第2話 内職

 私は授業中にスマホを触るという愚策はしない。バレたら、私が授業中にスマホを触っていたことがお母さんにバレる。それ即ち死である。


 スマホを没収される可能性があるのだ。スマホがなくなったら私は死んでしまう。私の心はすざみ、死にたくなるだろう。今の私にとってはほぼスマホだけが生きがいなのだ。パソコンもアイパッドも持っていない私は絵を基本的にはスマホに描いているし。


 その代わりに私は授業を聞きながら、ノートに落書きをする。ただ、普通にノートに落書きするのであればノート回収の時とかにバレる恐れがあるので、紙を用意して紙に書く。


 書くのはもちろん私の推しキャラだ。銀色の顔をした青い目のイケメン、そうまさにこのキャラだ。

 だが、問題がある、教師にばれてはいけないのだ。そのため教師の目に気をつけながら書かなければならない。


 絵を描く趣味はもちろん親にも伝えてはいない。いや、伝えたらだめだというのが正解だろう。もし知られたら大変なことになるかもしれないし、絵を描く趣味があることがばれたら最悪スマホ取り上げの危険性もある。


 頑張って落書きをする。だが、ボールペンを使うわけには行かない。色をつけるのは断念した方が良さそうだ。


 ノートを書きながら、キャラを描く。難しい作業だが、それを可能にするのが私だ!


 今書かなければならない理由がある。家で描く時間がほとんどないのだ。うちの親は家にいる時間はご飯とお風呂と睡眠の時間以外ほとんどつきっきりで監視してくるのだ。家で描くには睡眠時間を削る。それしかないのだ。


 はあ、思ったように描けない。


 先生に見つからないように少しずつ描いてるのだ。当たり前の話だ。私の普段のライトは三十いいね程度だが、絵を描いたら、五〇いいね、十三リライトぐらいは余裕で行く。

 それは私の承認欲求を満たすのに十分だ。本当はもっとまじめな絵をかいて絵描き垢に乗せたいところだが、それはスマホを使わなくてはならないので断念したほうがよさそうだ。


 今日も絵を上げたいところなのになかなか完成しない。ああ授業が無かったらいいのにとすごく思う。私はいつでも絵を書きたい、ライターで友達と話したい、ゲームしたい、遊びたい。だが、学校、しいては受験がそれを許さない。私は勉強したいわけじゃないのに。


 私は絵をかなり描けると思っている。ゲームの絵だけじゃなく、絵描き垢でも私の好きなキャラだけではなく、有名なキャラクターを描いている。それはさらにいいね数が貰える。


 それは当たり前だ、そのキャラはマスコミに押され、ネットで拡散され、推されている。

 そのキャラの場合だと、万バズなんて何回でもしたことがある。でも私はそのことを他人に言えるわけがない。怖いのだ。お母さんにばれるということが。


 その別垢の五万人のフォロワーのために絵を上げたい、だが、授業時間と塾の時間と家でのお母さんに監視された状況で、書く時間をほぼ取れない。寝る前に頑張って三〇分ずつ描いているだけだ。

 そんなことを考えながら書いている時に、


「この問題、上崎さん解けるか?」

「はい、もちろんです」


 先生にあてられた。

 絵を描いてる時に邪魔しやがってと言いたいのを我慢して、先生の出した問題を解く。ノートに問題は解いてたので、それを言うだけだ。所詮教科書レベルの問題、すぐに解ける。塾で予習をしているから当たり前なのだが。


「6x3乗➕3X2乗タス5xたすcですね!」


 私はハキハキと笑顔で答える。所詮先生など、こうしていたら授業を聞いてるなと感心するだろう。絵を描いてたなんて知りもしないで。

 しょせん教師なんてそんなものだ。優秀という烙印が押されている私がさぼりをしているなど考えてすらいないだろう。


「やっぱり上崎は天才だな。他のみんなも見習えよ!」


 ああ、やっぱりこの人は気づいてないようだ。これがみんなの反発を招いていると。


 個人を特別視するなんて普通愚策になる。高校生は大体自分が認められたい物だ。たぶん反骨心とかよりも、どうせ先生は雫のことが好きなんだろってクラスメイトが思うという未来しか見えない。


 現に私はクラスメイトにそんな目で見られてることにはもうだいぶ前からわかっていた。これも学校が嫌いな理由の一つなのだ。


「しーずく! おつかれー」

「うん、お疲れ様」


 本当に疲れた。落書きも上手く描けなかったし、授業長く感じたし。でも私は菜月に心配させたくないから今日も笑顔で声を出すのだ。本音を言えば寝たい。だが、心配させるわけには行かない。


「なんか今日の単元、難しく無かった?」


 今日は積分だ。塾でもうすでに全単元が終わってる私にとっては簡単だが、菜月にとっては難しいのだろう。残念ながら私にはそんな感情はなくなってしまった。


「まあ、私には余裕だけど!」


 余裕っていうか、ずっと絵を描いてたし。そもそも授業は半分ぐらいしか聞いていなかった。


「羨ましい! 勉強教えて!」


 羨ましい……か。別にこんな学力はいらないんだけど。


 ネットで絵が上手いと言ったらそれは純粋に褒められる。なぜかというとみんな絵の練習をしているわけではないからだ。


 でも、勉強ができるってライターで言ったら? それはすごいなと褒められるだろう、だが、皆が皆褒めるわけではない。中には勉強できるとか自慢しやがってとか言う馬鹿がいるだろう。学力なんてコンプレックスを持っている人が多いのだ。その理由は単純だ。皆が一回は勉強に取り組んでいるからだ。その点で絵とは違う。


「うん! いいよ!」


 本当は友達だからとはいえ、教えたくない。休み時間に勉強の世界に行きたくないのだ。でも、それで菜月が私から離れていくのが怖い。ネット友達は数十人いるが、現実の友達は菜月しかいないのだ。


「どこか分からない?」

「ん、とねー」


 そして勉強会により貴重な休み時間が十分無くなった。ああ、ライターしたい、ゲームしたい、絵が描きたい。寝たい。


「えーと、今日は副詞構文の話をしようかな!」


 英語の授業が始まった。嫌だ。寝たいけど、変に優等生という称号があるせいで、下手な真似はできない。それにこの先生鋭いのだ、この前授業中にある人がスマホを触っていたのがばれたという事件がある。


 多分この先生の前だったら、絵を描いてたらバレるだろう。仕方ない、この時間は真面目に受けているふりをするか。

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