メイドは聞く

「それで今日はどうでしたか?」


 私たちはもうほとんど毎日の恒例となってしまった、台所での話し合いの最中である。リリィ様視点ではまだまだ分からないことが多いので、ソフィア様の話を聞いていきたい。


「ふっふっふ。私ね、攻略対象が誰か分かっちゃったかもしれない。当てていい?ニコラス君とジャック君、マー君にレオ君だよね。」


「マー君?マーク・フィデルツァのこと?だとしたら大正解。すごいね、ソフィア。どうして分かったの?」


「それはね、その人たちと話す機会があったのも理由の一つなんだけど、お姉ちゃんがその人たちの時だけやけに真剣に聞いていたんだよね。だから、この人たちなのかなって思ったわけよ。」


 何をやっているんですか、リリィ様。バレバレじゃないですか。いやこれは読み取ることができたソフィア様を褒めるべきでしょうか。


「それで、ソフィア様。彼らと接触したと言いますが、どのように接触したのでしょう?」


「まあ接触したというか接触されたというか。まあとりあえず話していけばいいか。」


 そう言って、ソフィア様は今日の出来事を話し始める。


「お昼休みに入ってすぐお姉ちゃんがわけわかんないこと言って離れた後、最初にレオ君、レオナルド王子とマー君、マーク・フィデルツァ公爵令息がね話しかけてきたんだよね。言われた内容としてはね、なんか『いじめられてないか?』とか『これからも仲良くしてほしい』みたいなことだったね。」


 ベティルブルグの悪名は知れ渡っていますからね、最近養子になったソフィア様がいじめられていないか心配だったのでしょう。あの王子は小さいころから、ベティルブルグ家をそしてリリィ様を目の敵にしている節がありますからね。それにしても仲良くなるのが本当に早いですね。第一印象がそれほど良かったのでしょうか?


「質問にはどう答えたんです?」


「えっとね、別にいじめられてないよって答えたよ。それに私も仲良くしていきたいなって。レオナルド王子にはレオ君って呼んでいいって言われたし、マーク君にも好きに呼べばいいって言われたからマー君て呼ぶことにした。」


「距離の詰め方えげつないね。それで、次はどっちと話したの?」


「うん、それでまだ時間もそこまでたってなかったから食堂に行くのもなんだと思って、この前見つけていた中庭の噴水に行ってみたのね。で、最近ずっと夜話してるじゃない?だから欠伸が出ちゃってハンカチで拭っていたらニコラス君に話しかけられたの。なんだか泣いている風に見えたらしくて、心配されちゃった。まあ誤解は解けたと思うけど。」


「お嬢様が言っていた出会いとほとんど変わりませんね。では、最期にジャック様と話されたと?」


「うーん、そうだね。話したというよりは、一方的に話されたぐらいかな。その後食堂に行って、お姉ちゃんがいるかどうか確認してたら『邪魔だ。どけ。』って言われたの。確かに邪魔だったかもしれないけど、いきなりひどくない?」


「そうですね。いくら子供とはいえ仮にも貴族、そこまで態度が悪いのは何か事情がありそうですね。……後でこちらでも調べておきます。」


 それにしても実情はどうあれ、おおむねリリィ様が話してくださった展開と変わりませんね。リリィ様の計画が上手くいっているということですか。何か作為を感じるほどですね。これは喜ぶべきことなのか、リリィ様の死が現実味を帯びていると悲しむべきか。さて、これからどうしていくべきでしょうか。


「……ソフィア様、これから先はとりあえずお嬢様とは別行動をしていただけますか?お嬢様曰く学園のどこに行くかで誰と仲良くなれるかが変わるそうです。図書室がニコラス様、修練場がジャック様、歴史資料室がマーク様、そして中庭などがレオナルド殿下だそうです。まずは、一応その辺りに行って少しは仲良くなってもらえますか。」


「まあ誰かと仲良くなるのは好きだからいいけどさ、お姉ちゃんと一緒にいる時間が減るのは悲しいな。それに、お姉ちゃんともっと仲良くなってって言ったのはセシリアたちだよ。」


「そうですね。ただ、今はまだ最終的にお嬢様がどうなるのか分かりませんし、今のところは上手くいっているように見せかけてほしいんです。」


 どうなるのかさえ分かっていればもっと明確に道筋を描けるのですが、まだリリィ様が思い出していないので仕方ないです。


「それと、次の意地悪はもう1ヶ月ぐらい後にあるお茶会でのことなんだけどさ。なんでもソフィアに出されるお茶が熱いんだって。笑っちゃうよね。まあそれぐらいだからそんなに気負わなくて大丈夫。後は、普通に学園生活を楽しんじゃって。」


「分かった。まあ彼らだけじゃなくてクラスの誰とでも仲良くなれるように頑張るよ。」


「それでは、明日も早いことですし今日はこの辺で解散しましょう。おやすみなさいませ、ソフィア様。」


「オッケー、二人ともおやすみ。」


「おやすみ~。」


 ~~~


「順調にいってるのかな?」


「そうですね、リリィ様がソフィア様に嫌われたりすることはなさそうですが、結局どうしてリリィ様が殺されるかの理由が分かりません。早めに思い出してくださるといいのですが。」


「まあそうだよね。僕たちはさ学園の中までは手が届かないじゃん?だからそこ以外で、できることを探すしかないよね。」


 カティの言う通りですね。私たちはできるところで、最大限リリィ様のためになるよう動くしかないですから。幸いソフィア様がこちらの味方になってくれたので学園の中でも少しは関われるようになりましたが、できればもう少し味方がいるといいのですが。そんなことを考えて眠る今日のことでした。

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