悪役令嬢は決意を新たにする

「はあ~、ようやく一息つけるわね。」


「お疲れ様です、リリィ様。紅茶をどうぞ。」


「ありがとう、セシリア。」


 今私たちは、予定通りに庭のテラスで話ができている。今日はあんなことをしたためか集中が欠けていて、魔法の先生に注意されてしまったほどだ。午後のダンスは、セシリアが担当でよかった。そうでなければ、何度も踊りなおさせられてこの時間が確保できなかっただろう。ダンスの先生は悪い人ではないのだがダンスにかける思いが大きいため、中途半端を許してくれないのだ。


「あんまり時間もないことだし、このうちにしっかり話し合うとしましょう。さっきも言ったけれど、私の演技はどうだったかしら?完璧に悪役を演じられたかしら?」


「いや~、やっぱり姫に悪役はむr、イタッ。何するんだよセシリア。」


「虫が飛んできていたから払ったまでです。そんなことより、お嬢様の演技は完璧でした。しっかり悪役になり切れていたと思いますよ。」


 なんだか、カティの言うことを遮りたかったように感じられるがセシリアがそう言うならそうなのだろう。


「セシリア、力加減には注意してね。でも私の演技は良かったのね。まあでも当然よね、王国の悪を一手に担うベティルブルグの一員ですもの。」


「確認なんですが、やっぱりソフィア様をいじめないという選択肢は選ばないのですか?」


「ええ、そうよ。国のためにはゲームの通りに進めることがなによりだし、もう後戻りはできないもの。そのための計画を今ここで立てていくんじゃない。」


「そうですか。分かりました。」


 カティは少し不満げな顔をしているが、やるときはしっかり協力してくれるだろう。この先どんなに人に嫌われようが、この二人がついていてくれるなら耐えることができるだろう。


「まず、彼女との接し方を考えていく必要があるわ。ゲームで描写されている意地悪はともかく日常的な接し方を変えていかなければいけないと思うの。いじめている義妹にお姉ちゃんなんて呼ばれる悪役令嬢なんておかしいもの。どうすればいいと思う?やっぱりずっと無視するとか会うたびに嫌味を言うとかかしら?」


「……いえ、今まで通りに接すればよいかと。」


「どうして?おかしいでしょそんなの。普段は仲良く接して意地悪の時だけ急に冷たくするの?」


「いつもの対応と意地悪のときの落差を作るのですよ。リリィ様風に言えばというやつですね。リリィ様だって好きなデザートが食べられると聞いていたのにいざとなって食べられないと分かったときは悲しくなるでしょう?それと一緒です。それにお姉ちゃんと呼ばれるのは、周りに人がいないときだけにしていたではないですか。だから、決まっている意地悪以外は、今まで通り接すればいいのですよ。」


「う~ん、確かに一理あるかも?あっ、でもソフィアの気持ちを考えていなかったわ。こんなことをしたんだもの、ソフィアの方こそ今まで通りに接してはくれないわ。」


「……ソフィア様の気持ちは分かりませんが、お優しい人なので今まで通りに接してくれるのではないのでしょうか?とにかく、リリィ様は変わらず接すればよいと思います。いえ、むしろ今よりかかわりを増やした方がそののためにもいいでしょう。」


「そういうものかしら?」


「そういうものです。後、意地悪をする際は必ず私たちに伝えてください。みんなで考えることで、より良い方法が見つかる事でしょう。」


「そうね。もちろん二人に伝えるつもりだったわよ。次にあるのは、入園の時だったからあと少ししか時間がないわね。今日はそのことを話そうかしら。」


「その時は姫はどんな意地悪をするの?」


「これから先、学園から手紙が来るの。入園の手続きは終わっているから、入園式が行われる講堂とその席への案内状がね。貴族の子息や息女が多く集まる場所だからそういう式では席順とかをしっかりしないといけないからね。ゲームの私は、その案内状をソフィアに隠しておいたの。」


「姫が直接ソフィア様に話さないんだね。それならいいや。」


「それで、案内状を見なかったソフィア様はどうなったんですか?」


「当然迷うわよね。学園までは家から馬車を出していたから着いたけれど、それから先は案内されると思っていたようで途方に暮れていたわ。仕方がないからとりあえず学園内を歩いていると偶然レオナルド王子に出会うの。新入生代表挨拶のため、遅れて入ることになっていた王子にどこへ行けばいいかを聞くの。」


「王子に?それはまたなかなか度胸があるね。」


「それが、ソフィアは社交の場にあんまり出てこなかったから、王子だと気づかなかったようなの。で、ソフィアは王子に案内してもらって遅れたものの講堂に着くことができるの。王子は、自分に気さくに話しかけてきたソフィアに興味を持つようになる。これがだいたい一連の流れね。」


 このことをきっかけに王子は、ソフィアのことを認識しソフィアに話しかけるようになる。いくら学園の中では、皆平等と謳っていてもそれを実行に移せるかはまた別問題であり、貴族社会の頂点に位置する王家に対してそんな風に接することはなかなかできることではない。そんな中で、自分にも分け隔てなく接してくれるソフィアを特別な存在だと考えるようになっていくが、今はそこまで関係ないので言わなくてもいいだろう。


「分かりました。じゃあお嬢様がすべきことは、とりあえず学園の案内状をソフィア様に見せないようにすることですね。」


「そう。と言っても、たぶん貴女たちの方が先に家に来るものを確認するでしょうから貴女たちにお願いすることになると思うわ。」


「そうですね。危険がないかなど確認がありますからね。分かりました。案内状がソフィア様に届かないようにします。」


「そうだね。カティ達に任せて。」


「ありがとう。本当に貴女たちがいてくれて良かったわ。」


「まもなく夕食の時間です。もし、他になければそろそろお開きにしましょう。」


「ええ、そうね。今日はここで終わりましょう。」


 ~~~


 部屋に戻って、今日のことを振り返る。今日はいつもより集中ができなかった。ソフィアのことで、心が乱されていたからだろう。ソフィアは大丈夫だろうか?心を痛めているだろう。自分のせいではないことでも自分の責任だと考えてしまうほど責任感が強いからきっと今回のことも自分のせいだと自分を責めてしまっているかもしれない。物語が進めば、私の意地悪も加速していくがそれと同時に攻略対象に慰められるようになるはずだからそこまで頑張って耐えてほしい。

 それにしてもこの後も今まで通り関わるなんてできるのだろうか?セシリアに言われたからできる限り今まで通り接していきたいが、果たしてそんなことが可能なのだろうか?まあ、ソフィアの対応は明日にでも分かるだろうからその時にでも決めればいいか。

 すでに賽は投げられた。後は転がっていくだけだ。この先が地獄であろうと私はしっかり悪役を演じ切るのだ。決意を新たにし私は眼を閉じる。

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