第3話 観賞する
「さてと、お前にはいつものように俺の目の保養となってもらおうか」
「はい」
私が日中にこの屋敷で与えられてる仕事は簡単だ。ただ、座っているだけだ。
この時間私は暇である。手足拘束されて、椅子に座っているだけ。しかも、ご主人様は会話をしてくれるわけでもない。ただただ暇に耐える時間だ。この時間が最も退屈な時間なのだ。せめて本とかを読ませろと思ったが、手足を拘束されてないと、この変態ご主人様は満足しないのだろう。
「うん、いいぞ」
そんなことを言いながらご主人様はただただ事務仕事をしている。こんなに奴隷を抱えるには努力も必要なのだろう。
「はあ」
私はご主人様に聴こえない程度の声でため息をつく。
「どうかしたか? ニナ」
どうやら私のため息はご主人に聞こえてたようだ。
「暇なんですよ。何か退屈を忘れられるものはないですか?」
「無い」
「率直に言いますねえ」
「こっちは忙しいんだ」
「もし外していただければ私が手伝いますけど」
「結構だ、お前に理解できるほど簡単な仕事では無い」
「そうは言われましても、暇ですよ」
「大丈夫だ、妄想でもしてたらすぐに退屈は忘れられる」
「ご主人様は拘束されたことがないからそう言えるんですよ」
私は窓の外を見る。
「なるほど、でもいま窓の外を見ているってことは、楽しみを見つけたってことだろ。ならそれで良いじゃないか」
「これもたぶんすぐに飽きます。私に出来ることなんてほぼ無いんですから」
「そうか……」
会話が途切れる。するとすぐに退屈がやってくる。私はまた退屈で退屈で暴れたくなる気持ちだった。もしこの拘束がなかったらすぐにご主人様を殴っていただろう。だが、この後ろ手の拘束がそれを許さないのである。
「ご主人様?」
「……」
ニナは呼びかける。退屈なぐらいだったら怒られた方がいいのだ。子供はよく大人の注意を引くためにあえて怒られるような行動をすると言うが、この時の私の心情こそまさにこれである。
「ご主人様?」
私はまた呼びかける。だが、相変わらず返事はない。いつもこうなのだ。ご主人様から話しかける時は会話ができるが、私から話かける時は会話が成立する気配すらないのだ。思うに、ご主人様は奴隷のことを人間だとは思っていないのだ。もちろん私を含めてである。
「ご主人様?」
「今忙しいから黙ってろ」
「やっと話しかけてくれましたね」
「お前がしつこいからだろ」
「えへへ、もっとかまってください!」
私はお願いする。退屈、それこそが人類の敵なのだ。
「俺がして欲しいことは、黙って俺の目の保養になる奴隷だけなのだがな」
「つまりご主人様が私を拘束してるのってそう言うことなんですね」
「まあ半分はそうだが半分は違うな」
「どう違うんですか?」
「それは言えんな」
「もしかしてあの計画って奴ですか?」
「ああ、答えは言った。もう黙っていろ。」
私は「はーい」とは言ったが、決して黙っているつもりはなかった。
「そうだ! 今の所目の保養はどんな感じですか?」
「……」
ご主人様は無言で返事をする。ご主人様にとってはまたこれかよと言う気持ちだろうと思う。私にとっては構って欲しいからと言うちゃんとした理由があるのだが、ご主人様にとっては、めっちゃ話しかけてくるやつという認識だろう。うざいだろうことはわかっている。たけど、私にとっては……
「私が可愛かったら、拘束なしでいいですか?」
もうヤケクソになって言う。目の保養になったらそれはどんな形でもいいはずだ。
「それは違うな。お前が可愛かったら拘束した時の見た目が倍になるだけだ。それにお前が可愛くなる必要なんてない、お前は元々可愛いんだから」
私は黙る。そんなことを言われてしまっては何も言えなくなる。それに可愛くなっても拘束は外れないと言うことだ。
「ならどうしたら拘束を解いてくれるんですか?」
「俺がお前の拘束を解く日は一生来ない」
私はショックを受ける。もともとそんな日が来るとは思ってはいないが。やはり言葉で言われるのではやはりショックがでかい。
「はあ、どうしたらいいんですか?」
「……」
ああ、これ以上答えるつもりは無いらしい。全く。
「ねえご主人様」
「……」
答えない。
「ご主人様ってばー」
答えない。ご主人様に甘えても無駄らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます