主人公は試験を終える

「今日はお姉ちゃん何か言ってた?」


 二日ぶりのセシリアたちとの集まりだ。あのお茶会以降、特に意地悪をされていない。次の意地悪まで時間があるのか、それともお姉ちゃんが方向転換したのか、私には分からないためもっぱら最初に聞くのはこの質問だ。


「いえ、ソフィア様に関係しそうなことは特に言ってませんでした。」


「そうだね。もうすぐお母様に会えるみたいなことしか言ってなかったかな。」


「お姉ちゃんのお母さん? そういえば私、会ったことないな。話題に出たりしないからてっきり。そう、いつ帰ってくるの?」


「いつも夏休みの中ほどには帰ってこられますね。毎年その頃にお嬢様たちもベティルブルグ家の領地に戻るので。」


「そうなの? 私もついて行けるかな?」


 そういえばここに家があったからここが領地なのかと思っていたけど、ここは王領だもんね。じゃあ別邸なのにこんな大きい屋敷があるのか、すごいな公爵家。

 ちなみに私はここに来ることがなければ学園の寮で生活することになっていただろう。それはそれで楽しかっただろうが、家に帰るのが憂鬱になっていただろうな。今は逆に家に帰るのが楽しみになっているんだから人生何があるか分からないものだ。


「そうですね、確かなことは言えませんがおそらく一緒に行っていただくことになるでしょう。少なくとも一人でここに残したりはしませんから。」


「そう。楽しみだな。そういえば最近ちょっと集まる頻度減っちゃったよね。いやほぼ毎日だったのはあれだったけどさ、どうかした?」


 最初の頃はどちらかが合図をしたら集まるようにしていたが、いつの頃からか緊急に集まってほしい合図が作られ、緊急でないなら集まらないという合図も作られた。秘密の合図が増えるのは楽しかったが、以前と比べると集合を断られる頻度が上がり週に3、4回ぐらいしか集まれてない。


「ああ、それはね姫に寝不足を指摘されちゃってさ。まあ上手くこのことはごまかせたから大丈夫だったけど、寝不足にならない程度にしないとなって思ったんだよね。」


「カティは動揺しすぎです。お嬢様に聞かれた時に、どうしてああも怪しくなるのか。あれでは、何もなくても不審がられて当然です。」


「そ、そう。まあ何にしてもばれなくて良かった。そっかー。それじゃあ仕方ないね。これから夏休みに入ることだし、どっか違う時間で話せるといいね。」


「そうですね。ところで、夏休み始まる前には試験がありますが勉強の方は大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ、お姉ちゃんとニコラス君とかと一緒に勉強しているから。教え方がいいからすいすい進むんだよね。それによく考えたらここで成績が悪くなったりしたら来年違うクラスになっちゃうかもだから頑張んないと。」


 今までは勉強するよりも体を動かしたり友達と話したりする方が楽しかったし、家庭教師なんてつけられなかったから全然勉強してこなかった。でも今は誰かと一緒に勉強するのは楽しく思えるようになった。


「それはいいね。その調子で頑張れ。そうだ、こっちでもさ悪意の塊について調べてみたんだけどソフィアは何か分かった?」


「うーん、あんまり分からなかったかな。人に聞くにしても急に『悪意の塊って知ってる?』って話しかけるのもおかしいし、難しかったんだよね。」


「そうですか。ありがとうございます。こちらもそこまで重要そうな手がかりは得られませんでした。何か分かり次第共有することにしましょう。」


「分かった。じゃあ今日はこのくらいにしておく? 寝不足にならないように。」


「そうですね。ソフィア様も日中学園がありますから。」


「じゃあ、おやすみだね。ソフィア。」


「うん。二人もおやすみ。」


 二人と別れて、部屋に戻る。この家に来てから早いものでもう半年ぐらいたつ。最初来たときはどうなのかと思っていたけれどとても楽しい生活を送れている。お姉ちゃんも優しいし、セシリアたちとも友達になれた。正直、養父様はあまり関わりがないけど悪い人ではないし、養母様もきっとそうだろう。学園の生活も今はまだ攻略対象の人たちとしかクラスで仲良くなれていないけど、楽しく過ごせている。これからどんどんクラスのみんなと仲良くなっていきたいな。それに、来年も同じクラスで居続けられるように、この試験は頑張らないと。


 ~~~


 試験当日の朝もお姉ちゃんと一緒に登校する。


「とうとう試験が来ちゃったね。緊張してきたなー。」


「普段から勉強をしていれば、緊張なんてしないものよ。いつも通りの実力を発揮するだけなのだから。」


 分かりづらいけど、きっとお姉ちゃんは私を勇気づけてくれているのだろう。『ありがとう、お姉ちゃん。」と返すと、お姉ちゃんは外を向いてしまったけど、セシリアがこっちを向いて口パクで『頑張ってください。』と応援してくれた。お姉ちゃんと同じクラスになるためにもお姉ちゃんと同じベティルブルグの名に恥じないよう頑張ろう。


 ~~~


 そうして、試験が終わり結果が返ってきた。私は学年10位ととてもいい成績を収められたと思ったが、お姉ちゃんに聞いてみたら1位だったらしい。流石はお姉ちゃん、すごすぎる。そうして私たちは夏休みに入った。

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