第5話 寝言


「朝だ」


 私は呟く。今は七時半、昨日寝たのが一時四十五分。睡眠時間は約五時間四十五分、六時間も寝てないのか。そりゃあ眠たいわけだ。


「うふぁー」


 私は欠伸をする。眠い。でも昨日みたいに起こされるわけには行かない。嫌味を言われる恐れがあるのだ。


 私はベットから起き上がり、ライターを見る。すると、ガチャ報告があった。


 そうだった、今日は百五十ジェム無料配布の日だった。それに気づき、すぐにゲームを開く。するとジェムが二百六十八個になった。


 よしガチャるぞ。と私は呟き、ガチャ画面をライターに投稿する。これだけでもいいねがもらえるのだ。


「いけー」


 お母さんにバレない程度の小声で言う。


 すると、このガチャで一番強いと言われてるキャラが来た。

 しかし、私はこのキャラをすでに所持している。狙いは男のキャラなのだ。私はもう性能で引くと言うのは通り越してキャラ愛で引いているのだ。


 そしてまた同じキャラが降ってくる。これで三体めだ。せめてどっちかは違うキャラであってほしかった。


「はあ」


 気分が悪くなる。こうなるぐらいならせめて超激レア〇体のほうがよかった。


 私はこのガチャ結果と前回当たった時のガチャ結果を貼り、


(誰かこのキャラ欲しいと思う人は返信欄で教えてください、ゲームシステム上あげられないけど笑)


 とライターで言った。面白い返信が帰ってくるだろう。


 私は頬をバチンと叩いてベットから起き上がり、洗面所に向かう。


 するとすでにお母さんが歯を磨いていた。


「あら、今日はちゃんと起きたのね」


 私を見るとすぐにそう言い放った。


「よかったわ、起こすっていうのも面倒なことだし、自分で起きてくれてよかったわ。仕事が減って」

「うん、私偉いでしょ」


 最後の一言が不要すぎるんだけど。ほんとムカつく。


「さてと、お母さんは早くご飯の用意をしなくてはね。私は雫と違って六時半には起きなきゃならないから大変だ」


 何よそれ、嫌みじゃんと言いたいのをそっとこらえて……


「行ってらっしゃい」


 そう一言だけ言った。


 お母さんが行ってしまったらこっちのものだとポケットに入れてきたスマホを取り出す。


 さっそく通知が十五件来てた。


 中身を見る。

 いいねが十四件、そのうち五件はさっきのライトに対しての物だ。そして返信が一つ来ている。


(ドンマイです)


 そう一言来ていた。


(マジで運営恨みたいです)


 そう返信した。本当にこんな変な運はいらないのだ。この地獄の日々を乗り越えられるだけの運が欲しい。


 そして再び別の返信が来た。


(俺はそのキャラを当てるのに百八十連かかったんですよ。何なんですかね)


 と、帰ってきた。


(悲しすぎます。ドンマイとしか言えないですね)


 私はそんな当たり障りのない返信をした。


 と、そろそろ歯磨きを終わらないと、母さんに怒られてしまう。


「いただきます」


 食卓に着いた。目の前にはたくさんのおいしそうなご飯がある。だが、こんなご飯もお母さんの現実的な話でおいしくなくなるのだろう。思えば昨日から変な話をされてばっかりだ。今回のご飯はおいしく食べられることを願う。


「お母さんおいしい。いつもありがとう」


 今日の朝ご飯は残り物ではない。早起きして朝ご飯を作っていたのであろう。だからと言ってお母さんの評価が今更ああるわけではないが、ほめておいて損はないだろう。


 そして学校に向かう。今日も向かう。行きたく無い。ただ、家の方が地獄かもしれない、それだけで行く気力が湧いてくる。情けない話だ、家なんて休息の場としてあるべきなのに。


 歩いていると、また返信が来た。


(そのうち運の跳ね上がりが来ますって)


 三体同じキャラが出たことに対する、慰めの言葉だ。


「運の跳ね上がりかー」


 誰にも聞こえない程度の声で呟く。


 本当にそんなことあればいいのになと思う。


 確かどこかのゲームであったはずだ。テーブル見たいなやつで、出るキャラは順番に決まっているとか。


 だが、よく考えてみなくても私にはキャラが当たったとしても意味が無いのだ。なにしろ使う時間が無い。いつからだろう、キャラをコレクション目的に集めたのは。


 そして学校に着いた。


「おはよう雫ちゃん」

「うん、おはよう!」

「昨日あの後、一人カラオケしたんだ。見てよこの点数」

「うん、すごいね」


 私は高校入ってからカラオケ行ってないのに。私にはその何気ない一言が嫌みな自慢に聞こえてしまう。


「ねえ雫も今度カラオケ行こうよ」

「ごめん、無理なの」


 そうか、菜月は毎日自由に時間が使えるのか。羨ましい。


「えー、行こうよ」

「予定あるから無理」


 冷たく跳ね除ける。


「ならいつならいけるのよ」

「私には無理なの! 菜月みたいに行きたかったら行けるわけじゃないの!」

「そ、そう」


 やってしまった。怒鳴ってしまった。菜月は何も悪く無いのに。


「なんかごめん」

「……いや、雫が悪いわけじゃ無いし……うん……」


 ああ、空気が悪くなって行く。この私のせいで。


 そしてチャイムがなった。そして無言で別れる。


「はあ、しんどい」


 小声で呟く。今日はいつもより眠たい。


「あれ?」


 授業が始まって数分後異変に気づいた。眠たい。意識が朦朧としている。ああ、だめだこれ。別の世界に誘われて行く。私は寝てはいけないのに……。


 そして視界が真っ暗になった。


「おい」


「おい」


「おい、上崎おきろ!」

「うへえ、まだ眠いのですよ」

「起きろ! 授業中だぞ」

「は! おはようなのです」


 あれ、私……。


「おい、お前、オタクみたいなこと言わずに授業をちゃんと聞け。しかし、お前が珍しいな」

「はあ、すみません」


 まって、私変なこと言ってなかった? やばい、聞かれた?これがお母さんにバレたらまずい。寝てただけでも不味いのに、寝言がゲームキャラなだけでまずい。あ、死んだわ。


「で、この単語分かるか??」

「えーと、殺人事件ですか?」

「そうだな、さすが上崎だ」


 なんとか乗り切れたようだ。でもあの変な声を聴かれたのは事実なのだ。恥ずかしすぎる。


 でも、困ったことに眠いのは全然変わらない。


 はあ、仕方ない。頑張って、眠気を覚まさないと。でも私にはどうしたらいいのかわからない。こんな経験はほとんどないのだ。いや、あると言えばある。だが、その場合は気合いで眠たいのを我慢していた。だけど、今回は気合いでなんとかできるレベルの話ではないのだ。


 そしてなんとか、なんとか授業が終わった。眠気は何故かそこまで覚めていないのだが、なんとか助かった。

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