第4話 抵抗
「さて、食べろ」
「はい」
ああ、なんだろう。バカらしくなって来た。
「おいしいか?」
「おいしいです」
「おいしいならもう少し笑っておくれよ」
「別に笑わない=おいしいくないってことにはならないと思いますけど」
完全なる塩対応。それが私が選んだ手段だった。いつもムカついていたが、今回はさすがに堪忍袋の緒が切れた。もうどうでもいい。
「何か怒っているのかい?」
もちろん怒っている。むしろ怒らない方が変なのだ。
私はどうかしていた。我慢しているなんておかしい。これは私なりの反逆だ。
「もしかして、会話してほしかったら解放しろとでも言っているのかい?」
「うん」
「それは困ったなあ」
「というわけでお願いしますよ」
「ダメだ」
「だったらもう私、死にますよ。もう、こんな人生生きてても無駄ですし」
「なるほど、交渉に失敗したから死を選ぶと」
「はい」
「そんなことなんだあったんだ? 今まで何回そんなことを言った。お前にはそんな勇気はないだろ」
「……」
正論だ。そもそも私に舌を噛み切るなんて芸道が出来るわけが無いし、そもそもそんな覚悟なんてない。
「なら、死んでみろ。お前にはできないだろうがな」
「はい、そうですね」
「ならどうする?」
「私には魅力が無いと見せつけるだけです」
拘束して鑑賞する魅力がないと。
「解放がむずいと思ったら魅力がないと思わせるか。単純だな」
「いいんですよ。私にはそれしかありませんから」
「なるほど、なら我慢勝負と行こうか。俺がお前に諦めさせるのが先が、俺がお前を解放するのが先か」
「はい! それで行きましょう」
「それで最初の策はなんだ?」
「ご飯を食べないことです。ご飯が無駄になりますよね。指したら私の価値が無くなるってわけです」
「でも俺はお前に無理矢理食べさせることができるわけだが」
「それは……うーん……」
私は再び考え始めた。
「どうしたんだ? まさかもう破綻したとか言わないだろうな」
「破綻しました」
「ハハハ、そうか。また次の案を考えるんだな」
私は少し焦る。このままではお笑い担当みたいになってしまう。実際ご主人様はにやにやとしている。それを見るのが、普通にムカつく。
「ニナ、ほらあーん」
ご主人様はさっそくスプーンを持って食べさせようとする。
「いらないです」
「お前に拒否権はないはずだが?」
ご主人様は口を無理矢理掴んでこじ開けようとする。
「や、やめてください」
「ダメだ。お前を餓死させるわけにはいかん」
「んむ」
ダメだった。私は結局施しを受けてしまった。
「はあ」
「何をため息をついているんだ?」
「無理矢理食べさせてくるからでしょう」
「そうしないとお前は食べてくれないではないか」
「私は別にもう自由が得られなかったらどうでもいいんですよ」
「どうでもいいか……まあ俺がその立場でも絶望するか」
「だから全てに対してがっかりさせますから」
そして、ご飯が終わったらご主人様のご奉仕だ。
「よし、良い子だ」
ご主人様は私の背中をさする。
「……」
「なにか喋ったらどうだ」
喋らない。喋ったら思う壺になる。
「喋らないならこうだ」
「あははははははははははははははは」
ご主人様は冷静な顔で脇腹をくすぐってきた。
「やめてください! やめてください!」
「だったら喋るのをボイコットするのをやめるんだな」
「分かりましたから、分かりましたから」
そうか、私は何されても抵抗できないんだった。今まで暴力とか振るわれたことがほぼ無かったから忘れてた。
「で、何か喋れ」
ご主人様は頭をなでなでしながら言う。
「ダメです。何も言いません」
「なら、もう一回くすぐるぞ」
「それは本当にやめてください!」
ずるすぎる。これが権力というものか……。
いや、権力ではないか、私が拘束されてるから抵抗を受けないだけだ。
「しかし、お前は可愛いな」
「かわいいとか言っても拘束している事実でプラマイマイナスですから」
「はは、手厳しいな」
「当たり前ですよ」
拘束されているのに、手厳しくない訳がない。
「今日は疲れた。癒してくれ」
「私だって疲れているんですよ」
とは言うものの、愛玩道具になるしかないのは分かっている。
「さて、抱っこさせてくれ」
本当に抱っこされるのが好きではない。ただでさえ身動きがとりづらいのに、さらに抱っこされたらおかしくなりそう。
「はあ、しんどい」
「今なんと言ったか?」
「しんどいと言ったんですよ。当たり前でしょ」
「そうか、だがやめない」
「ずるいです」
はあしんどい。
「さて今日はもう寝ようか」
「もうですか?」
「ああ、お前もイライラして疲れただろ」
「イライラしたのはあなたのせいなんだけど」
「さて、パジャマに着替えてもらう」
「はい」
当然この瞬間も拘束が解かれることはない。結構キツイのに。
「さて、二人の夜を楽しもうか」
「私は嫌なんですけど。離してください」
「ダメだ。お前の役目はなんだ?」
「知りません」
「俺を慰める為だ」
「私には手を出さないくせに」
別に手を出して欲しい訳ではない。冗談で言っただけだ。
「まあ寝るか」
「そうですね」
失望させてやるなんて言ったが、結局うまくいかなかった。私の性格がもう孤独に慣れすぎて、喋るのが楽しくなってしまっているのだ。私の馬鹿、明日にはなんとかしよう。
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