メイドは不安に思う

「ソフィア、こんばんは。」


「こんばんは、ソフィア様。」


 もう何度目か分からないが、いつものようにお茶を淹れソフィア様に出す。もう、ソフィア様も私たちも慣れたもので、今や自分たちの定位置すらできてしまった。


「こんばんは、セシリア、それにカティ。」


 ソフィア様が席に座り、お茶を飲んで一息をついたところで話を始める。


「ソフィア様。明日は出発の前日なので集まることができません。なので、とりあえずこちらから伝えておきたいことを先に伝えさせていただきます。」


「うん、分かった。目的地まで馬車で早くても2日かかるんだったよね。まあ、体力的に明日は早めに寝たほうがいいよね。それで、伝えたいことって何?」


「当日の馬車の編成なのですが、ソフィア様はお嬢様と私それにカティと同じ馬車に乗っていただくことになりました。」


「馬車の中の時間は長いからさ、その間に姫といろいろ話をしてほしいんだよね。でもさ、姫と二人きりじゃ話題も尽きちゃうでしょ。僕らが一緒に乗れば話し相手になれるし、なによりそこで仲良くなったって言えばソフィアと昼に話すことができるようになるかもしれないからね。」


 私とカティがそう伝えるとソフィア様は嬉しそうに答える。


「ホントに? お姉ちゃんと一緒の馬車に乗れるとは思ってなかったし、ましてや二人が一緒に乗ってくれるなんて、すごい楽しい旅になりそう。」


「それは良かったです。それと、あちらに着いてからはそんなに頻繁に夜に会うことはできなくなると考えておいてください。今伝えておきたいのはこんなところですね。」


「分かった、ありがとう。じゃあ私から。あれから城下街に降りるようになってニコラス君とレオ君に会うことができたよ。」


 と言ってソフィア様が詳しい状況を話してくれた。その後、少し雑談をして今日は明後日に向けた準備もあるので解散することにした。ソフィア様を見送り、カティとともに部屋に戻る。


 ~~~


「やっぱり、姫が言った通りだったね。」


「そうですね。ニコラス様やレオナルド王子に会った時の状況はかなりあっていましたね。」


 ソフィア様がニコラス様と会ったのは、城下街の食料品店が立ち並ぶ一画のことだったらしい。家のお使いに来ていたニコラス様を偶然見つけ、話しかけたのだそう。少しの間、話をして特に何をするでもなくそのまま別れたらしい。

 しかし、レオナルド王子の場合は相手の方から声を掛けられたらしい。そして、いろんな店を回ったりおすすめの食事処で一緒にご飯まで食べたそうだ。

 リリィ様が言うには、仲の良い人ほど会う機会が増えたり一緒に何かすることが多いと言っていたので、もしかしたら今はレオナルド王子と一番仲が良いのかもしれない。確かにソフィア様は今までも王子と勉強を一緒にしたりするほどなので攻略対象の中では一番仲が良いのはあながち間違ってはいないだろう。


「このままだと、やっぱり王子は姫と婚約破棄してソフィアを選ぶのかな?」


「そうかもしれませんね。というよりそうでもないと、リリィ様が婚約破棄されるなんて思えませんから。」


「となると、ソフィアにはもう王子には近づくなっていった方がいいかな?」


「もし仮に王子が、家が決めた婚約を勝手に破棄するような人であれば、むしろリリィ様との婚約を破棄してもらった方が良いのでは? そんな人と結婚しても幸せになれないでしょう。」


「それもそうか。」


「明後日、同じ馬車でソフィア様と話せばこれからは日中でも接触できる機会が増えるでしょう。何と言ってもまだリリィ様たちは1年生ですから卒業までには5年以上あります。その間に情報を集めてできるだけのことをしましょう。すべてはお嬢様のために。」


「分かった。すべては姫のために。」


 カティにはそう言ったものの、やはり私たちだけでは限界があるようにも思える。この屋敷の外に出ることはあまりないため、外の情報を手に入れづらい。早いうちにソフィア様に仲間になってもらったのは良かったが、彼女だけでは手に入れづらい情報も多いだろう。本当にリリィ様を救えるのか少しだけ不安に思う自分がいる。しかし、気持ちを奮い立たせ、とりあえず明後日からのことに集中しようと考え眠りについた。

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