第6話 フットボール
「ねえ」
菜月に話しかけられた。
「さっき寝てなかった? しかも変な寝言を言って」
「そんなこと言わないでよ」
「まさか真面目な雫が眠いのですよとか言うとは」
「あー、やめてー、死ぬー」
その声に影響されたのか周りのクラスメイトたちが私のことをジロリと見てくる。私の優等生だという称号が……。
まあでも、私の地獄に比べたら別にいいか。お母さんに知られなければいい。そもそも菜月以外に友達いないし。
「それでさっきの休み時間のことなんだけど」
「う、うん」
私は唾をゴクッと飲み込む。
「あれってどういうこと?」
「……」
どうしよう、本当の事を言うべきなのだろうか。でも、それでお母さんにバレてしまったらと考えると……。
ただ、私としても誰かに言って鬱憤を晴らしたいところだ。
ライターでもあんまり暴露するわけにはいかないし、先生にも言うわけにはいかない。
「雫?」
どうしよう。よし決めた!
「勉強が忙しくて」
お母さんにやらされたことは言わないことにしとく。嘘は言っていない。
「たまには休んでもいいと思うけど」
私だって休みたいよ。でも無理なの!
「でも、私には休めないの。だって、良い大学に行かないと、私はいい仕事に就けないし、将来ダメダメになるかもしれないの!」
私はお母さんに言われた事を言う。ああ、考えるだけでお母さんにムカついてきた。
「それってお母さんが言ってるだけでしょ?」
「そうだけど、でも。遊びたいって思っててもそんなこと言われるし」
もう決めた。菜月には悪いけどストレスの吐き場所にしよう。
「雫は何も悪くないじゃん。それにその理論だと私の将来なんて真っ暗よ」
「……」
私は何も返す言葉が無かった。たしかにそうだ。私の将来が真っ黒なら、他の人はどうなるんだ。
「雫ってまさか勉強している理由ってお母さんに言われたからなの?」
「……」
お母さんに言われた通りにやっている。その言葉に否定できない所か、肯定できる。まさにその通りだ。
「なら、もうそんなのいらなくない?」
「菜月には私の苦しみが分からないくせに」
そして私は顔を机に伏せた。こんなのでこの地獄が終わるわけがない。
そしてそのまま次の授業が始まった。
私は真面目そうに授業を受ける。ただ、もうどうしたらいいのか分からない。菜月はあんなことを言うし、いまはライターも使えないし、絵も描く体力も無いし、眠い。
ああ、もういいや。そして私は再び眠りに落ちる。
「雫? 雫?」
呼ぶ声がする。
「何?」
「あ、今度は変なこと言わない」
「ああ、菜月か」
今回はどうやら起こされずに済んだようだ。だが、お母さんに告げ口されたらと思うと怖い。それに定期テストでいい点を取らないといけないし。
「めっちゃ寝てたよ」
「寝言は?」
それが大事だ。まさかゲームのこと言ってないよね。
「大丈夫、寝言言ってなかったよ」
「良かったー」
また私がオタクと知られたら死んでたところだ。と思ったけど、もはやどうでもいいか。
「……ねえ、本当に大丈夫?」
「大丈夫だから、心配しないで」
そして私はノートを取り出す。定期試験で九十点取らなくてはならないのだ。
「ねえ、やめてよ」
「なんで?」
「雫が壊れる」
「は?」
「明らかに睡眠不足じゃん。なんでそんな頑張らないといけないの?」
「私も思うよ。でも仕方ないの」
そして私はそのまま勉強する。菜月には悪いけどもう私にはこうするしかないの。
その次の授業、眠気の覚めた私はずっと内職をしていた。つまり、テスト勉強だ。幸い先生にもバレずに済んだ。だが、本当は絵を描きたかった。辛いよ。
「次は体育だよ」
「うん」
休み時間にも等しい体育。頭を使わなくてもいい、それだけでハッピーな気持ちにさせる。最高だ。
「がんばろ!」
「そうだね」
