第15話 見世物

 その翌日。私はご主人さんと一緒に夜会に呼ばれた。

 しかもその際に拘束は外されていない。

 ……なんで?

 思わず突っ込みたくなる。

 何しろ、渡すがこの場にいること自体が分不相応すぎるのだ。

 ここにはメイリスでさえいないというのに。


「ご主人様……私完全に浮いてますよね?」


 周りの視線が痛すぎる。

 これ完全に性的な目で見ているだろうという人もいる。

 ……エロいとでも思っているのだろうか。


 そんなことは無いだろうと、他人事のように言うご主人様に呆れる。

 大体、私は一応奴隷のはずだ。

 なんで誰も突っ込まないの?


 今の私は綺麗なドレスを着ていて、完全に夜会モードだ。だけど、唯一それに見合わないのが、手にはめられている手枷。これさえなければ浮かないのに。


「はあ、ご主人様、私部屋に戻りたいです」


 ただでさえ拘束されてるのも嫌なのに、こんな注目されるような場所にいなければならない状況にいる私が嫌だ。


 お願いだからそんな好奇な目で私を見ないでほしい。


「ご飯を食べてないんだからそう言うのだろう。ほら、食べろ」


 そのあーんが注目を集めている原因になっているんだって。

 ……って、ご主人様は絶対に気付いてないだろうな。


 街のみんなは良い風に言ってくれた。私を好奇な目で、性的な目で見ている人もいたけれど、私を心配してくれていた。だけど個々の人たちは違う。

 偉い人だからこそ、嫌らしい人なのだろう。

 今の私はまさに大衆の目にさらされた哀れな見世物だ。


「どうだ? 美味しいか」


 能天気なご主人様は私にご飯を食べさせてくる。


「美味しいは美味しいですけど……」


 そりゃ、王宮の料理。不味いわけがないのだ。

 でも、空間が良ければもっとおいしいだろうな、と思う。

 馬鹿なご主人様に伝えてもいいのだが、それはあまりしたくない。

 ご主人様には頼りたくない。


「どうじゃ、この夜会は」


 国王が来た。


 ――私の拘束を外してほしい!!


 なんて言えるわけもなく、


 ――私をこの場から離れさせてほしい!


 なんて言えるわけもなく。


「楽しいです」


 そんな心にもないことを言ってしまった。

 そしてその苦痛の時間は、二時間にも及んだ。


「ねえ、メイリスー、足揉んでー。疲れたー」


 本当に疲れた。こんな事本来だったらメイリスに頼むようなことではない。

 でも、もう心に余裕なんてない。


「はいはい」


 メイリスはそう言って私の足をマッサージし始める。

だが、足を揉んで、ふくらはぎに手を付けようとしたときに、彼女の腕が止まる。


「これ……」


 メイリスは私の両足にはめられた頑丈な鉄枷をさする。恐らく足かせがマッサージの邪魔をしたのだろう。


「もう、それが諸悪の根源。これさえなければ私は幸せなのに」


 そう言って足を上下にバタバタさせる。


「幸せになりたいよ」


 その言葉に対して何の言葉も返さず、ひたすらに足を揉むメイリス。


 だが、そのマッサージにはなんとなく愛情が詰まっている。そう感じた。


 翌日、私たちは会議の場にいる。

 ご主人様の隣に座らされて。


「国内の物資として、今年は農作物が不足しており、食料が足りないと言われています。それに対しての対対策はどうしますか」

「それは、王宮に貯蓄してある麦を放出するしか無かろう」

「しかし、その場合……」


 すごくまじめな会議になんで私がいるんだろう。

 いや、理由なら考えるまでもない。ご主人様のためだろう。

 全く何も頭に入ってこない。

 いつの間にか、輸入の話になっている。


 ああ、頭が痛くなってくる。

 しかし、一昨日はあんなにも性的な目で見てたのに、今日は私を前によくまじめな会議ができるものだ。


 ……いや、幾人かちらちらこちらを見ている視線を感じる。

 全く腹立たしすぎる。


「ニナ」


 ご主人様がそう呟く。もしかして、いかに鈍感なご主人様と言えど、この視線には気づいたってことかしら。


「難しいなら無理しないでいい」


 そして、私は半場強引に膝の上に寝かされる。

 これって、膝枕?


 嫌だ。絶対ご主人様がしたいからしてるだけじゃない。

 だが、起き上がれない。

 手足の拘束が本当に邪魔だ。

 個の話し合い中はこれを受け入れろと言うわけか。


 そして、部屋に戻った後も、ご主人様の敵愛は続いた。

 まず、ご主人様に髪の毛をいじられている。

 赤ちゃんがお母さんの髪の毛をいじっているように。

 そう言えば私にもそんな時期があった。思い出すのがやっとくらいの昔のことだが。

 そう言えば、お母さんは今何をやっているんだろう。そのようなことをふと考えた。

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