Bパート

 山田は船内で何かを探しているようだった。それが物なのか、人なのかははっきりしない。我々は彼の目的を探ろうと監視を続けた。だが彼は我々の動きに気付いたようだった。それで監視する我々をまいて、その姿を消してしまった。


「手分けして山田を探すんだ。奴はここで何かをしようとしている。急がねば取り返しがつかないことになるぞ!」


 倉田班長の指示で我々は手分けして船内を捜索した。だが山田はなかなか見つけられない。私は許可を取って船倉に入った。もうここしか隠れる場所はないと思ったからだ。

 すると人の話し声がかすかに聞こえた。それを頼りに歩いていくと奥の小部屋に行き着いた。私はその小部屋のドアに耳をつけて中の様子をうかがった。どうも2人の男が言い争いをしている。一人は山田、もう一人は・・・わからない。


「どうしてこんなことをしたんだ! 約束が違う! 悪徳企業の奴らを脅かすだけだって言っていただろ!」

「そんなことは言っていませんよ」

「とぼけるな! 『これであなたはヒーローです』っておだてて起爆装置を作らせただろう。あれをそんなことに使いやがって!」


 やはり起爆装置を作ったのは山田だった。しかし彼は騙されて手伝わされただけのようだ。本当の主犯はもう一人の男というわけか・・・私は2人の会話を聞いてそう思った。


「ふふふ。やっとわかったか!」

「この悪魔め!」

「何とでも言うがいい。だがな、お前も立派な共犯だ」

「なんだと!」

「お前も一緒に来い。もう仲間になったんだ。嫌とは言わせないぞ。これからも我々のために働いてもらうからな!」


 中ではまだ話が続いている。私はさらに話を聞こうとした。だがそれで周囲への警戒がおろそかになってしまった。


「バーン!」


 いきなり頭に衝撃を受けた。私は脳震盪を起こしてふらふらになった。それでも振り返るとケバケバしい化粧をした若い女が立っていた。


「中に入りな!」


 その女はドアを開けて私を後ろから突き飛ばした。私は小部屋の床に倒れ込んだ。顔を上げると山田ともう一人の男がいた。その男をどこかで見たような・・・。そして小部屋の隅に時限爆弾らしいものが置かれているのが見えた。

 女は私のバッグを取り上げて中を開けた。そしてすぐに警察バッジを見つけた。


「お前、刑事デカだな!」 


 女はそう言うと、バッグから拳銃を取り出して私に向けた。


「こいつが外で聞いていたよ!」

「こんな奴も紛れ込んでいたのか。それならさっさとずらかろうぜ!」

「じゃあ、こいつを始末してよ!」


 女が男に拳銃を渡した。だが山田がその前に立ちはだかった。


「やめろ! こんなことはもうやめるんだ!」

「うるせえ! ヒーローにでもなったつもりか!」


 男は山田を殴り飛ばした。山田は床に倒れたが、すぐに起き上がった。


「こんなことしてどうするつもりだ。人を殺したり、爆弾で船を沈めたりして」

「ふふふ。それが狙いよ。我々『赤い爪』の恐怖を思い知らせてやる!」


 それを聞いて私は思い出した。その男はテロ組織「赤い爪」の幹部、藤堂明だ。すると女の方はその愛人の池田順子ということになる。


「さあ、そこをどけ!」

「そんなことはさせない!」


 山田はそう言うと藤堂にとびかかった。


「この野郎め!」

「お前たちの好きにはさせない! 爆弾も解除する!」


 山田は拳銃をもぎ取ろうと藤堂の手を押さえた。2人はしばらくもみ合っていたが、急に


「バーン!」


 と拳銃が暴発した。すると山田が腹を押さえてあおむけに倒れた。その床には血が広がっていく。私はすぐに山田の元に駆け寄った。撃たれた腹からかなり出血している。私は急いで傷を手袋のまま押さえた。


「しっかりしてください!」


 声をかけるが、彼は「うううっ!」と苦しげな声を上げている。その様子を藤堂と順子は冷ややかに見ていた。私は2人に言った。


「このままでは彼は死んでしまうわ!」

「仕方がない。ここで2人とも死にな」


 順子がそう言って合図した。すると藤堂は拳銃を私に向けながらゆっくり時限爆弾に近づいた。そして起爆装置のスイッチを入れた。チカチカと光るデジタル表示が残り時間のカウントダウンを始めた。


「もうすぐ爆弾がドカンだ。お前たちはこの船とともに沈みな!」


 順子はそう言って藤堂とともにドアの方に向かった。


「待ちなさい!」


 私は声を上げた。だがそれ以上、どうすることもできない。


「あばよ! はっはっは」


 順子と藤堂はそのドアから出て行った。その後で「カチャン!」と冷たい金属音が聞こえた。外からカギをかけられたのだ。

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