メイドは昔の話を語る

 リリィ様が急に昔話をしようと提案された。確かに、なかなか皆で話せる話題と言うのも少ないでしょうがなぜこんなことを話そうと思われたのか疑問だ。しかし、これはリリィ様とソフィア様の距離を縮めるいい機会でしょう。ソフィア様にはいくつかリリィ様の幼いころのエピソードを話していたので、今日は何を話すとしましょうか。


「私も昔からお嬢様と一緒にいたので、思い出のほとんどはお嬢様とともに構成されていますから何をお話ししようか悩みますね。」


「セシリアはいつの間にメイドの仕事ができるようになったの? 小さいころだからしっかり覚えていないけど、いつも私と一緒にいてくれたじゃない?」


「それはもちろんお嬢様がお眠りになった後で勉強していたんですよ。小さいころの2歳差ですから活動時間は全然違いました。お嬢様が就寝なさった後で母にいろいろ教えてもらっていたんですよ。お嬢様と一緒にいるのはお嬢様と絆を育むのももちろん大事な目的でしたが、それと同時に私が母からすぐに従者の仕事を教わるためでもあったそうです。」


「へえー、そうだったの。」


 ベティルブルグ家の特性上、どうしても従者の数は少ないので他の貴族の家と違ってお嬢様のお世話に割ける人数もいなかったため、出産を経験していた私の母が乳母に選ばれたそうです。ただ、元から私の教育も並行して行おうとしていたわけではなさそうで、リリィ様のお母様、アンナ様に言われたためと母が言っていた気がします。ただ今は喋らなくてもいいでしょう。


「それにしても、小さいころのお嬢様のお世話はとても大変でした。まだ一人で歩けないころは大丈夫でしたが、一人で歩けるようになってからは本当に大変でした。いろんなものに興味を示して少し目を離しただけでどっか行っていましたから。」


「そ、そうだったかしら?」


「そうですよ。それに母も興味を示すのは良いことだと言ってそれを咎めるどころか助長していましたから、私はいつも怪我をしないかハラハラしていました。それにほら、お嬢様と私と母でピクニックに行くことがあったじゃないですか。母がお昼の準備をするため私と二人で遊んでいた時です。」


「あ~、あの時ね。」


「私はしっかり離れないようにと手をつないで気を張っていました。するとお嬢様が蝶を見つけて、追いかけるためにどんどん森の奥の方に入ってしまわれたのです。手を引いて、戻ろうと言っても聞かないで、ずっと追いかけて奥に行くので私も付いていくしかありませんでした。気づいたときにはどこから来たのかも分からず、迷子になってしまいました。結局しばらく経った後に母が迎えに来てくれましたけど。」


「そんなこともあったわね。」


「へえー、お姉ちゃんもそんな時代があったんだね。でも誰でも一度くらいはあるでしょ。私も森で迷子になったことくらいあるよ。」


「そうですね。皆一度くらいはあるのでしょうけど、お嬢様は何度も懲りずに迷子になるんです。いくら言っても聞かないし、むしろ迷子になって見つからないようになっていく始末でした。」


 後で母に聞いたらお嬢様が迷子になれたのは、母に見逃されていたかららしい。まあ考えてみたらあの母がお嬢様を見失ったりはしないだろう。私が一緒にいるからそこまで心配せずに自由にさせていたらしい。


「……そうね。なんかその当時はね、見つけられたら負けって思っていたからなるべく見つからないように頑張っていたわ。」


「何をやっているのさ、姫。」


「でも、私だって一人だったらそんなことしなかったわ。セシリアがいたから怖がらずに進んでいけたのよ。」


「いい話風にしないでください。おかげで私がどれだけ心配したか。」


「それぐらい、お姉ちゃんがセシリアのことを信頼してるってことだよね。」


「そうであったらいいのですが。まあ、私が言いたかったことは、お嬢様は基本的にわんぱくな性格だったということです。」


「そ、そんなことないわよ。今は違うし、っていうかセシリアのこと全然話してないじゃない。」


「私のことは本当に思いつかなかったので、これでお願いします。……そろそろ一度止まって昼ご飯の時間ですね。とりあえずこれでいったん話は終わりにしましょう。」


 そうして、馬車は止まり休憩の時間に入る。昼ご飯をみんなでとって、少し休憩した後また馬車に乗り込む。今度は、カティの番でしょうか。ある程度の事情は聞いたことがありますが、カティの口から聞いたことはなかったので少し興味がありますね。

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