第14話 決意
「お母さん、ご飯美味しい」
「……」
ダメだ。なにも返してくれない。無視するなんて大人気ないと思うが……あの会話の後だとしかたないだろう。
「はあ」
おもわすため息をつく。本当にややこしい事態になってしまった。もちろん菜月には感謝している。だが、もう私には分からない。
「雫」
「なに?」
「明日までに考えておいてね」
もう頭痛いのに、念を押さないでよ。
そして部屋に戻って絵を描く。だが、なかなか筆が進まない。無理も無い、私自身絵を描くと言う行為がよく分からなくなっているのだから。
「はあ、寝るか」
寝たくはないけれど。何しろ今はまだ八時なのだ。そんな時間では眠たくなるわけがない。いや、まあ寝不足だから寝れるんだけど。
「どうしよう」
ベッドに寝ころびながらつぶやく。もうどうしたらいいのかわからない。明日が来ないでほしい、現実から逃れたい。でもそれは不可能なのだ。少なくとも高校生の私には。
「そうだ……」
と、隣に置いていたスマートフォンを手に取る。簡単な話だ、高校生には解決できないのなら大人に聞けばいい。なんでこんなことを思いつかなかったんだろう。
(あの、ゲームの話じゃなくて申し訳ないんですけど。聞いてほしい話が合って、私今、猛勉強して有名大学に入って、普通に就職するか、大学行かないで、親の援助を受けずにバイトをしながら絵師を目指すかという話を親としていて、どっちのほうがいいんでしょうか? 私としては絵師にはなりたいんですけ)
と、ここまで書いたところで字数制限が来た。ある程度の文字数しか書けないから真面目な話をするには字数が足りない。ただ、とりあえずアンケート機能を使っておくか。
(ど、親はやっぱり就職してほしいみたいなんで、もしも絵師を目指すんだったらそんな娘いらないから自分のお金で高校出たらやってくれって言われました。私には決められないのでアドバイスでもあればお願いします)
(私としては行きたくもない大学のために一日七時間もやるのはしんどいです。それに時間を使うぐらいなら、絵をかいたり、ゲームをしたいです。私は大学に行きたくありません)
よし、とりあえずこんな感じでいいだろう。よ、ライトっと。
「ピロン」
ベットに寝転がること三分……最初の通知音が鳴った。
「どれどれ」
と、見る。いいねだけだった。アンケートの方は大学に行くに三票は言っていた。やっぱりそうなるか……
「ピロン」
まただ。次は何だ?
(個人の意見なので話半分で聞いてほしいんですけど、私としては大学に行った方がいいと思います。というのは、大学に行っとくと、絵師で失敗したときに、別の道で再起することが出来るかもしれないからです。高卒で途中就職は難しいです。なので嫌でも、行っとい)
(た方がいいと思います)
そんな感じのことだった。確かに正論だ。だけど、私は社会的ステータス以外に大学に行くメリットを見出せない。そんな大学に行くぐらいなら、もうボート考え事する方がましだ。
(だったら大学に行って授業に出るふりをして絵を描けばどうですか?)
(夢を追いかけよう!)
(大学に行くのは現代人の義務だと思います)
(蜜柑ちゃんが苦しんでるのは見たくない。もう元気で絵をかいたら)
様々な意見が来た。だがやっぱり大学に行く方が優勢みたいだ。でも私は……大学に行く派の意見にすべて反論できるし、何一つとして共感などできない。私はやはり絵を描くべきなのだ。
「よし決めた」
もう明日の答えは完全に決まった。
「はあ」
菜月も同じように考えてた。
「私が変なことを言っちゃったかな」
そんなことはないと思いたい。でも、私の発言で状況を悪化させてしまったのは事実だ。
「明日雫に会うの怖いな」
もしかしたら私のせいだと思われてしまうかもしれない、でもあのままだと雫は過労死していたかもしれなかったこれも事実だ。でも、私の力では交換条件まで持ち込むのが宴会だった。
それに私は雫みたいに勉強をよくやっていたわけではない。だから私にそんなことを言う権利はなかったかもしれない。
「いや!」
私は顔を盤と叩く。私は雫のためを思ってやった。それだけじゃないか。私は十分やった。もしこれであれだったら警察とか私の親とかを使ったらいいじゃん。
「明日話し合おう」
そう決意を込めた。
学校
「菜月」
私はさっそく菜月に話しかけた。もちろん私の結論を言うためだ。
「私大学行かない」
そう高校卒業とともに自立するという選択だ。
「それでいいの?」
「うん。絵師としてやるだけやって無理ならもうあきらめるよ」
漫画にもよくあるセリフだ。
「そういう事じゃなくて。昨日も言ったじゃん、捨てられてるよって」
「それでもいいの、お母さんの言うとおりに育たなかった私が悪いんだから」
「それは洗脳されてるって、お母さんは子どもの望むことをさせなきゃダメなの、知らないけど」
「だから私はもういいの! これでいいの!」
「……」
「菜月ありがとう」
「ちょっと雫!」
それから私は菜月とは話さなかった。何を言われても何も返さなかった。もうこれは私の結論だから。
「お母さん、私大学終わったら家を出ていく」
「そう、寂しくなるわね。あなたが悪いのよ。勉強しないっていうから」
「はあ」
雫の母上崎花枝はため息をつく。こんなはずじゃなかったのだ。自分はただ、親の二の舞になってほしくないし、夫が大学行っていなくて低賃金の仕事しかつけなくて、それが原因で亡くなったのだから大学に行くべきと、そう思っていた。それだけだった。別に苦しめるつもりもなかったし、家を出ろ、高校をやめろと言ったら考え直してくれると思っていた。
別に絵師を否定したいという気持ちももちろんなかった。仕事の合間の趣味としてだったらやってもいいだろうと。ただ、あそこまで本気だとは思っていなかった。こうなってしまってはもう打つ手はない。
別に本気で助けないわけではない。ただ、自分で決めたことは自分一人でやってもらうつもりだ。いつからこうなったのだろう。
そして私は高校もやめた。大学に行かないなら高校も行く必要がないからだそうだ。
(高校やめました。本気で絵を極めます。よろしくお願いします)
と、両方のアカウントでそう時間差で宣言をした。
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