第5話 計画①

 まずは計画を練らなければな。

 俺の可憐なデビューに向けた作戦の大筋はこんな感じだ。



①まずは電車内で痴漢をしている犯人を発見すること

 

 対象犯罪を「電車内の痴漢」にしたのにはいくつか理由がある。

 まずは、多くの私人逮捕系チューバーがやっていたので、それをそのままパクリ……じゃなかった、参考にできるからだ。


 そして、痴漢というのが弱い立場の女子を狙うという、誰の目にもわかりやすい「卑劣な犯罪」であることだ。

 それは視聴者の共感を得るために大事なこと。



 それと、痴漢というのは、その多くの犯人が劣情を催した普通(?)のおっさんであることも重要だ。

 なにせ、世の中には多くの悪質極まりない犯罪があるが、本気の犯罪集団や反社会組織の連中を捕まえることなんて俺には絶対不可能だ。


 その点、犯人が性欲を持て余したくたびれたサラリーマン等であれば、俺の若さで乗り切ればどうにかなりそうだし、相手方の会社員という守るべき立場があることで、あまり無茶な抵抗を抑制してくれるだろうことに期待もできる。



②その犯行状況を動画で撮影すること


 これは言わずもがなだな。

 動画投稿のための活動だし。


 それに、きちんと証拠を収めることで、相手に下手な言い訳をさせないことができる。

 また、それでも犯人が抵抗しようとしてきたら、「この動画をモザイクなしで公開しますよ。」とか、「会社にバレたらまずいんじゃないですか?」とか言って相手を脅すこともできるだろう。



③その犯人が泣くまで説教すること


 実はこれが一番重要かもしれない。

 なぜなら先に言ったとおり、視聴者は悪が屈するところを見たいはずだからだ。


 そのためには、犯人を捕まえたら、無理矢理にでも人気のない裏路地や、カラオケボックスのような個室に連れていき、下手な言い訳をしてきても動画という確固たる証拠を突きつけて論破して屈服させ、社員証や身分証などを全て奪い取って、アイチューブにモザイクなしで投稿することをチラつかせて、最終的にはカメラの前で土下座までさせてやるのだ。



 ふふ、こいつは……バズるぞ。


 これまでにない確信めいた予感がした。



 そういう「悪者が完璧に屈する場面」にこそ、視聴者の胸はスカッとするはずだ。

 そして、その結果、悪を屈服させた「俺」という存在に「畏敬の念」を覚えるのだ。


 ようし、ようし。



 ……とここまで考え、さらに計画を掘り下げて考えていったところ、様々な問題も浮き彫りになってくる。



 一番の懸念は、


「そもそも、そんなに都合よく痴漢を発見できるのか?」


ということだった。


 俺も昔は通学や通勤のために毎日のように電車を利用していたものだが、一度も痴漢の現場に遭遇したことはない。


 まあ、それは俺がこれまで痴漢を発見しようとか考えずに漫然と電車に乗っていたために目につかなかっただけかもしれないが……。


 どちらにせよ、あまり計画の達成に時間が掛かってしまうのはいただけない。


 動画を投稿したとして、収益を得るまでにはさらに時間が掛かってしまうし、視聴者を獲得するためには単発ではなく、ある程度定期的に犯人逮捕をしなければならない。


 そうなると、運まかせで活動するだけでは足りないよな……。


 うーん……。



 あ、そうか。

 事件が発生しやすいように、こちらが「罠」を仕掛ければ良いのか。



 よしよし、今日の俺の頭は冴え渡っているぞ。


 そういう方針であれば、なんとかうまく作戦がまとまりそうだ。

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