悪役令嬢はお茶会を開く

 そして、時は流れてとうとうお茶会の日となった。ソフィアには学園内では近づかないようにしてもらい、攻略対象との仲を深めていってもらっている。ただでさえベティルブルグという家の印象から敬遠されやすいというのに更に養子という複雑な関係によって攻略対象以外とはなかなか仲良くなれていないようだ。ただ、攻略対象たちはそこら辺の偏見がないのか、ソフィアと気兼ねなく接しているようだ。しかし、今日は女子だけのお茶会なので、居心地が悪くないか心配だ。


「皆さん、今日は集まってくれてありがとう。同じクラスになって早一月、親睦を深めるためにこのお茶会を開いたので、ぜひこれを機により仲良くなれるよう今日は楽しんでくれるかしら。」


 そう言って私は、セシリアたちに合図を送り参加者にお茶を入れてもらう。もちろんソフィアのお茶だけは、とびきり熱くしてもらっている。

 お茶会の主催者は私だが、ソフィアも同じ家のため一応主催側にいる。そして、昔からの慣習としてお茶会の主催者が安全ということを示すために先にお茶などを飲む必要がある。ゲームではその際にソフィアがお茶が熱いためにこぼしてしまうという失態を演じる。私は場を取りなして良い姉を演じたため私の評価は上がるものの、その一件でソフィアのクラスでの評価は悪くなってしまう。ゲームの中の私もなかなか上手くやるものだ。

 しかし、今回は私の分も熱くしてもらっている。ソフィアだけに辛い思いはさせたくなかったというただの自己満足だ。

 セシリアたちがお茶を全員に淹れてくれたことを確認してから、お茶を手に取り口に運ぶ。……本当に熱いわね。いつもセシリアが私が好きな温度で淹れてくれていたことに感謝しかないわね。


「あっつ。っあ。」


 ばしゃん。ソフィアがお茶をこぼした音だ。熱いお茶だからソフィアにかかっていないか心配だ。


「ソフィア、大丈夫? セシリア、すぐに拭くものを。」


 すぐソフィアにその場を離れてもらい、大事がないか確認をする。幸い、こぼれたのも少しで服にはかかっていなかったようだ。セシリアに拭いてもらい、カティは濡れてしまったテーブルクロスなどの代わりをすぐに持ってきてくれた。


「少しハプニングがあったけれど、まだお茶会は始まったばかり。ぜひ楽しんでちょうだい。異国から取り寄せた珍しいお菓子もあるのでぜひ手に取ってほしいわ。」


 そう言って、何とか場をつなぐ。まあこの場で一番偉いのは私たちなので特に気にしなくても蒸し返すような人はいないはずだ。

 ちなみに異国から取り寄せたというのは若干嘘が混じっている。特使たるお母様が異国のお菓子を贈って下さったので、ありがたく使わせてもらっている。


 ~~~


「ふう。セシリア、カティ、今日はありがとうね。おかげでお茶会も計画も成功したわ。」


 あの後、特に大きな問題もなくお茶会は終わった。話しやすいようにいつものお茶会のように席を立たないものではなく、いくつか席を用意してはいるものの基本立食パーティーに近い形にしたのが良かったのだろう。



「いえ、当然のことですから。」


「まあ、僕らに任せてくれれば余裕だよ。」


「ふふ、そうよね。そうだ、落ち着いたら言おうと思っていたのだけれどゲームの結末を思い出したの。」


「本当ですか! リリィ様。」


「え、ええ。本当よ。すごい食いつきじゃない、セシリア。そんなに気になっていたの?」


「まあ、そうですね。」


「それでね、結末はどうなったかって言うと、二人とも卒業パーティーは知ってる?」


「卒業式が終わった後に、学園で開かれるパーティーですよね?」


「そう。そこで、いろいろあって私がレオナルド王子に婚約破棄されるの。すると、負の感情に支配された私に悪意の塊がとりついてくるの。」


「悪意の塊?」


「そう。まあ、そこは私も詳しくは知らないからそういうものとして考えてほしいわ。負の感情がつよい人にとりついて暴れてしまうの。その後、暴走した私をソフィアが攻略対象と一緒に光の魔術を使うことで、私を解放するの。」


 悪意の塊はゲームでは明言されなかったけど、おそらくは魔法の集合体と考えられる。魔法は人の強い意思によって発動し、魔力があれば少なからず現実に影響を及ぼす魔法を使える。負の感情は強いため、この国に住むすべての人の負の感情による魔法が少しずつ集まることで、悪意の塊が発生してしまったのだと思う。それが、負の感情に支配された私に引き寄せられてしまったのだと思う。


「その後はどうなったんですか?」


「ああーその後ね、うん。その後は、暴走しちゃった罰として、罰金とか謹慎処分になったね。」


 危ない危ない。うっかり死ぬことをばらしてしまうところだった。ソフィアと攻略対象との仲の良さが足りないと、私を浄化しきれずに悪意の塊ごと殺す羽目になってしまうし、浄化したとしても第二王子を殺そうとした罪によって処刑されてしまう。ただ、そんなことはセシリアたちには言えない。


「……そうですか。」


「これからも、二人にはいろいろ手伝ってもらうから伝えておきたかったの。よろしくね。」


 ~~~


 ソフィアは順調に攻略対象と仲良くなっているみたい。まだ1ヶ月しか経っていないから、恋愛とかには発展していないとは思うけど良い友人にはなっていると思う。でも見ている限りではまだまだソフィアを任せられる人はいないわね。国は、ソフィアが頑張れば大丈夫そうだけど、ソフィアが幸せになるためには私が死ぬまで、私が頑張らないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る