悪役令嬢は踊る
「リリアン様、もう少し体を大きく見せるように胸を張ってください。ソフィア様は逆にリリアン様に体を委ねるように力を抜いてください。その姿勢のまま維持してくださいね。」
私はなぜソフィアとともに踊っているのだろうか?事の起こりは今日の朝のことだ。ソフィアが『少しダンスに不安があるため、お姉さまとともに練習したい』と言ってきたからだ。社交から離れていた期間が長いためダンスの先生だけでなく他の貴族の目で見ても問題ないか確かめてほしいらしい。私としては午後は入園式に向けてセシリアたちと打ち合わせがしたかったので、午前だけならということで今に至る。たまたま、専属のダンスの先生の時間も空いていたため二人でダンスを見てもらっている最中だ。
「ソフィア様は、リリアン様の腰にもっとしっかり手を当てるようにしてください。リリアン様は相手の顔をよく見てリズムを作ってください。」
そう言われたので改めて意識してソフィアを見る。相も変わらず、可愛らしい温かみを感じる顔だと思う。流石は、主人公になるだけはある。ベティルブルグ家では、従者も含めてそこまで表情豊かな人は珍しいため、ダンスに集中して間違えたりしているたびに百面相をしているソフィアを見ているとなんだか面白い。私がじっくり見ていることが分かったのかソフィアが笑いかけてくる。
花をはたき落とした日からだろうか、逆にソフィアが私に積極的に関わってくるようになった。セシリアたちに相談してみたが『ギャップが増えるのでむしろ好都合です。』と言われたためソフィアに付き合っている。この前も『一人でやるより二人でやる方が覚えやすいです。』などと言いながら、魔法の勉強を二人で行った。仲良くしてくれるのはありがたいが、私がしたことを忘れてしまったのか、はたまた鋼のメンタルを持っているのか、ソフィアの頭が心配になってくる。まあソフィアが尋常じゃなく優しいのだろうと一人勝手に納得していると曲が終わる。
「本日はここまでに致しましょう。ソフィア様はここに来られた当初よりずいぶん上達しましたね。後は、何回もダンスをして慣れていくのが大事でしょう。リリアン様は特に言うことはありませんが、たまにリード役を行うことでどうされたらフォローしやすいかなど確認できるので、これからもお二人で練習することをおすすめします。」
「分かりました。ありがとうございました。」
「はあはあ、あ、ありがとうございました。」
「はい。お疲れ様でした。それでは失礼します。」
先生退出した後、私も続けて退出しようとするとソフィアに声をかけられる。
「お姉ちゃん、どうして息が乱れてないの?あんなに踊ったのに。」
「それは単純に踊りなれているからでしょうね。貴女ももう少ししたら上手い力の抜き方とか学べると思うわよ。」
「ほんと?それならさ、先生も言っていたしこれからもちょくちょく一緒にダンスしてくれる?」
「え、ええいいわよ。予定が合えばまた踊りましょう。では、失礼するわ。」
「ありがとう。また明日。」
軽い昼食を終えて、いつもの庭のテラスに行く。入園式までこの先あまり時間が取れないため今日でいろいろなことを決めなくてはならない。
「リリィ様、お茶です。」
「ありがとう。ふう、いつ飲んでもセシリアの入れるお茶はおいしいわね。ところで、案内状が届いたわね。きちんと手筈通りソフィアの目には入っていないわよね?」
「もちろんだよ、姫。しっかり二人分届いているのを確認してソフィア様の分は処分しといたから。」
「そう。ごめんなさいね、こんなことをさせてしまって。」
「ううん、姫のためならばっちこいさ。他に僕らがやることは何かある?」
「そうね。とりあえず今はないかしらね。改めて入園式の流れを説明すると、まず学園には馬車で行くの。御者を除くと乗るのは、私とソフィア、そしてセシリアね。学園の中には生徒しか入れないから学園の前で私とソフィアだけが降りてそこからは私はソフィアと離れれば今回の意地悪は終わりね。」
「離れた後ソフィア様はどうなるんでしたっけ。」
「うん?それはね、新入生代表挨拶のため講堂に遅れて入ることになっているレオナルド王子に会って、案内してもらうことになっているわ。ソフィアは今は忘れているんだけどレオナルド王子と会うのは初めてじゃないのよね。小さいころにお父さんの都合で登城してはぐれて一人で城を探検していた時にたまたまレオナルド王子に会っているの。王子のルートに入るとそれを思い出したりするんだけど今はあんまり関係ないわね。」
「分かりました。入園式が終わるのは12時ごろでしたよね。なら12時には着くようにしますね。」
「そう。じゃあ、こんな話はやめて楽しい話をしましょう。折角3人で集まっているのだから。」
そうして私たちは日が暮れるまで思うがままに話をした。今日はリラックスして眠ることができそうだ。
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