第14話 王宮

 そして私たちは古い小屋に行った。

 ここは、元々ご主人様が有事の際に備えて買っていたらしい。

 大きな屋敷と小屋を買う事でどちらにも住めるように。

 本音を言えば、お屋敷に行きたかったのだが、それでは目立ってしまうという事らしい。

 なら、私の手枷足枷を外してくれと言いたい。

 それはともかく王様との交渉を済ませるまではここに住むという事らしい。



 そして小屋にあるベッドをそれぞれ使うことにした。


 私は……ご主人様と同じベッドで寝ることになった。

 しかも抱き着かれている。


 暑い、うっとうしい、放してほしい。

 でも、抵抗したってこの拘束からは抜けられないのだろうなと思うと少しげんなりする。


「それで、これからどうするのですか? 国を取り返すのですか?」

「いや、それはリスクしかない。しばらくは隠れながら過ごそう。……だが、いつまでもこのままだといけないことは分かっている。だから俺は、いつか解放軍を作ろうと思っている。この国の王に取り入ってな」


 私としてはそんなたいそうな計画よりも早くこの拘束を解いてほしいのだが。


 そしてそれから数日間。隠れ続けた。食料はほかのメイドたちが買ってくれている。


 だが、本当に暇でどうしようもない。いや、暇なのは前々からか。



 そして数日の時間がたった。


「そろそろここらへんで休むのは中止にしたい。今、メイリスが戻ってきた」


 メイリス。ご主人様は数日前にメイリスを送っていたのだ。交渉役として。


「その結果として、この国としてもかの国は脅威という事で、私は軍に加わることにした」


 そうご主人様は淡々と言った。


「そして、私の能力を買われ、王宮で働くことになった。そこで君たちにも王宮に移ってもらう」


 ……つまりご主人様は本格的にこの国のために働くという事なのか。

 でも、少し疑問も残る、元々国の重臣になるのをあそこまで断っていたのに。


「ニナ、お前のその気持ちもわかる」


 見透かされた?


「確かに私は今まで国には使えていなかった。だが、国に関する仕事はしていた。私は戦いからは目を背けている。何しろ戦場は地獄だ。だが、祖国に愛着がないわけじゃない。だからこそ私は国を取り戻したいんだ」


 そして、ご主人様は椅子から立ち上がる。


「だから、このくにに取り入って、早く祖国を取り戻せるようにしたい。そういうわけだ。みんな頼むぞ」


 その言葉にほかのメイドたちは微妙な顔をしている。

 まあ、そりゃあ、ご主人様に本気で仕えている人は誰もいないわけで。


「私はどうなるのですか?」


 王宮の仕事をするとして、最も厄介なのは私の存在だ。全身を拘束されている私がいたら、早速ご主人様が変態だと思われる。(まあ実際そうなのだけど)


「ニナ、お前もつれていく」


 いやいや、そんな馬鹿な。


「私は王宮に入ったらどうなると思っているんですか?」

「どうもしない。俺にとってお前は生きるために必要なものだ。だから私と来てくれ」


 うーん。私が拘束されてなかったらかっこいいセリフだったんだけどなあ。


「分かった」


どちみちご主人様の責任だし。


 そして私たち一行は王城に来た。


 馬車で来たのだ。

 だが、ここからが問題だ。私の姿が王城でも受け入れられるのか。

 何しろ、拘束姿だからだ。


 私は車いすに乗せられて、ご主人様に押されながら、王様のもとに行く。


 しかし、ご主人様も中々勇気があるなあ。

 こんなの門前払いでもおかしくないのに。(主に私のせいで)



「措置がアルセイドか」


 そう、王が言う。


「そちらの少女は?」

「私は、ニナでございます」


 そう、軽く頭を下げる。

 あまり腕の拘束を見せないように……

 だって恥ずかしいし。


 まあ、足の拘束を見られている時点で、もう遅い気もするけど。



「君は拘束されているのかね? 拘束メイドなのかね?」


 メイドではないと思うけど……


「望むならメイド服に着替えさせましょうか?」


 私の今の服はドレス姿だ。……てか、私メイド服に着替えさせられるの?


「それはいい。それよりもなぜ拘束させているのだ?」


 あ、王様私の期になることを聞いてくれた。ワンチャン、拘束を外しなさい、さもないとお前を国には受け入れんみたいなこと言ってくれないかな?


「それは、深い理由がありまして、ニナには聞かせたくないのです」


 相変わらず私には言えないのね。


「そうか、ならいい」


 私の拘束を外してとか言ってよ……。


「ともかくお前には期待している。子お国のために働いてくれ」

「分かりました」



 そして、王様の会合は終わりを告げた。




「はあ……」


 思わずため息を吐く。


「どうしたんだ?」


 ご主人様がそう言った。

 おおまか貴方のせいなのですけど。



「もしかして、王様が拘束を解くように命じるとでも思っていたのか?」


 重いっ切り図星。


「勿論」

「残念だったな。お前は俺の所有物。お前の拘束を解く日は俺が死ぬまでない」

「それが地獄って言ってるんですけど」

「ははは、運命を恨むのだな」


 そんなことを言って退出していった。仕事がある操舵。



「はあ、本当にさ」


 だめだ、愚痴が止まらない。



「なんで、私だけこんな目に合わなきゃならないの? おかしいよ、おかしすぎるよ。困難なら本当に死んだほうがましだよ」


 あの、イスリハの時と同じことだ。

 あのおばちゃんのもとに逃げたい。でも、もう無理だ。


 ああ、絶望とはこういうことを言うんだなと思った。


 そして、ご主人様と入れ替わるように、メイリスが来た。


「ねえ、メイリス」

「どうしたの?」

「私、一生このままなのかな?」



 不安でいっぱいだ。


「このまま永遠にこのままなのかな」


 そんな私をメイリスはただ撫でてくれる。


「私は……なんで拘束されてるのかな?」


 そう言って私は泣き出す。

 もうどうしようもない絶望を吐いて。


 メイリスには立場上何もできないことは分かっているのだ。

 今この場で私を逃がせばご主人様の心の支えを失い、アルセイド一派の滅亡まで秒読みの状態になってしまうのだ。


 逆に言えば私が逃げれば、ここにいるメイドたちは全員死ぬ可能性すらあるのだ。

 私は逃げられない、その事実を再確認してしまい、また悲しくなる。


 メイリスだって、私の拘束を外すように申告したことがないわけじゃないのだ。ただその際に怒られて罰を受けたことがあるだけで。


 本当にこの世は腐ってる。

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