの変態だよ!!」

 


 

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