悪役令嬢は自己紹介を聞く

「皆さんそろっているようですね。このクラスの担任を務めるフレッドと言います。よろしくお願いします。このとおり、私は平民ですがこの学園内ではたとえ貴族の方々であろうと、私たち教師の指示に従ってもらいます。この学園では、貴族も平民も関係なくお互いを認め合い高めあうことを国王陛下も望んでいます。」


 今日は学園が始まって二日目、ゲーム的に言えばソフィアが攻略対象と初めて会う日だ。今日もソフィアとともに登園し、教室に来るまでずっと隣で話していたため、正直ゲームの時とはかなり状況が違いそうな気もする。でもセシリアたちも言っていたようにゲームの時も表向きは多少仲良くしているように見せかけていただろうから問題ないだろう。そんなことより攻略対象のことだ。攻略対象は基本的に同級生で、同じクラスにいる。例外もいなくはないが、とりあえず今日は4人の攻略対象の動向を注視していればいいだろう。


「ここにいる者は、敵などではなく将来いろいろな形で国を支えていく仲間です。これから、お互いへの理解を深めるために軽く自己紹介をしましょう。……そうですね、前の方から順番にしてもらいましょうか。」


 前世のことを思い出してから初めて攻略対象たちの声を聞く。私のようにゲームの時と変わっている可能性もあるから注意して聞こう、と考えていると一人目の攻略対象の番が来た。


「ニコラスと言います。至らないところもあるかとは思いますがこれからよろしくお願いいたします。」


 まず一人目はニコラス、平民だ。貧しい家庭の出身で、五人兄弟の長男のため面倒見がよく、よく幼い弟妹に勉強を教えている。いろんな人に選択肢を与えられるように、と教師になることを夢見ている優しい心の持ち主だ。攻略対象の中では一番おとなしく、穏やかな性格だ。


「ジャック・アデラートだ。よろしく。」


 二人目はジャック・アデラート。アデラート子爵家の次男で、所謂不良役だ。ちょっと理由は忘れちゃったけど家のごたごたで現在荒れに荒れているジャックは主人公と出会うことで少しずつ更生していく。力が強く、語気も荒いが、繊細な心を持っている。っとそろそろ私たちの番が来てしまう。ここは一つ、悪役令嬢っぽく話すことにしよう。


「リリアン・ベティルブルグよ。よろしく頼むわ。」


 続いて、ソフィアが自己紹介をする。


「同じくソフィア・ベティルブルグです。これからよろしくお願いします。」


 主人公らしい明るい挨拶だけど、同じくって強調しなくてもいいのよ。その言い方では、ベティルブルグの印象が強くなってしまうじゃない。


「マーク・フィデルツァです。よろしくお願いします。」


 危ない危ない。聞き逃すところだった。マーク・フィデルツァ、三大公爵家の一つで、現在宰相を任されているフィデルツァ家の長男。父親譲りの聡明さで主人公を支えることになる攻略対象の一人だ。ただ後の一人もそうだが、恋に盲目というか周りが見えなくなりがちなきらいがありそうだ。


「レオナルド・リベラフィールドだ。これからよろしく頼む。」


 最後はこの国リベラフィールドの名を冠する者、つまりは王族であるレオナルド王子だ。正義感が強く、私の中では主人公を助けるイメージが一番ある攻略対象だ。一応私の婚約者ではあるが、彼は小さいころからベティルブルグに近すぎたためか悪名高いベティルブルグのことを非常に嫌っている。

 とりあえず全員分の自己紹介を聞いたところでは、特に性格や行動が変わっているわけではなさそうだ。まだ決めつけるのは早計だが、おそらくはゲームの時と大きく変わっていることはないだろう。もしかしたらこの中の誰かがソフィアと結婚することになるかもしれない。物語の上では結ばれればめでたしで終わる話だが、現実は違う。結婚した後も生活は続いていく。そう考えると下手な相手にソフィアはやれない。お姉ちゃんとしてしっかり見極めていかなければならない。

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