悪役令嬢は苦悩する

「はい、皆さんありがとうございました。では初日ですし、この学園の目的から話しましょう。この学園の最大の目的は学術と魔術を修めることです。その昔、初代リベラフィールド王は、荒れていたこの地を強大な魔法を用い平定なさいました。そんなことが可能だったのは、膨大な魔力を持っていたためです。しかし、全員が全員そのような魔力量をもっているわけではないため、少ない魔力で魔法を使えないかそう考えて作られたのが魔術です。先達の努力と工夫によって日々魔術は発展しています。その最先端の魔術をここでは学ぶことができます。」


 ゲームではあまり触れられていなかった部分だが、前世とは違いこの世界には魔法がある。まず、空気中に魔素と呼ばれるものが漂っており、文字通り魔法の素となる。私たちは普通多かれ少なかれ魔力を持っている。これは、自分の色に変わった魔素と考えられている。空気中の魔素を取り込んで自分の魔力とするが、その容量には個人差がある。自分の中の魔力だけを使うのが魔法だ。魔術は、自分の魔力を用いて空気中の魔素を変質させることで発動できる。そのため、魔法よりは少ない魔力で大きな現象を引き起こすことができるが、その分魔力の操作が複雑になる。


「ではそのために魔法適正を確認するので、一人ずつ前に来てここに手をかざして下さい。……皆さん必要ないと思うかもしれませんが、一応規則なのでお願いしますね。実はですね、昔適性を隠されて一大事になったことがあるので、登録通りの適正かどうかを調べる必要があるんです。それに皆さん5歳のころに測ったと思いますが、稀に適性が増えている時もあるので、意味がないわけでもないのですよ。後は仲間の適性を知ることで、相性だったり切磋琢磨できる人を知ることも大切ですよ。というわけで、はい、皆さん来てくださいね。」


 魔法の適性は人によって異なり、属性を持っていないとその属性の魔法は仕えたとしても魔術を使うことはできない。それぐらい魔素を自分の望む通り変質させることは難しい。基本属性は、風、火、水、木、金、土、気の七つだ。これはこの世界の曜日にもなっている。誰でも一つは基本属性を持っている。そして、希少属性と呼ばれる属性がある。ソフィアの持っている光や私の持っている闇などがそうだ。攻略対象の属性はゲーム通りなら、ニコラスが水、ジャック・アデラートが気に加えて重の希少属性持ちで、マーク・フィデルツァが木と金と土、レオナルド王子が全基本属性を持っているはずだ。そして、ソフィアが火と光、私は風と水、闇の属性を持っている。変わっていないかをよく見ていないと。


 ~~~


 やっぱりゲーム通りだった。攻略対象の属性も分かったし、私やソフィアの属性もそのままだった。さて、これからはどうしようか。午前の授業は終わったからこの後は昼休みに入るのだけれど、確かこの時間でソフィアは攻略対象と会うのよね。置いて行けるかしら。


「ソフィア、私は食堂に行くけれどソフィアは少し時間をおいてから来なさい。」


「どうして?一緒に食べようよ。」


「……一人で食べたいの。いいでしょ?」


「ふーん。まあいいや。分かった。じゃあ先行ってて。」


「そう。ありがとね。」


 何にも思いつかなかったけど良かったわ。まあ、これで大丈夫でしょ、きっと。もうソフィアの行動を逐一監視とかはできないわけだし、私のやる事だけしっかりすることにしよう。


 ~~~

「ねえ、セシリア、これでいいのかしら?」


「これとはどういう意味でしょう?」


 ようやく家に帰ることができ、セシリアたちと話し合う機会が取れた。


「ソフィアと仲良くしていることよ。今日も昨日も二人でばっかり行動して他の人と話すことが少なかったと思うの。私が近くにいたら攻略対象たちも話しかけづらいし、私が意地悪するのもしづらいわ。せめて、学校にいる間は離れていないと攻略対象たちと仲良くなっていかないわ。」


「……そうですか。なら、そうおっしゃればいいのでは。一人でいることで社交の経験を積みなさいとか言えば大丈夫だと思いますよ。」


「そうだよ、何かあったら正直にソフィア様に言っちゃうのも手だと思うよ。それでさ、次の意地悪は具体的には何なの?」


「そういうものかしら。次の意地悪ね。私は、近々お茶会を開くのよ。学園で一緒のクラスになった女子を招待して親睦を深めあうっていう名目でね。それ自体はいいのだけれど、その中でソフィアに出すお茶だけめちゃくちゃ熱くして出すのよ。だから貴女たちに協力してもらうことになるわね。」


「姫、それは余りにも小さいよ、器が。」


「何よ。私に言わないでもらえる?これは私じゃなくてゲームの中の私がやったことなんだから。これからもちっちゃいことばっかよ。そんな大それたことできるわけないじゃない。」


「まあまあ。分かりました、お嬢様。では開催は1ヶ月後ぐらいでいいですか?」


「ええ、そうしてもらえる?一応私の学年では女子で一番階級が高いのは私だから、私が開催するまで他の人もできないだろうからできるだけ早めにやっておきたいしね。予定が決まり次第教えて頂戴。」


「分かりました。準備しておきます。」


 確かに小さいことだよね。ゲームの中の私は、どれだけつまらない人物だったのか。シナリオ的に悪役が必要なのは分かるけど、実際やる側の気持ちにもなってほしい。いや、大きいことがしたいわけじゃないけど、こんなことやる必要あるのかなあ?でもセシリアやカティを巻き込んでいるんだ、私が迷ってちゃいけないよな。それに、ソフィアがいい攻略対象とくっつくためにも手を尽くさなきゃ。やることは多いけど頑張ろう。

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