第9話 警察
「さてと。考えましょう」
休み時間休み時間私の菜月は話し合いを始めた。
「まず覚悟はいいの? もしかしたらお母さんが逮捕されるかもしれない」
「それはちょっとなんかちょっと」
私が中学生の時までは良い人だった。良いお母さんだった。だけどお父さんが亡くなってから変わってしまったのだ。それから教育に熱心になった、なりすぎてしまった。おそらくはお父さんの最期の言葉の「雫をしっかりと育ててほしい」という言葉を責任感の強いお母さんが意味以上に感じてしまったのかもしれない。
それで、いい大学に行かせなきゃと思ってるのかもしれない。
まあ、私にとってはいい迷惑だけど。
「それはそうだよね」
「なんか私のことを嫌いになったらどうしようって思って」
あんな親でも嫌われたくないという感情は悲しいが持ってしまう。もはやたった一人の親なのだ。
「それぐらいで嫌いになるんだったら、元から対して好きじゃなかったんだよ」
「あんなに優しかったのにどうして……」
「まだ諦めきれないんだよね」
「うん。高校に行くまでは優しかった」
「そう」
「でも私、頑張る。親離れする」
「その意気!」
警察所
「あの、すみません」
もじもじとする私に代わって菜月が言った。
「これ、見てもらえませんか?」
そして菜月はあの録音を流す。
「それか、SNSのアカウント削除か」
「じゃあSNSのアカウント削除で」
「じゃあ勉強するわよ」
「うん」
「なるほど熱心なお母さんですね。ですが、これを虐待と思うのは、親不孝者ですね」
「は?」
私が言う前に菜月が反抗した。
「最近の雫はおかしかったんですよ。勉強しなきゃ勉強しなきゃって、暗くて楽しくなさそうに勉強してたんですよ。授業中に寝ることも増えて、授業中に倒れたりして。第三者の私から見ても明らかにおかしくて、それで……」
菜月……
「私だって、絵を描きたいのを我慢して、勉強してたんです。でももう嫌でしょうがないんです。勉強が、勉強することが。お願いですから助けてください」
私は今まで人に頼ったことがなかった。勉強することが、親の言うことに従うことが子供の仕事だと思ってた。でも、違った。菜月は私のために行動してくれてる。ありがたいと思うからこそ私もそれに応えなきゃならない。
「あなたの言いたいことはわかりました。しかし、それだけで警察は動きません。全て親の教育の範疇だと思います」
「範疇ですか?」
「ええ。子どもの行動を縛る。これは子どもの教育者である親の行動としては間違ってはいませんし、SNSを消させる。これも現代のSNS社会を鑑みると間違ってはいません。SNSは罵詈雑言が溢れていますしね。あなただっておそらくあるでしょう」
あ、二ヶ月前に、お前の絵、AIで俺の絵をモデルにして作っただろとか言って来た奴がいたし、お前の絵下手すぎだろとも、女性の性的搾取だとも言われたことがある。
確かに否定はできない。
「だから残念ながら行動は間違っているとは言えないわけです。もう少し決定的な証拠を持って来てくれたら良いのですが、我々も暇ではないですし、家庭内の問題に首を突っ込むのは我々としても躊躇われるわけです。冤罪の可能性もありますしね」
返す言葉が無いとはこのことを言うのだろう。完全に論破された。これじゃあ証拠が足りないと言われた。今日全ての決着をつけるつもりだったのに。
「あれ?」
涙が出ていた。泣こうとしたわけでは無いのに。
「……雫……」
「安心してください。組織としては動けないというだけで、私は教育のしすぎは子どもに悪影響を与えると思っていますし、もう少し決定的な証拠を持って来てもらえると」
「わかりました」
そして近くの公園のベンチに座る。
「菜月……」
「……」
無言の時間が続く。完全に目論見が外れた。被害届とか仕組みはよく分からないけど、そう言うのをした方が良いのかどうか全く分からない。
「雫大丈夫。証拠さえ集めて来たら良いんだから」
「そうは簡単に言うけど、これで無理だったら無理だよ」
他の証拠。ボイスレコーダーでもダメなんだったらそれこそ体に傷を負うなど教育の範疇ではないようなことを持ってこなくてはならない。それは無理だ。私は犯罪と呼ばれることなんかはされていない。当然のことながら暴行なども受けていないのだ。
「じゃあとりあえず今日遅れた理由私と遊んでだからって言っておいて。たぶん私に矛先が向くから」
「それって……どういう?」
「いやね、ここ最近私が振り回してるじゃん。二日だけとはいえ。だからさそれで雫が怒られるのもおかしいし」
「なんでそこまで」
「だから友達じゃん。で、話はここからなんだけど。もし、私のところに来たら録音してさらに証拠を集める。そしたらさらに立証出来る可能性がある。あの人の言い方的に、100%無理というわけじゃ無いと思う。だから心配しないで雫」
「え、矛先が向くってそういう意味?」
「うん」
「でも犯罪みたいなことじゃなきゃ立証できないんじゃ」
「大丈夫。知ってるでしょ私のおばさんが弁護士だって。いざとなればそっちに持ち込んでもいいから」
「ありがとう。ありがとう菜月」
私は菜月に抱きついた。
「ちょっとやめてよ。恥ずかしいって」
そんなことを言いながら菜月は私の頭を撫でてくれる。やっぱり菜月は大人だ。
「思ったんだけど、SNSに投稿するのはどうかな? 絵描きの方でもゲームの方でも」
「たぶんそれは辞めといた方が良いと思う。炎上させてしまったら止めるのが大変だから、私たちの生活も邪魔されてしまうかもしれない」
「そっか。難しいのね」
いい案だと思ったんだけどな。
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