第12話 絶望

「お母さん?」


 私は、インターフォンの先を見て、絶望する。その先にいたのはお母さんだ。少なくとも私には絶望しか見えない。あの地獄の日々が再来する。そう思うだけでもう泣きたくなってくる。


「ねえ、いるんでしょ! 雫!!!」


 そう言うお母さんは鬼気迫った顔をしている。出ないと怒られそうな気がする。


 そして私は出た。


「ほら帰るわよ!!! もうこの子ったら」


 そう、玄関の前で言われた。

 そう言われたら行くしかないと思い少しずつ玄関に向かって行く。

 このドアを開けたくない。だが、開けなければならない。


 そしてドアを開ける。その先には当然ながらお母さんがいた。


「帰るわよ」


 そう淡々と伝えられた。


「もう逃げないでよね。この二週間でどれだけ勉強時間失われたと思ってるの?」

「私はその分絵をかけた」

「それがどうしたの? それあh絵bン協には関係ないよね」


 数日置いた分だけ、ストレスがたまっている。私的には勉強をお母さんをこんなにも焦燥させるくらい大したものとは思えない。


 そして家に連れ返された後、家で二四時間勉強させられる生活に戻ってしまった。本当にもうストレスで爆発しそうな感情を数時間連続で持ってしまっている。


 そして数週間後、お母さんが私に一言断って、外に出かけた。だからと言って外に逃げれるわけじゃない。上手くやられていて、ドアは外に机が固定されており出られないようになっている。そして部屋にはスマホなどもなく、ただ目の前に勉強道具が色々と置いてあるだけ。

つめり、私から勉強以外を奪うための部屋なのだ。お母さんがいなくなったからと言え、何かできる訳でもないのだ。




 side菜月


 私は、学校が終わり、一目散に出た。最近は雫がいないから学校も暇だ。あれから雫を助けるために色々と手を尽くしてはいるが、その全てが中々上手くいかない。

 もう、家に突撃するくらいしかないのだろうか。

 そんな時、「ねえ、ちょっといいかしら」と、声をかけられた。もうわかっている。私に牽制しに来たんだと。私に雫を諦めさせようとしているのだと。


「なんですか?」


 笑顔で返事する。だが、裏ではこれから始まるであろう戦いに備え、言葉を探している。


「ちょっとそこのファミレスでいいかしら」

「いいですけど。なんか宗教の勧誘ですか?」


 ここは一旦怪しがる。急に知らない人が話しかけてきて怪しがらない人はいない。

 そしてファミレスに入る。


「ねえ、私の娘に変なことを教えないでちょうだい」

「なんのことですか?」


 この人が雫の母親ということは分かる。だが、私はそれを知らないと思わせた方がいい。


「娘をかくまったでしょ? 迷惑なのよ」

「娘というのは雫ですか?」

「そうよ」

「なるほど」

「で、なんだけど。あの子は勉強で忙しいの。あの子を変に誘拐するのはやめて」

「たしかに私は雫を家に誘いました。でもそれは泣きそうな顔をしてたからです」


 事実雫はほっといていたらもう死ぬんだろうなという顔をしていた。あれを見て、家に帰らせるという選択肢などない。


「泣きそうな顔をしてた? そんなの知らないわ!」

「雫は勉強が嫌いなんです。それを親のエゴで、勉強させるだなんて」

「させる? それは間違いだわ。雫の将来を安定させるために、私があえて悪役を演じているのよ」


 ああ、救えないなとすぐさま思った。こういう応用力のない大人が自分の子どもを苦しめるんだとも。

 それに悪役を演じているって、それは勝手に演じているだけだと思う。つまり、自分の身を犠牲にして娘の役に立とうとしている自分に酔っているだけだ。実際全く美談ですらないのに。


「……だから、脇役のあなたはかかわらないで頂戴」

「私は脇役じゃない。ちゃんと雫の友達として、雫のためを思って、かくまったんです! 私は、泣きそうな、絶望している雫を見たくなかった。そんな、義務みたいに勉強に向かっている雫を見ていられなかった。だから、今でも雫を無理やり家に連れ戻したあなたが許せません」


 そんな神経を押しつぶしていい大学に行って何の利があるのだろうか。


「大丈夫ですよ。合意を得ましたから」

「無理矢理合意を得たんじゃないんですか?」

「そんなわけないじゃないですか、友達ですよ」


 友達を無理やり連れていく。そんなことをするわけがない。


「余計なことしないでくれる? あの子はあなたとは違うの。将来良い大学に行って、良い職業に就いて、良い家庭をきずくんだから」

「……その言い方だと私は良い家庭は築けないと言うことですか?」


 それは私に対する侮辱ともいえる内容だ。否この世に生きるすべての低学歴の人に対する差別だ。そういう人たちにもいい職業に就いた人はいるというのに。


「……そうは言ってないわ。でもあなたの尺度で測らないで欲しいだけ」

「あなたも自分の尺度で測ってませんか? だったらここに雫を呼んでくださいよ。雫がちゃんと決めることですから」

「雫は今家にいるわ。だから会わせることはできない」

「分かりました。だったら家に行っても良いですか?」

「え?」

「雫の意思を確かめるだけですから」

「そんなこと言って、変なことを吹きこむんじゃ無いでしょうね」

「それを言うならあなたの方だと思うんですけど」

「私そんなことはしないわ。教育してるだけだからね」

「そうですか。まあとはいえ私が変なことを吹き込むんだったら学校でやりますよ」

「まあ良いわ。着いてきなさい」


 そして私は雫のお母さんについていく。


「ここからどれぐらいの距離なんですか? 私雫の家に行ったことなくて」

「そんな遠くはないわよ。十分ぐらいかしら」

「そうですか。ところで勉強は一日何時間させてたんですか?」


 雫からそう言う話は聞いてはいない。


「そうね、五時間はさせてるかしら」

「五時間ですか」


 五時間……私には想像もできない。菜月にとって勉強は一日三十分でかなりできたと思うぐらいなのだ。そのおよそ十倍の量。考えただけでも恐ろしい、これは雫が暗い顔をしてたのも頷ける。


「それぐらいして最低限よ。高校生なんですし」

「最低限……」


 テスト前にしかほぼ勉強しない私には耳が痛い。


「青春はどうなんですか?」

「青春? そんなこと言ってるから大学に落ちるのよ。やっぱり大学入る準備に全部費やさなきゃ」


 やはりこの人の言うことには賛同出来ない。本人がやりたくないのに、勉強をする。青春も無駄にして、したいこともできない。そんな状況を良しと言えるこの人が怖い。


「着いたわね」


 そして、雫のお母さんはドアをノックする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る