主人公は楽しむ

「じゃあ、私はお姉ちゃんとはぐれてその親切な人についていけばいいのね。で、その人の名前は?」


 今私たちは、恒例となっている集まりの最中だ。私が寂しいので、結局ほとんど毎日集まって話をしている。話す内容は本当にとりとめのないもので3人で盛り上がっている。カティは、私が地元の友達の話や遊んだ時のことを話したりするとすごく興味を示してくれて私としても話し甲斐がある。セシリアは一見表情が硬く楽しんでないように見えるが、セシリアなりに楽しんでいることを知ると途端にかわいらしく思える。


「それで大丈夫です。ただその人の名前については教えることはできません。貴女とその人はほとんど初対面だそうなので、先んじて貴女が名前を知っていたら変に思われてしまうかもしれません。その人に直接聞くのがいいでしょう。」


「そう?分かった。じゃあその案内状ってやつも見ない方がいいよね。」


「そうだね。できるだけ元と同じ状況にした方が上手くいくと思うんだよね。姫はどこで会うとか詳しく言ってなかったし会えるかどうかの確率は少しでも上げといた方がいいからね。」


「ただ、その人は貴女と同じ新入生なので制服で分かると思いますよ。」


「そうなの?まあなるようにしかならないしとりあえずこのままいくしかないか。それでさ、今日もお姉ちゃんの昔の話聞かせてくれる?」


 セシリアたちが語ってくれるお姉ちゃんの話はとても面白い。小さいころから優秀だった話もあれば、ひょんなところが抜けていて意外な失敗をしていたりするので、聞いていて飽きない。私の知らない一面があったり、逆にらしいと思うエピソードがあったりするので、毎回楽しみにしている。


「僕も僕がいなかった頃の姫の話をもっと聞きたいし。」


「そうですね。今日はあの話にしましょうか。いずれは貴女方にも知っておいてほしいことでもあったので。」


 そう前置きしてセシリアは語り始める。


「あれはお嬢様が5歳のころ、さる貴族令嬢の誕生日祝いのパーティに招待されたのです。ベティルブルグ家の派閥の家でしたし、特段珍しいわけでもありませんでした。ソフィア様もそういったことの覚えがあるのでは?」


「そうだね。5歳から正式に貴族になるからお父さんが亡くなるまではそれなりにパーティに行っていたね。」


 魔法の属性がはっきり分かるようになるのが、5歳程度のためそれに合わせて正式に貴族となるのは5歳と決まっている。属性は基本的には遺伝で決まるため、母親の不貞が発覚したり、望む属性を引き継がなかったりした時に隠ぺいできるように5歳までは表舞台に立つことはほとんどない。しかし5歳を過ぎると今度は逆に同年代のつながりや周囲へのお披露目も兼ねて途端に社交の機会は増える。ましてや|ルビを入力…《《《ルビを入力…》》》爵家ならばいろんなパーティに呼ばれるのは不思議ではないだろう。それがどうしたのだろう。


「カティはその時はまだ修業中だったため、私ともう一人侍女がついて当主様とともに参加しました。事件はお嬢様がその令嬢に挨拶しに行った時に起きました。お嬢様が『お誕生日おめでとうございます。』と声をかけたところ、その令嬢が泣いてしまったのです。お嬢様も幼いころでしたから緊張されていて顔がこわばっていて睨まれているようにかんじたのか、実際のところは分かりませんが怯えられてしまったのです。当主様などのフォローもあってその場は何とか収まったのですが、お嬢様は帰られた後私に抱き着いて泣いておられました。今でこそ自分の見た目や立場と上手く付き合っているように見えますが、お嬢様は存外繊細なお方なのです。二人はそれをよく考えて、上手くお嬢様をフォローしてあげてほしいんです。」


 一緒に暮らしているとお姉ちゃんは表情はほとんど変わらないけど感情豊かで、優しく、悪事をさせるような人ではないと分かってきた。養父様はまだそこまで分からないけど噂で聞くような極悪非道なことをするような人ではないと思う。でも、お姉ちゃんはとても美人だからこそ表情をほとんど変えないその姿は一見冷たく見えてしまいがちだし、噂などに疎い我が家でもベティルブルグ家の悪名は耳にしていた。今はそれほど気にしてないかもしれないけど、もしお姉ちゃんがそのことで傷ついていたのなら私が癒してあげたいとそう思った。


「分かったよ。教えてくれてありがとう。ならやっぱりもっとお姉ちゃんと仲良くなって支えていけるようにならないといけないね。」


「そうだね。僕ももっと精進して姫の障害を排せるようにならなきゃ。」


「二人の心意気はうれしいのですが、何かするときはまず私に相談してくださいね。二人とも思わぬことをしそうなので。特にソフィア様はお願いしますね。何かをした時の影響が大きくなりそうなので。」


 セシリアにとって私はどんな存在なんだ。なんだか納得のいかない評価だが、真面目な顔でそう言うセシリアに抗議できず、カティとともに『分かった。』と言うしかなかった。でも、気安くこういうことを言い合える関係に慣れたのだと思うと嬉しかった。お姉ちゃんともこんな風に話せるぐらいもっと仲良くなりたいな、そう思いながら二人との会話を楽しんだ今日だった。

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