第11話 菜月の家

 翌日、私は学校へと行こうとした。だが、それはすぐに無理だと思い知らされる。

 お母さんが学校付近にいたのだ。あと少し発見が遅ければ、また暗闇の中に閉じ込められることとなっただろう。

 私はすぐさま菜月から合い鍵をもらって、お母さんにばれないように、菜月の家に帰った。

 そして家でただ、絵を描き続けた。ひたすら、ひたすらに。


 そして、絵をかいて投稿していると、ライターの私のファン……ライネルさんに(最近登校頻度高いですよね。助かってます……笹村凛さんのかわいい絵を見ることが出来て)


 笹村凛とは私の絵描き垢の名前だ。

 その言葉をもらえると嬉しいなと、思う。前までは今までは一週間に一回投稿できればよかった方なののだが、今は、毎日投降できている。

 幸せだな。


 しかもこうして、誉め言葉をもらえる。おかげで私の自尊心も上がっている。

 そして、四時、今日も菜月は元気に帰ってきた。


「菜月お帰り」

「ただいま……そう言えば新キャラ当たったんだって? 蜜柑ちゃん」

「うん。そう言えばいいねしてたね」

「うん。おめでとう。でも絵の方も頑張ってるみたいじゃん」

「えへへ。だって、頑張ってるもん」


 そう、私はかなりの位置まで来ているのだ。どこら辺まで行けば成功と言えるのかわからないが、フォロワーが増えて言っている私には、もう少しという事がその数字からもわかる。

 その時、フォロー通知とともに、DMが送られてきた。


『見てますからね』


 その名前は上崎美優希……私のお母さんだ。

 そうだった、この前見せてしまったんだ。

 垢ばれしている今、逃げられないかもしれない。そう思うと、怖くなった。

 ライターの仕組み上、今お母さんをブロックしても別のアカウントで私のライターを見られてしまう。

 怖い怖い怖い怖い。


 ああ、どうしよう。


「雫……顔怖い……よ」


 ああ、菜月にも悪い。心配させて。


「大丈夫……私は私は何とか……うん」


 そして私はその日は寝ることにした。難しいことは寝たら忘れられる。うん。


 そして翌日。私は火の光と共に目覚めた。寝たおかげかだいぶ嫌なことは忘れられた。これならなんとか行ける。そして、蜜柑アカウントでライトをチェックし、そのまま絵を描き続ける。

 絵を描いている間は自由だ。他のすべてのことを忘れられる。

 そのまま描き続けること五時間。ようやくお腹が減ってきた。

 ちなみに菜月には絵に集中したいとだけ言っておいた。


 そして、ご飯を食べる。絵はあと少しで完成のところまで来ている。

 そして、ご飯を食べた後、絵を完成させ、今日もライターに上げようとする。するとDMが一件。

 内容を見ると、思った通りだった。

 短文で一言「帰って来なさい」というものだ。


 DMで来るそのメールはある意味でメッセージで来るよりも恐ろしい。

 いや、まだDMで送るほうが良いのだろう。もしも仮にリプライ出来たら、私の社会的立場を失う恐れがある。そう考えればあの日ライターのアカウントを見せてしまったのは間違いだったのかもしれない。

 だけどこれで家に帰ったら地獄が待っているし、そもそも負けだ。

 DMで送ってくる事自体私の居場所が分からないということだ。

 これは根勝負だ。絶対に負けられない。


 そしてそれから毎日新たな絵を描き続けた。自分の思うままに。

 そして菜月との食事を楽しむ。


「雫大丈夫?」


 そんなご飯の最中に菜月がそう言った。

 なんで大丈夫? なんて訊くのだろうか。


「だって、雫今日も無理して笑ってるから」

「そうかな?」


 絵に集中することで忘れかけていると思っていたが、そうではなかったのか。



「笑えばいいんだよ」

「え?」

「だって、笑ったら嫌な事忘れられるでしょ」

「……」

「怖いんでしょ? お母さんが」

「うん」

「だったら、頑張って楽しいことして忘れようよ」

「そうだね」

「それに……雫追い込まれたように絵描いてるじゃん」

「そうだね」

「無理するのもいいと思うけど、しんどかったら行ってね。私はいつでも雫と遊ぶから」

「……菜月が遊びたいだけでしょ?」

「え? そ……そんなことはないけど」

「怪しいなあ……でもありがとう」


 そう感謝を告げる。


「じゃあ、今日はさ、一緒にゲームをしよ?」


 そう言われた。そして私たちは一緒にゲームをする。カートレースゲームだ。

 ちなみに私が勝ちまくった。

 菜月は負けるたびに「悔しい!!」と言っているのを聞くのが楽しい。


「菜月と一緒に居られて楽しい」

「それは私も!」


 そして二人で笑いあう。


 そして翌日、


 ピンポーンと、家のインターフォンが鳴った。今は菜月が学校に行っていていないという事で、私が出る。するとそこにいたのはお母さんだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る