第16話 過去
ニナは元々貧しい農家の娘だった。
その農家はすでに貧しく、
もはや生活が困難なところまで来ていた。
その家にはすでに四人の子供がいた。男三人と女一人だ。
ある日、その農家はある決断を下した。末っ子の娘を売る決断を。
そして、娘はオークションにかけられることとなった。
首輪のつけられた五歳の少女。農家の娘としては珍しい金色の長髪で、瞳の色は綺麗な青だ。
そして少女はただの農家の娘としては異例の額がかけられることとなる。
そして最終的に一〇〇〇金貨でアルセイドが落札した。
アルセイドは少女に話しかける。
「今日から私が君のご主人様だ」
「私のご主人様?」
少女はきょとんとした表情を見せる。その表情からして、まだ今の状況が理解できていないようだった。
「さて、どう扱うか」
クルセイドはそう呟き、少女を抱きかかえる。
今も腕に手枷がついている。前に両手を繋ぐ枷が。
とは言っても、両の手をつなぐ鎖は長く、ある程度の手の自由は保障されている。
首枷も併せて、奴隷の印みたいなものだろう。
だが、アルセイドはそれを見て、
「これを使うか」
ニヤリとして言った。
少女を屋敷に連れて行き、ベッドに寝かせる。
「さて」おびえる少女に対してそう呟いたアルセイドは早速、少女の手かせを外す。そして、ニナは自由となった手をぶんぶんと振りまわす。
そんな少女の手を強引に後ろ手に手枷をかける。
「え、なんで?」
「君には今からずっと、拘束されたままで生活してもらう」
「っやだ」
少女は必至で手枷をほどこうとする。だが、あくまでも鉄枷。外れる気配など一切ない。
「あがくな。次は足だな」
足にも冷たい鉄の枷をはめていく。
「大丈夫だ。私がずっと君のそばにいてあげるから」
少女にはそんな彼の声が恐ろしい悪魔の声に聞こえた。
それからだった、ニナの人生が地獄になったのは。
まず、おつきのメイドが遣わされた。名をメイリス。ニナより少し年上の九歳だった。
彼女も長い年月奴隷だったのか、すでに憔悴していた。
そんな彼女はニナにいろいろなことを教えてくれた。
数学や、歴史など。
地獄の中でもメイリスは優しく教えてくれるので、その時間は幸せだった、
それから数年たったある日、ニナは異変に気付いた。手に付けられている枷が手を締め付けているのだ。
ニナは泣き叫ぶ。そのあまりもの痛みに。
今すぐにでもこの拘束から逃れたい。
そんな苦しみで。
翌日、その悲鳴を聞いて駆け付けたアルセイドに抱えられた。
アルセイドはニナの細い腕が赤く染まっていることに気が付いた。
内出血している。早く新しい枷を作ってあげなければいけないと思ったアルセイドはすぐさまニナを連れて、枷屋さんに行く。
「この子の枷をサイズがあう物を作ってほしい」
今、ニナの手には手枷がはめられていない。だが、その代わりに縄で手足がしっかりと拘束されている。
ニナはすっかりと衰弱している。
「この子に会う手枷をつけさせてやりたいんだ。縄だとどうしてもしっかりと縛らないといけないからな」
そう、ニナの体には縄が食い込み、じりじりとニナの体力を奪っている。
「私としては、縄での拘束でもいいのだがな」
「……お願い。枷にして」
ニナにとっては枷での拘束も嫌だ。しかし、もはや従うしかなかった。
縄での拘束よりもマシなのだから。
そして、店主はニナの手を触る。縄で追われている華奢な手。
細く、脆い手。店主は残虐な行いだと思ったが、権力者であるアルセイドの前ではそのようなことは言えなかった。
そうしてようやく、ニナの手枷のための方鳥が完了し、二週間後に完成すると言われた。
「てことは、私は後二週間日間、縄拘束?」
「そうだな」
それを聞いた時、ニナの心には絶望を感じた。
それから寝るときも満足に眠れない日々が続いた。
縄のせいで、体の下を縄が這う形のせいで、寝つきが悪い。
手枷だけだと、うつ伏せにしたらましだったのだが、それすら奪われてしまった。
どうしようもない現状。そんな中、段々とニナの精神は削られていく。
「痛い痛いよう」
縄が外れない。その痛みに悶絶する。
手も動かない。足もしっかり縛られたままだ。
恐らく短時間では痛まないのだが、長時間となると話は別なのだ。
「痛い、痛いよう」
そして、その声を聴きメイリスは、
「大丈夫?」
そう聞く。大丈夫なはずはないのだが……
メイリスとしはニナの縄をほどいてあげたいとは思っているのだが、今ニナの縄をほどくと、怒られるのはメイリスだ。
それに、縄をほどけるスキルなどない。
「よしよし」
メイリスは泣くニナを優しくなでる。
そんなニナは不器用に笑った。メイリスに負担をかけないように。
ご主人様に愛される拘束奴隷 有原優 @yurihara12
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