悪役令嬢は入園式に出る

「リリィ様おはようございます。今日はとうとう入園式ですね。」


「おはようセシリア。そうね、ついに来てしまったわね。」


 いつものようにセシリアに声を掛けられて一日が始まる。今日はいつもと違い制服に着替える。前世では貴族制なのに制服だと不思議に思っていたが、よく考えてみたら実に合理的だと思う。学園のモットーが平等であるが、貴族と平民では身に着けるものが違うため、一目で違いの分かる服装では良くないのだろう。さらに、制服で学生であることを示すことで学生を守る効果も期待できる。学園は生徒を大事に思っていることは有名で、一度誘拐が起きればさらわれたのが誰であろうと必ず犯罪グループを叩きのめす。そうすることで、賢い者なら生徒に危害を加えようとは思わなくなる。

 そんな制服の利点を考えながら着替え終わると、朝食に呼ばれる。そこにはすでに制服に着替えたソフィアといつものお父様が席についていた。いつものように食べ終え、部屋に戻り支度を行い、外に出る。前からソフィアや使用人には一緒の馬車で登園することを告げていたため馬車の用意はできている。


「お姉ちゃん、ついに学園が始まるね。なんだか楽しみだね。」


「ええ、そうね。それよりソフィア、学園ではお姉さまと呼ぶことを忘れないで。ほら、行くわよ。」


 先にセシリアに続いて私、ソフィアの順で馬車に乗る。出してちょうだいと御者に声を掛け馬車が動き出す。ソフィアは侍女たちに挨拶をしているようだ。王都にある家から学園まではそう遠い道のりではない。正直馬車なんか使わなくても登園できる距離にある。しかし、貴族には見栄が必要だ。豪華な馬車で家の力を示す、くだらないことだが大事なことだ。乗っている間ソフィアが話しかけてくるが、返答はかなり上の空になってしまっている。学園に着いたらどうソフィアを撒こうか考えているうちに馬車が止まる。着いてしまったようだ。


「ありがとう。帰りは12時ぐらいに来てくれればいいわ。」


 そう言い、御者とセシリアを帰す。さて、これからが問題だ。今までの傾向から彼女はおそらく一緒に来ようとしてくるだろうから、どう言えば撒けるだろうか。そんなことを考えていると先にソフィアの方から話しかけられる。


「じゃあ、お姉ちゃん。私は少しお手洗いに行ってくるから先に行ってて。」


「……そう。お手洗いぐらい先に済ませておきなさい、全く。まあそれなら先に行っているから。」


 都合のいいことにソフィアの方から離れてくれるなんて助かった。セシリアたちもここで撒くことについてあまり心配していなかったから上手くできなかったらどうしようかと考えていたが、杞憂だったようだ。ソフィアが帰ってくる前に講堂へ行き、待っていればいいだろう。そういえば、厠の位置は分かるのだろうか?まあ、持ち前の明るさで適当な誰かに聞くだろう。ソフィアが帰ってくる前にさっさと講堂へ行こう。講堂は安全面から門から遠く入り組んだ所にあるため案内なしではなかなかたどり着けないだろう。後は、ソフィアが上手く王子に会ってくれるといいのだけれど。


 ~~~


 講堂に入り決められた席へ向かう。次々に生徒たちが入ってくるが、私の隣の席は空いたままだ。そして、ついに開式の挨拶が始まり、入園式が始まる。学園長の歓迎の挨拶と在校生代表の挨拶が終わるとついに新入生代表の挨拶だ。ここで、レオナルド王子が入ってくるが、その裏でソフィアが入ってくるはずだ。新入生代表が呼ばれレオナルド王子が入ってくる。王子に注目が集まっている隙に後ろからソフィアが入ってくる。気付いた人もいるだろうが、そこまで注目されず上手く私の隣の席まで来ることができたことだろう。王子の挨拶が始まったが、気が抜けた影響で中身は入ってこなかった。最後に国王陛下からも歓迎の挨拶が始まる。今の国王は賢王で、その治世はこの数百年で最も良いとまで言われている、そんな国王陛下が出てきたことで、国の学園に対する本気度が伝わってくる。演説が終わり興奮冷めやらぬ中、閉式となる。ただ、解散するのはもう少し後で、来賓の方が帰られた後今後の予定が伝えられる。クラス分けを発表され、今後は基本的にクラス単位で動くことになるのだそうだ。それと学園規則も伝えられ、この学園内では身分の差はなく平等であると念を押された。完全に払拭することはできないまでも建前としては必要だろう。そんなこんなで、今日の予定が終わり解散となりソフィアとともに門まで向かう。


「お姉ちゃんと同じクラスで良かった。知っている人が誰もいないと寂しいから。」


「そうね。私もソフィアと同じクラスで良かったわ。ただ、お姉ちゃん呼びはやめなさい。」


 魔力の多さで分けられるクラスだが、階級の高い貴族を下のクラスに分けることなどできるはずもなく一緒のクラスになるのは当然だったし、もともとゲームで知っていたため何も感じることはないが、そのことは言わない方がいいだろう。


「そういえば式の始めの方いなかったけれど、どうしたの?」


 どの口が言うとは私も思うが、計画が上手くいったかどうかを知るためにソフィアにそう聞くと、『迷っちゃって最初の方はいけなかったけど、後から同じ新入生に案内してもらって来れたの。まさかレオナルド殿下だったなんてびっくりしちゃった。』と答えてくれたので上手くいったようで安心する。そうして二人で喋りながら門まで行き、すでに来ていた迎えの馬車に乗る。今日の午後は予定を開けているため上手くいったことをセシリアたちに報告できる、そう思いながら家に戻る。

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