第3話 友達

 そんな感じで意気揚々としていた私はすぐに絶望することになる。

 暇だ、授業なんてつまらない。これをあと四十分は余裕で死ぬ。


 しかも先生に監視されてる。それだけで私の体力が削られる。今の私は言うなれば太陽の光を浴びだヴァンパイアだろう。秒ごとに体力が削られていく。私に優等生という称号が無かったら、すぐさまガラスを破りたいし、盗んだバイクで走り出したい気分だ。警察のお世話にはなりたくはないけど。


「で、ここでwith his arm closing になりそうなんだけどここはclossed になるんだ。その理由は……」


 はいはい、自分の足が曲げるんじゃなくて、足を脳が曲げさせるからなんだろ。私には分かってますよー。塾でもうやっていますからね。


 はあ、こんなんなら部活に入るとかして、学校行く意味を持ちたいところだ。今だと菜月ぐらいしかない。まあ、お母さんに部活入るなって言われてるわけなんだけどね! 


 思えばお母さんに全て無駄にされてる気がする。まあ仕方ないだろう。親ガチャに外れたのが悪いんだから。ああ、本当に学校に行く意味が分からない。意味を見出すとしたら菜月に会える。ただそれだけだ。


 そしていつの間にか四十分が経った。もう四十分経ったとは思えない。二時間とも思えるし十分しかたってないとも思える。ああ、なんだろう、分からない。この時間の意味が分からない。帰りたい。一〇〇回くらい言っていると思うが、とにかく帰りたい。帰ったところで地獄が待っているのは知っている。ただそれでも……学校が苦痛だ。


「疲れたー、帰りたい」

「あと四時間だから頑張って!」


 授業後に菜月に泣きつかれたので、そう返した。

 自分に言いたい言葉だ。もう学校から逃げたい。教わることがもう全て知っていることなのだ。そんなつまらないことはないだろう。


「ねえ、雫」

「何?」

「私さ、英語もわかんないんだけど、留年してしまうかもしれない」

「もう! 普段から頑張らないからだよ」

「雫が普段から頑張りすぎなんだよ」

「そうかなー」


 私が頑張っている? さっきひたすらゲームのことしか考えてなかったのに。いやまあ学外で頑張っていると言われたらそれはそうなんだろうけど。


「あ、でも英語嫌だ。そうだなんか遊ぼう!」

「遊ぼうって言われてもどうするの?」

「なんか……頼んだ!」

「ええ!?」

「だって、思いつかないんだもん」


 ああ、菜月はやはり、面白い。人生の喜びをくれる。


「じゃあさ、睨めっこしようよ」

「睨めっこ!?」

「何よ、おかしいの?」

「いやそうじゃないけど、まさかの提案だったから」


 ああ、やっぱり。学校が嫌とか言ってたけど、学校に行かなかったら家で母さんと二人きりなのだ。それに比べたら菜月と会話ができる分なんと幸せなんだろう。スマホ触れないけど。家のほうが地獄だから休み時間がある学校のほうがましだ。知らんけど。ただ帰りたいことは帰りたい。家にじゃないけど。


「じゃあいくね、睨めっこしましょ、あっぷっぷー」


 そして菜月は頬を膨らませて目を半分白目にした。


 やばい、普通に笑いそうだ。どうしようか、もう笑いを堪えるのが大変だ。私はといえばベロを出して目を白目っぽくしている。さて、どっちの方がもつのが。


「ぷっ」


 あ、しまった。


「雫の負けー」

「負けてないもん、笑ってないもん」

「言い訳しないでよ」


 ああ、最高だ、もう一生休み時間でいい。勉強なんてどうでもいい。


「もう時間だね」


 私は呟く。またあの地獄に戻らなければならない。家よりは少しだけましなだけの地獄が。


「じゃあまた後でね!」


 菜月は元気な声で言う。


「うんあとで!」


 私も元気っぽい感じで返す。

 本当はしんどくてたまらないのだが。



 そして苦痛な時間が終わって……。


「昼休みだー!」


 やっとライターが触れる。という訳で私は一目散でスマホの電源を入れる。バレる心配はないかって? 他のみんなも結構やってるから大丈夫!


「ねえ、雫」

「なに?」

「またスマホー、昼休みになったらすぐそれだよね」

「これが私の生き甲斐だから仕方ないじゃん。他のみんなも触ってるしいいじゃん」


 少しキレ気味で言った。


「でも、私とも遊んでよ」

「ダメ、これが私の生き甲斐だから」


 そして私はライターを見る。


(え! こんな神引きあるの?)

(いや、こんなところで負けることある?)

(無料ガチャ神!)

(やった人権キャラじゃん)


 どうやら今日は私と違ってみんな当たっていたらしい。羨ましいと思いながら、朝に返信してたと言うことを思い出して通知欄を見る。


(なんか日頃の行いで思い返すことはある?)


 そういう返事が来ていた。


(日頃の行いかー、もしかしたら授業中に絵を描いてたのが原因かも)


 実際、一昨日もこっそり絵を描いていたのだ。

 私がライトした投稿はすぐにいいねがついて、返信された。


(それはダメだよ、蜜柑ちゃん。ちゃんと授業は聞かないと)


 ちなみに私は蜜柑というユーザーネームでやっている。


(えへへ、ごめん)


 ああ、この時間が至福、みんなのライトを見て、いいねをしたり、返信欄で会話したり。最高すぎる。オタク最高! 勉強なんていいや。


「ねえ、雫、またライターして。私とも繋がろうよ」

「だめ!」

「強めに反対しなくても……」

「ライターだったら私頭おかしくなる可能性があるから」


 実際そうだめっちゃキレながら書いた投稿がたくさんあるのだ。それを菜月に見られたら死ぬしかない。


「えー、友達でしょ」

「これ見せたら友達じゃなくなる可能性あるんだけど……」

「えー、そんなやばいの?」


 やばいなんてものじゃない。この間なんて推しキャラが当たらなかったので(あははははははははははは、なんで四〇〇連回して当たらないの? もうこの世界がおかしいよ。滅んじゃえー! あはははははははは)

 なんていう頭おかしいライトをしたことがある。そんな私を菜月には見て欲しくない。見て欲しくないのだ。


 そんなこんなを繰り返してるうちに、新たな返信が来た。


(蜜柑ちゃーん、私も蜜柑ちゃんが神引きすることを願っています!)


「ねえ、私よりその子の方が大事なの?」

「見ないでよ、プライベートの侵害!」

「蜜柑なんて名前なの?」

「やめてよ、もう。見ないで! 殴るよ」

「えへへ、ごめん」


 そして私は無理矢理菜月を追い出して、ライターをいじるのであった。



 そして学校が終わり。


「やっと帰れるー!」

「もう、菜月ったら」


 まあ私も同じことを叫びたいところなんだけどね。私はこれから塾というぞ語句に行かなくちゃならないのよ。ふふふ。


「じゃあまた明日ね!」

「うん!」


 そして私たちは別れる。というわけでまた地獄が始まる。塾に行きたくない、なんで学校で勉強した後に塾に行かなきゃならないんだ。ああ、絵を描きたい、帰りたい、帰りたくない。私には自由な時間は寝る前と移動時間と休み時間しかない。本当に不自由だ。

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