主人公は報告する

 今日は入園式のことを話すためにセシリアたちと集まることにしている。いつものように部屋を抜け他の人を起こさないように慎重に歩きながら台所を目指す。二人はすでに来ているようで、扉から光が漏れていた。扉を開けると予想通り二人がいた。


「お待ちしておりました、ソフィア様。まずは、お座りください。」


 とセシリアに促され着席する。カティが手際よくお茶を出してくれたため、飲みながら今日の出来事について話す。


「ねえ二人とも、案内してくれる人がレオナルド王子って知ってたの?それなら教えてくれても良かったんじゃない?すごいびっくりしたんだけど。」


「だってさあ、ソフィアは王子の顔を覚えていなかったんでしょ。なら、変に知っているよりは自然な反応ができたんじゃない?」


「う~ん、確かにそうだけど。かなり慣れ慣れしく話しちゃったから不敬罪とかにならないかなあ?。」


 私は、最近の社交に顔を出しておらず、王子の記憶が5,6歳程度で止まってしまっていたため、一目では王子だということに気付けなかった。王子だと分かっていたらもう少し違う対応だったかもしれない。


「学園内のことですし、お嬢様の話からしても大丈夫でしょう。お嬢様からも話は聞いたのですが、ソフィア様からも詳しい話を聞きたいので、お嬢様と別れた後何があったか教えていただけますか。」


 その言葉に頷き、私は今日の出来事を思い出しながら話していく。


 ~~~


 お姉ちゃんと離れた後どこに行けばいいのか分からなかったので、とりあえず広い校舎を探検してみることにした。続々と新入生が入ってくるので、正直この人たちについていけば目的の場所に着けるんじゃないのかと思ったけど、一応筋書き通りに進めるために校舎を歩き回っていた。時間がたつと人の姿は見えなくなって、逆に誰にも会えないんじゃないかと考えているとちょうどそこに一人の新入生が現れた。私はすぐに例の人だと思って声を掛ける。


「こんにちは。ねえちょっといいかな?」


「誰だ、貴様は?どうしてこんなところにいる?」


 あれ、何かめちゃくちゃ敵意を向けられてない?親切な人じゃなかったの?そうは思ったけど今更後にも引けないしこのままいくしかないか。


「えっとね。まず私はソフィアって言います。君と同じ新入生なんだけど、道に迷っちゃったみたいで。良ければ、集まる場所まで案内してくれないかな?」


「はあ、道に迷っただと?それでこんな場所に?馬鹿も休み休み言え。それにその言葉遣いは何だ。俺を誰だと思っている?」


「あれ、もしかして先輩でしたか?それならごめんなさい。まだ入ったばっかで、先輩の見分け方とか分からなくて。」


 新入生って聞いてたんだけど先輩だったのか。これは本格的に人違いの可能性が出てきたなあと考えていると目の前の男の子が答える。


「いや先輩ではないが。……お前本当に俺のことを知らないのか?」


「う、うんごめんね。何か有名な人だったりする?あんまりそういうのに詳しくなくて。」


「……そうか。ならいい。ついてこい。講堂はこっちだ。」


「ありがとう。いやあ本当にどうしようかと思っていたから君に会えてよかったよ。ところで、名前はなんて言うの?」


「……レオでいい。」


「レオ君か。いい名前だね。これから一緒のクラスになれたらいいね。」


 どっかで聞いたことがあるような名前だが、そこまで珍しい名前でもないため気にしなくてもいいだろう。それよりレオ君が気になることを言いだす。


「もし、俺が誰であろうと今のまま接してくれるか?……いや忘れてくれ、馬鹿げたことを言った。」


「どうして?もう私たちは友達じゃないか。レオ君はレオ君でしょ。まだ関わりは少ないけど悪い人には見えないし、レオ君がどこの誰でも友達は友達さ。」


「……そうか。ありがとう。では、遅れるといけない。早く行くとしよう。」


「そうだね。早く行こう行こう。」


 その後は、レオ君についていき無事に着くことができたが、レオ君がまさかこの国の第二王子だったなんて思いもしなかった。まあなんか変なことを言っていたし事情があるかも知れないとは思ったけどここまでとは思っていなかった。


 ~~~


「後は、お姉ちゃんや殿下と一緒のクラスになったことぐらいかな。今日あったことは。」


 そう言って、私が話し終えるとセシリアは頭の中を整理しているのか目を閉じてしばらくたった後に口を開いた。


「そうですか。こちらが今日聞いたのは、明日いろんな攻略対象と話すことになるということでした。まあでも、明日話すのは同じクラスの人だそうですから事前に聞くよりも知らない方が今回もいいでしょう。また、次の意地悪までは少し時間があるようです。なので、気兼ねなくお嬢様と仲良く学園生活を楽しんでください。」


「そう?分かった。にしてもさ、やっぱりなんか楽しいな。こうみんなに内緒で計画を立てるのとかさなんか秘密組織みたいでかっこいいし。」


 ここに来るまでは、大人に内緒で友達と秘密基地みたいなのを作ったり秘密の任務だとかいって森に入ったりしていたから懐かしくも感じる。


「まあ、気持ちは分からなくもないような。」


「でしょ?それに私がお姉ちゃんから離れるって言った時、ちょっと安堵したような表情だったのが可愛くてさあ。多分どうやって離そうか考えてくれてたんだろうなあって思うとさ、これからもどんな風にいじめてこようとしてくるのか楽しみになってきちゃった。」


「……お嬢様をからかうのはほどほどにしておいてくださいね。」


「もう、セシリアは私のことを何だと思っているの。」


「ふふふ、でも気持ちが分かるなあ。姫って可愛いよね。まだ子供なのに精一杯完璧でいようとしているところとか。」


「カティもそう思う?何にしても当分は普段通り振舞えば大丈夫ってことだよね。明日も楽しみだな。」


 今日は結局、お姉ちゃんの可愛いところや抜けているところを話し合って解散することになった。カティとはすごい気が合うし、セシリアも自重しているようだけど、お姉ちゃんのことが大好きなことが伝わってくる。もし二人とあの時知り合えていなかったら、お姉ちゃんのことを誤解するようになっていたかもしれない。そう考えると、あの時の自分によくやったと言ってあげたい。お姉ちゃんとクラスも一緒だったし、これからの学園生活に胸を躍らせながら眠りにつく。

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