メイドは告げる

「ねえ、セシリア。あの時僕の意見を遮ったけどさ、セシリアは姫の演技正直どう思った?」


 諸々の仕事を終え、部屋に入った途端カティにそう話しかけられる。カティも姫の演技には思うところがあったのだろう。


「あの時はすみませんでした。私もあの演技はどうかと思いましたが、余計なことを言ってお嬢様に不信感を与えるべきではないと思ったため遮らせていただきました。」


「やっぱそうだよね。棒読みだったしいつもと違ってたどたどしかったし、姫はいろいろできるけど演技の才能はないんだなと思ったよね。」


「社交の時はしっかり本音と建て前を分けて話したりしていたというのになぜこんなに下手なのか、不思議でたまりません。これでは、私たちが何もしなかったとしてももともと破綻していたでしょうね。」


 案外お嬢様は、もともと完璧に見えて抜けていることが多々ある。何か失敗をしても表情だけは変わらず堂々としているため、焦っているように見えず、周りからはそれも計算の内か、と勘違いされがちです。公爵令嬢という立場もあり、お嬢様自身をよく見る貴族はほぼいないため今までは上手くいっていましたがこの先もこのままで大丈夫か不安になってしまう。


「……うん。これならしかたない。姫の意思も固そうだし、このままじゃいけないだろうから、僕も姫に内緒で『姫とソフィア様仲良し大作戦』に協力しよう。」


「ありが……、今なんと言いましたか?協力してくれるのはありがたいですが、その作戦名は却下です。」


「ええー、これならめちゃくちゃ分かりやすくていいでしょ。姫とソフィア様を仲良くさせるんでしょ?この作戦名が最高じゃないか。逆にセシリアはどんな名前ならいいのさ。」


「……それは、ソフィア様とも相談して決めることにしましょう。とにかくその名前はなしです。」


 カティは名付けのセンスがないですね。ただ私も何も思いついていないので人のことは言えませんね。作戦名は大事なので、ソフィア様がいい案を出してくれると良いのですが。


「まあそれでいいけどさ、そのソフィア様はさあ、僕たちに協力してくれるかな?そりゃ僕たちはさ、姫との付き合いも長いし姫の意地悪がばればれな演技だってことは分かるけどさ、ソフィア様は気づいたかな?普通に考えたらあんなことをした姫は嫌われちゃわないかなと思ってさ。」


「……そうですね。私はてっきりソフィア様が協力してくれるものだと思っていましたがそうとは限らないですよね。まあそれも今日ソフィア様が来てくれるなら分かることですし、協力してくれるよう私たちが説得すればいいことです。」


「セシリアは、全員がお嬢様のためにあるべきだって思っている節があるよね。まあでも姫を説得するよりはましか。よし、じゃあそろそろ行く?いろいろ準備もあるだろうし。」


「そうですね。行くとしましょう。」


 昨日と同じく、上着を羽織り、灯りの魔道具を持ち部屋を後にする。廊下は相も変わらず最低限の灯りだけで薄暗い。警報が鳴らないようにカティには離れず付いてきてもらい、台所に着く。


「ソフィア様来るかな~?もしさ、来なかったらどうする?」


「来なかったら来なかったで手を打たないといけませんが、おそらく来るでしょう。これまで見た限り、約束を放棄するような方には思えませんでした。もし、私たちに敵意や嫌悪を抱いたとしても今日は来てくれるでしょう。」


 あの時ソフィア様はお嬢様より私の方を見ていました。特に花をはたき落とされた直後は、私の方をにらんでいるようにも思いました。あのままその場にいられると余計なことを話されてしまう危険があったため口パクでお帰り下さいと言いましたが、気づいてくれたようで良かったです。私たちとソフィア様につながりがあるとお嬢様に気づかれるのはあまり良いことではないため、これからも最新の注意を払わなければなりませんね。そんなことを考えているとカティが誰かの接近に気づいたようみたいですね。


「セシリア、誰か来たようだよ。この感じは多分ソフィア様で間違いないだろうね。」


「そうですか。では、お茶の準備をするとしましょうか。」


 お湯を沸かしている間にドアが開かれた。カティの言った通りソフィア様だった。


「こんばんは。ソフィア様、来てくれて本当に良かったです。」


「こんばんは。私も会えてうれしいよ。いろいろ聞きたいことがあるの。正直に答えてくれるよね?」


 口調は柔らかいのに不機嫌そうな態度を隠そうとせずソフィア様はそう聞いてくる。ただ私としても話しておきたいことばかりなので、願ったり叶ったりだ。


「もちろんです。私に答えられることなら何でも答えましょう。」


「じゃあ聞くけど、今日の出来事は何?貴女が無理やりお姉ちゃんにそうさせたの?私が必要以上に近づかないように。それとも、サプライズとか?仲良くなった記念とかの。だとしたら申し訳ないけど趣味が悪いと思うよ。」


「そんな風に考えていたんですね。残念ですが全然違います。あれは、お嬢様が自分の意志で行ったことです。もし私がそそのかしたのだとしたら昨日ソフィア様に言う必要がないではないですか。」


「それはそうだけど。だって、明らかに棒読みだったよ、お姉ちゃん。いつもと違うから様子を聞こうと思ったら貴女に帰れって言われたから聞くこともできなかったし、ちゃんと私が納得できる理由があるんだよね?」


「納得できるかは分かりませんが私が知るすべてをお話しますのでとりあえず席についてください。長くなるのでお茶でも飲みながら聞いてください。」


 しぶしぶながらソフィア様が席についてくれたので、これまでの経緯をしっかり伝えることにしよう。少し時間はかかるだろうが、のくだりも含めて説明し、協力していただけるよう説得しなければ。話始めると、ソフィア様は特に何を言うこともなく、たまにお茶を口にしては静かに話を聴いている。私はカティに補足してもらいながら説明を続ける。夜は更に更けていく。

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