いつもは逆なのだが、今回は違う。私が張り切っているふりをしているのだ。多少はまだ眠いが、体育なら大丈夫だろう。
そしてフットボールをする。私と菜月は同じチームだ。
「任せたよ」
「なんか元気出てない?」
元気では無い、元気なふりをしているだけだ。本当は倒れ込みたい。だが、存分悪くは無い。
「行くよ!」
とはいえ私はそこまで好かれてない。なので、パスなどされないのだ。だから、基本的に敵のチームの子の周りにいてパスをされないようにするだけでいいはずなんだけど……それじゃあ私の日々のストレスは発散されない。だから、攻めまくる。私が活躍できるように。
ボールが蹴られるとすぐに私は走ってボールの近くに行って味方の援護? をする。当然パスはされないが、ボールを取れそうな場所に行く。それだけで十分だ。
「えい」
敵のチームの子が私の味方のボールをける。しかし、その先には誰もいない。もらった! 私はすぐさまボールの所に全速力で行く。
「と、とられた?」
ふふ、私のようなガリ勉にボールを取られてさぞ悔しがっているだろう。あとはゴールを決めるだけだ。
「え?」
相手のチームの子が二人かかりでボールを奪おうとする。思ったよりも相手の守備が固い。どうすればいいの?
「雫!」
菜月がいた。まあアシストだけでも活躍してることになるだろう。そう思い、ドフリーの菜月に向かってキックする。そして菜月は見事ゴールを決めた。
「やったー!」
すぐさま菜月のもとに走って行ってハイタッチする。
「すご」
周りの女子はぽかんっとする。まさか私たちがここまでやるとは思っていなかったでしょうね。
「雫」
「うん」
「一緒に頑張ろう」
「おー」
そして……
「なんで全然決まらないの?」
「うん」
すぐさま私たちは現実を直視することになる。全然ボールも取れないし、全然ゴールもできないのだ。
これじゃあストレス解消とかいう問題ではない。
「こんなはずじゃなかったのに」
これじゃあどこでストレス解消したらいいの?
「はあ疲れた」
ため息をつく。
「諦めないでよ雫。まだいけるはずよ」
「そうだね」
ちなみにこんなこと言っているのだが、実はまだこっちが二点リードだったりする。
そして私たちは走り出す。
「雫」
「何?」
「作戦があるの」
それはシンプルなものだった.二人で協力して攻めていこうというものだった。
まず私が追いまくって、菜月がいるほうにパスを出させるか、走らせる。それを菜月が奪おうというものだった。こんなシンプルなもので大丈夫なのかなと思うが、意外にも取れそうなチャンスは何回かで来た。ただ、全部ほかの子に奪われるだけだった。
その後菜月の作戦が不発となった。もはやどうしたらいいのか分からない。
「雫、あきらめないで!」
「あ、うん」
まだ授業時間は十分残っている。
「雫、もう攻めよう」
「うん」
作戦を変えるようだ。菜月がボールのそばに寄ってきた。
そして二人でボールを奪おうとする。
「やった!」
そして私はボールを奪えた。
「雫やったね!」
「うん!」
そして私は攻める。
「うおおああ!」
私は相手チームの子を抜きさって、攻めていく。
「行けー!」
菜月が叫ぶ。
そしてボールは相手チームのサッカーゴールに落ち、点をとった。
「やったー!」
私たちは二人でハイタッチを決める。
そして満足したので後衛の守備に回り、そのまま試合が終わった。
そして……。
「はあ、もうやだ。帰りたい」
私は呟く。もうあれを聞かれたので世間体を気にする必要は無いのだ。当然菜月にも。
「急にキャラ変わった?」
「もう、優等生キャラはやめたの。さっきあんなこと言ってしまったし」
そう言って、教科書を開く。
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