主人公は知る

「ちょっと待ってて、考える時間が欲しい。」


 セシリアから今までの経緯を聞いたが、正直飲み込めないことばかりなので整理する時間が欲しい。


「もちろんです。お茶も冷めてしまったようですし、淹れなおすことにしましょう。考えがまとまって聞きたいことがあったら何でも聞いてください。」


「もちろん僕に聞いても大丈夫だよ。」


「ありがとう。」


 ありがたく一人で考えさせてもらう。お姉ちゃんが私のあげた花を受け取らなかったのはお姉ちゃんの意思なんだそう。お姉ちゃんには前世の記憶があってこの世界は前世の世界のオトメゲーム?ってやつと似ていて、この世界がどうなっていくかを知っているらしい。近い未来この国に災厄が降りかかるけど、私と誰かが手を取り合うことでその災厄をはねのけることができるそう。その誰かと私が仲良くなるためにお姉ちゃんは私をいじめる必要があるらしい。


「もう一度聞きたいんだけどさ、そのオトメゲームでは私が誰かと仲良くなるためにお姉ちゃんにいじめられなきゃいけないの?」


「いじめられているところを貴女と恋仲になるどなたかに助けてもらうことで、より仲を深めていくんだそうです。お嬢様曰く『恋愛には障害が付き物』ということだそうです。それと、自分がゲームとは違う行動をすることで結末が変わってしまわないようにできるだけ同じ行動を取ろうとしているようです。」


「僕らもソフィア様をいじめない方向性は無いかと言ってみたりしたんだけど姫の意思が固くてさあ、無理だったんだよね。」


「そう。まあとりあえず分かった。まだ半信半疑だけど。後、ソフィアでいいよ。もう友達なんだから。」


「そう?じゃあそうさせてもらうね。ソフィアはあんなことされて大丈夫だった。姫とか僕らに対して、怒ったりしないの?」


「あの時は怒りよりも驚きが勝っていたし、さっきまでも戸惑いの方が大きかったかな。それにあのくらいの意地悪くらいなら全然大したことないよね。前の家の方がひどかったから慣れてるし。」


 辺境伯だったお父さんが死んだ後、私の居場所はあの家にはなかった。お母さんは産後の肥立ちが悪くそのまま死んでしまったらしく、お父さんは私が7歳のころに亡くなってしまった。幼い私が領主となることはできず、少しの間でも辺境伯がいないことは問題のため、叔父さんが領主を継ぐことになった。そうしたら、叔母さんに目の敵にされていろいろなことでいじめられていた。どうやら継承権が私の方が叔母さんの子より高かったから自分の子可愛さでいじめてきていたようで、あの頃は本当に辛かった。友達と遊んでいる時だけは楽しく過ごすことができたから私にとって友達と言うのはかなり大きな存在だ。今は何の因果か、この家に養子として引き取られてきたため、いじめられたりはしないが友達との時間が無くなってしまったことはさびしい。


「そんなソフィア様に頼むのは申し訳ないのですが、お嬢様が殺されないように私たちに協力してほしいんです。このままでは、お嬢様は死んでしまう可能性が高いのです。ソフィア様には今まで以上にお嬢様と仲良くなってもらい、お嬢様とともに国を救ってほしいのです。」


「なるほど?そういうことなら分かったよ。災厄を跳ね除けたりとかはできるかわかんないけど私がお姉ちゃんともっと仲良くなるだけなら大丈夫。」


「ありがとうございます。お嬢様がソフィア様に何かをするときは前もって伝えておきますので、いい感じの反応をお願いしますね。私たちがつながっているとお嬢様に勘づかれてしまうと私たちに内緒で進めようとしてしまうかもしれないので、話すのはここだけにしましょう。」


「そうだね。まあ毎日はソフィアも僕らも難しいだろうから合図を決めよう。……そうだな、この手の形を誰かがしたらその日は話し合うことにしようか。あ、そうだソフィアさ、このソフィアと姫を仲良くさせる作戦に名前を付けてほしいんだけどさ、何かいいのない?」


「う~ん、姉妹仲良し大作戦でどうかな。そんなことよりその手の形ね、覚えた。じゃあ何か話したいことがあったら二人のうちのどっちかに見せればいいよね?あのさ、この作戦に関係なくても話していいかな?せっかく友達になったんだし。」


「もちろん、大丈夫ですよ。なんでも話してください。もう少し話したいことがあるのですが今日はもう遅いのでここらへんで解散することにしましょう。」


「そうだね、またいつでも集まれるし、明日も朝早いしね。ソフィアもそれでいい?」


「いいよ。ただ明日も集まることにしようね。じゃあおやすみ。」


「分かりました。おやすみなさい。」


「おやすみ~。」


 二人と別れて、部屋に戻る。今日はいろいろなことがあったし、二人と仲良くなれないのかなと思ったりしていたけど誤解が解けて良かった。お姉ちゃんに内緒で三人でこの作戦を進めていくのは、なんだか昔友達にサプライズを仕掛けた時みたいでわくわくしてしまう。お姉ちゃんからの意地悪も裏が分かると可愛いものだったし、二人と話せるようになったしより楽しい日になりそうで期待に胸を躍らせて今日は眠れそうだ。

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