主人公は悪役令嬢と街を歩く

 今日はお姉ちゃんと城下街に遊びに行く日だ。夏休み入ってからというもの、課題をこなすばかりで飽き飽きしていた。ホントは城下街とかに降りて遊んだりしたかったけど、勝手に行っていいものか分からなかったからやめておいた。

 お姉ちゃんにお花を買った時は、侍女のサラさんについてきてもらった上で馬車で出ることになったため、てっきり一人で出歩くのはダメなのかと思っていた。


「お姉ちゃん、準備はできた? 早く行こうよ。」


「ええ。行きましょう。じゃあセシリア、行ってくるから。」


「はい、お嬢様。行ってらっしゃいませ。」


「行ってくるね。」


 お姉ちゃんたちと一緒に朝食を取った後、それぞれ準備をしに部屋に戻った。準備を終えて、セシリアに見送られて家を出る。お姉ちゃんと一緒に出掛けられるなんて本当ににいい日だ。今日は天気もいいし、心地よい風も吹いている。


「今日はどこに行くの、お姉ちゃん。」


「まず、初めに言っておかなければならないことがあるわ。まあソフィアなら大丈夫だとは思うけど、街中では私たちが貴族であることは隠していた方がいいわ。変に仰々しくされたり、逆に悪いやつに目をつけられたりしたくないでしょ。」


「つまり、お忍びってことだね。それなら得意だよ。」


「そう。じゃあどこに行くかって話だけど、……まだ決めていないわ。いくつか、見繕ってはみたけど、まあ歩きながら決めましょう。臨機応変にいけるように馬車を断ったのだから」


「分かった。じゃあとりあえずお店があるところまで行こう。」


 私は、お姉ちゃんの手を引っ張って歩いていこうとする。上擦った声で、お姉ちゃんに制止させられる。


「ちょっと、なぜ手をつかむの?」


「だってお姉ちゃんが言ったんだよ。貴族だとばれないようにって。貴族ならこんなときに手をつないだりしないでしょ。」


「……はあ、そうね。好きになさい。」


「じゃあ、このままでいこう。」


 お姉ちゃんが納得してくれたので、そのまま手をつないでいく。昨日もセシリアたちと話したけど、やっぱりお姉ちゃんは押しに弱いみたい。交渉の時とか自分とは別のことなら毅然とした態度で断れるみたいだけど、いざ自分のことになると途端に弱くなってしまうらしい。そのままのお姉ちゃんでいてほしい気持ちもあるけど、このままで大丈夫かと心配してしまう。


「お姉ちゃんはさ、よく城下街に遊びに行ったりするの?」


「いや、最近はあまり行ってないわね。もう少し小さかったときはセシリアたちとたまに出かけたりはしていたわね。あ、セシリアっていうのは私のメイドのことね。ほら、今日も見送ってくれた。」


「へえー、そうなんだ。メイドとも仲がいいんだね。」


「ええ、そうね。セシリアともう一人、カティって子は私にとって大事な存在だわ。そういうソフィアは家に来るまでは外で遊んだりしていたの?」


「そうだね。私の故郷はすごい田舎だったからさ。家から見えるところに森があったからよく森に入って遊んでたな。私のお父さんはさ、貴族らしい貴族じゃないっていうか貴族と平民を分け隔てなく考えてた人だったから、私もよく平民の子たちと一緒になって遊んでた。当時はあんまりその区別がついてなかったしね。」


 私の家は、辺境ということもありまだ開拓しきっていないところも多い自然に囲まれた領地だった。いろんな動物や植物があったし、友達とみんなで遊んでいた。


「そうだったの。じゃあベティルブルグ家の領地の方が落ち着くかもね。家の領地も自然が多いから。」


「そうなの? 家の領地ってことは、お姉ちゃんの故郷ってことだよね。どんなところなの?」


「そうね、特に面白みがあるわけでもないけど畑や牧場が多くていいところよ。それに、それ以外はあまり自然に手を入れずに残してあるの。だから、貴女も来たら気に入ってくれると思うわ。」


「ホント? じゃあ楽しみにしているね。」


 そんな話をしつつお姉ちゃんといろんなところを回った。外で遊ぶばかりでなく本も読みなさいとのことで、本屋を巡ったり、目を鍛えるためにいろんな出店のアクセサリーや調度品をみて回ったりもした。

 お昼はお姉ちゃんが入ったこともなさそうな雰囲気のお店に迷いなく入っていくからびっくりした。なんでも小さいころによく来た店だそうだ。おいしかったけど、庶民的な味付けだったからお姉ちゃんが食べているのが不思議な感じだった。

 その後も楽しくいろんな店を回ったけど、『ここの花屋さん、お姉ちゃんのために花を買ったところだ。』と言ってしまい空気をおかしくしてしまった。後から気づいたが、お姉ちゃんはその花を受け取らなかったことにしているんだから言うべきじゃなかった。少しギクシャクしてしまったが、お姉ちゃんがすごい心苦しそうな表情をしていたように見えたので頑張って空気を変えて、街を回った。

 最後はお姉ちゃんも笑ってくれていたので、大丈夫だったんだと思う。こんなに楽しい一日はもうないんじゃないかっていうぐらい幸せな一日だった。これからもこんな日々が続いてくれることを願いながら、すっかり私の家になった屋敷に戻る。


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