第6話 助け

「何やってるの!!!!」


 部屋に一人の女の人が入ってきた。私の唯一の味方とも言えるメイリスだ。


「何やってるの! イスリハ!!」


 そうメイリスが怒る。そして私の顔は水の中から解放された。

 彼女の顔を見ると本気で怒っている感じだった。


「イスリハ。今、いじめてたわね」

「……」


 そして私はその場にきょとんと座り、彼女達の問答を聴く。


「あなたはニナの苦しみは分かってるの? 分かってないでしょ? あの子はいつも手足を拘束されたままで延々と過ごしてるのよ。確かにあなたもいつも理不尽な暴力をご主人様から受けていて文句あるかもしれない。けど、あの子の苦痛は、苦しみはあなた比じゃない!!!」

「先輩は最近暴行を受けてないじゃないですか!? 私は寵愛を受けてるこの子が気に入らないの!!」

「気に入らない? はあ、あなたには物事を分かっていないわね。そんなくだらない理由でこの子をいじめるということは、貴方は気に入らない人だったらいじめていいと思うの。だったら」


 そう言って彼女はビンタした。イスリハに向かって。


「何するのよ」

「ああ、悪かったわね。あなたが

「……はあ?」

「あなたがやっているのはそういう事よ。私はニナをいじめる人が気に入らない。だからあなたをはたいた。あなたはニナが愛されてるのが許せない。だから、いじめた。同じことよね」

「……」

「もしあなたがこれからもニナをいじめるんだったら私も同じ分だけあなたをはたきます。権力を使ってあなたを徹底的にいじめます。それが嫌なんだったら、おとなしくにニナいじめるのをやめることね」

「……分かりました」


 そう言ってとぼとぼとした足取りでイスリハは部屋を出ていった。


「ありがとう……メイリス」

「当たり前のことをしただけよ。つらかったわね。もう少し早く助けられてたら良かったのだけれど」

「いや、それでもうれしい」

「いやいや、でもやっぱり一番つらいのはニナでしょ。それ……」


 そう言って彼女は私の手枷を軽く触る。


「私たち他のメイドたちなんて、貴方の苦しみからしたら大したことない。私はそう断言するわ」

「毎度のことだけどありがとう。本当に。私の味方はあなただけだよ」


 そう言った瞬間、私の目から涙が出てきた。そしていつの間にか泣き叫んでしまった。地獄から解放された喜びと、彼女のやさしさによって。


 そんな私をメイリスは優しく撫でてくれる。


「私さ……」

「うん」

「解放されたい。もう、辛い」

「うんうん」


 そして彼女は私に抱きついてくれた。


 そして泣きしゃぶっている時、ドアが開いた。


「ただいまニナ。今帰った」


 そう後ろから声がする。


「ん? た、何をしている。サボっているのか?」


 その冷たい眼光がメイリスを貫く。


「これは……違うんです。私を助けてくれたんです」

「助けた?」


 今のご主人様に対しては言葉を選んで喋らなければならない。そんな感じが、雰囲気がある。


「私がいじめられていたのを助けてくれたんです」

「いじめていた? なんだと!!! 誰にだ!」


 ご主人様の顔を見ると明らかな怒りの感情を見せている。ああ、自分のおもちゃを汚されてムカついているのだろうな。

 だけど、私としてもあいつがイスリハが罰を受けるのを良しとしたくはない。


「……言いたくありません」

「なぜだ?」

「貴方はその人に罰を与えるでしょ? 私はそれが嫌なんです」

「見せしめになるぞ」

「私は見せしめとか関係なしにそういうのは嫌なんです。だからせめて誰か私をいじめた人がいる。俺はその人を許さないみたいな感じで怒りを買っているというアピールくらいで済ましてください」

「……分かった」


 そう言ってご主人様は私を抱きしめた。


「俺は君を守りたいんだ」


 そして撫でてくれた。今私を苦しめてるのはご主人様なのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る