メイドは計画を変更する
「……というわけなんです。」
私は、ソフィア様に今日聞いた結末を伝える。
「お嬢様は、その後は罰金とか謹慎などと比較的軽い刑で済むと言っていましたが、第二とはいえ、仮にも王子を殺そうとしてしまったのですからそんなものでは済まないでしょう。」
「うん。いくらベティルブルグ家が公爵家だとしてもそれはさすがに軽すぎる罰だと思う。だから、姫はああ言ってたけど僕らは最悪姫が殺されちゃうと思っているんだよね。」
カティが私たちの見解を伝える。リリィ様の処遇以外に嘘をついている様子は見られなかったので、そこまでは真実だと考えられる。
「そうだったのか。まあ、確かにそれなら私が国を救えるってことも納得かも。魔法や魔術はイメージが大事になるけど、光の魔術とかまんま悪を祓うって感じだもんね。悪意の塊っていうのがどういうのか想像しづらいけど幽霊とかお化けみたいな感じかな?」
「それについては、お嬢様も詳しくは知らなそうでした。ただ、もしかしたら貴女が公爵家に来たのもそれ関係の可能性があります。こちらでもいろいろ悪意の塊について調べてみるので、ソフィア様も可能であれば調べてみてください。」
リリィ様は何か思い当たることがないようでもなさそうでしたが、確証をもって伝えられるほどではなかったようでした。ただ、一般的に公爵家が養子を取る、それも実子と同い年の娘を取るなんてありえません。詳しいことは伝えられていませんし、リリィ様もゲームではそうだったからとそこまで深く考えていませんでしたが、何か裏があると考える方が自然でしょう。
「分かった。学園の資料室とか図書館で調べてみるよ。……それでさ、どうだった私の演技? 上手くできてた?」
「……そうですね。お嬢様より上手かったと思いますよ。」
「ホント? やっぱね、私こういうの得意だと思うんだよね。演劇とかやってみようかな
。」
事情を知っている身からすると最初からお茶をこぼそうとしていたように見えましたが、リリィ様も本気で心配していましたし、不自然ではなかったでしょう。
「あ、そういえばさ、お姉ちゃんが婚約破棄されて悪意の塊にとりつかれるとか言ってたけど、そうなるかな? 別にお姉ちゃんが婚約破棄されて負の感情に支配されたりするかな?」
「おそらくはそうならないでしょうね。お嬢様は負の感情に支配されて、悪意の塊にとりつかれることに疑いを抱いていませんでしたが、もうすでにお嬢様の計画は狂い始めていますからね。時にソフィア様、攻略対象との関係はどうなっているでしょうか?」
「もうばっちりだよ。っていうか攻略対象とかそういうのを抜きにしても皆良い人たちばっかりだから普通にこのまま友達として仲良くしていきたいね。話すきっかけはあれだったし最初の方はプライドが高かったり妙にツンケンしてたり大変だったんだよ。でも、話していくうちにその人の個性が分かったり打ち解けたりすることができたんだよね。」
「そうですか。それは何よりです。これからもその調子でお願いしたいのですが、明日からは、もっとお嬢様との時間を増やしていただけますか?」
「……私もお姉ちゃんとの時間が少なくなって寂しかったからいいけど、どうしたの急に? 前までは、学園ではお姉ちゃんとは別れて行動してって言ってたじゃん。」
「それについては申し訳ありません。ただ、お嬢様がどうなるのかを知ることができたのと、ソフィア様がある程度彼らと仲良くなれたため、このようなお願いをしています。今までは、未来が分からなかったためお嬢様の望む通りの筋書きで進めてきましたが、ここに来て将来が分かったためもうそうする必要がなくなりました。」
今までは、どう転ぶのか分からなかったから慎重に事を進めようと考えていましたし、ベティルブルグ家の者であるリリィ様のそばにいたら彼らと接触したりすることは難しかったでしょうから離れてもらっていました。しかしこの先どうなるかを知った今お嬢様と離れているのは得策とは思えません。
「そう? まあセシリアがそう言うんだったらそうするよ。お姉ちゃんともっと話したいしね。」
「ありがとうございます。こちらから伝えておきたいことはこんなところです。何か、ソフィア様から伝えておきたいこととかありますか?」
「そうだなー。あ、ダンス、またお姉ちゃんとダンスしたいからさ、予定を開けておいてくれる?」
「分かりました。私からそれとなく、ソフィア様とダンスをしたらどうかと言っておきます。」
「うーん。後は、特にないかな。」
「そうですか。それでは、最近忙しそうですし、お互い寝不足にならないように今日はここまでにしておきましょう。」
「そうだね。じゃあおやすみ。」
「おやすみなさい。」
「また明日も話そうね、ソフィア。」
ソフィア様を見送った後、片づけをしているとカティに話しかけられる。
「これから本格的に姫の考えと違うことをするけど大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ。私たちは未来が分かるわけじゃないので不安になる気持ちも分かります。ただリリィ様を守るためにはこうする方が良いと考えました。それに心配している暇なんてありませんよ。カティには、調べてほしいことがたくさんあるのですから。」
「ああ悪意の塊のことだよね。とりあえず、この家の資料を探ったりしてみるけど分かんなかったら王宮に忍び込んだりしないといけないかな?」
「まあそこは慎重にしていかないといけませんね。王宮の方は、ソフィア様の方から王子に聞いてもらった上で判断しましょう。しかし、これで目標が明確になりました。リリィ様が悪意の塊にとりつかれないようにすること、これが最終目標になるでしょう。」
「そうだね。でも、婚約破棄についてはどうする? 正直それがなければいいんじゃない?」
「それもそうですが、それは王子次第だと思います。そもそもベティルブルグ家に来るものはほとんど自力で、ベティルブルグ家の秘密に気付いた者だったのですから、幼いうちに婚約をしていたことがそもそもおかしいのです。レオナルド王子はベティルブルグ家のことを嫌っていますし、リリィ様も別に王子のことを好いてはいないので、どうにか円満に婚約を解消する方がいいでしょう。」
そうして、私たちは部屋に戻る。ベッドの中に入って目を閉じる。こう考えてみると私たちはまだまだ知らないことが多すぎますね。だからこそカティにはなるべく多くの情報を探ってきてほしいものです。今日もリリィ様の幸せを願って眠りにつく。
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