主人公は出会う
「あれ、あそこから明かりが漏れてる。」
私はなんとなく緊張して眠れなかったので、お手洗いに行くついでに屋敷の中を散策していたところだった。こんな夜中に屋敷をまわるのは初めてのことでなんだかわくわくしてしまう。ここに来る前まではもっと自由に街の子たちと遊びまわったり、森に入ったりしていたが、この1ヶ月は全くそんなことができていなかったのでよくないとは思いつつ、ついつい歩き回ってしまっていた。
幼いころ、勘の鋭いお父さんを驚かせるために気配や足音を消して背後から近づいて驚かせるいたずらをしていたおかげで寝ている人を起こさずに散策できているはずだ。そんな折に明かりが漏れている部屋を見つけた。こっちの方は、公爵家の皆さんの寝室がある方ではなかったはずだし、もしかしたら警備をしている人たちの詰め所なのかもしれない。そうだったら仲良くなればちょくちょく夜中に出歩いても大丈夫になるかもしれない。そう考えた私は慎重にその部屋に近づき、ゆっくり戸を開ける。
「すみませーん。こんばんは。お邪魔して大丈夫ですか?。」
そこは、予想していた詰め所ではなく台所のようだ。さらに中にいる人たちも警備の人ではなく女の子二人だけであった。
「ソフィア様、どうしてこちらに?」
「何か御用でもございましたか?」
「いやそういうわけではないんだけどね。」
どこかで見たことがあるような。そういえばお姉ちゃんと一緒によく行動していたような気がする。
「二人は、お姉ちゃんの専属のメイドかな?」
「はい。それでどのようなご用件でこちらに?」
「いや、本当に何かあったわけではなくてね。うまく寝付けなかったからちょっと散策していただけなんだよね。ところで二人とも名前はなんて言うの?それと年はいくつ?」
「申し遅れました。私はセシリア、年は12です。」
「私はカティと申します。年は11になります。」
見た目で分かってはいたけれど二人とも私とそう変わらないのにメイドの仕事を完璧にこなしているように思える。なかなか話す機会がなかったけれどこれはいいタイミングだ。どうして今ここにいるのか分からないけど何か用事があったのだろう、もしかしたらどちらにせよ今しかない。
「セシリアにカティだね。よしっ覚えた。やっぱり二人とも私とほとんど年齢変わらないんだね。それでさもしよければなんだけど、二人とも私と友達になってくれないかな?」
「……ソフィア様、それはどういう意味ですか?」
「どういう意味ってそのままの意味だよ。こっちではあんまり貴族の子が平民の子たちと遊んだりおしゃべりしたりしないじゃん?」
「まあそうですね。一般的にそうだと思いますが。」
「前は身分に関係なく一緒に遊んだりおしゃべりしていたりしていたから、最近それができなくて寂しかったんだよね。もちろん前とは事情が違うからそうできないのは分かるんだけど、やっぱり寂しいものは寂しいの。」
私のもといた領地ではもっと貴族と平民の距離が近かった。魔獣が頻発する地域ということもあり、貴族の騎士団だけでは対応しきれないときや避難誘導などのときに平民の兵士たちに協力を要請したり、荒らされた土地をまた畑に戻すときなどいろいろなところで貴族と平民が協力する場面があった。必然そこには信頼関係が必要になるし、昔からそんな感じだったためその距離はだいぶ近かった。公爵家では勝手が違うのは頭ではわかっているつもりだがこれぐらいは許してほしい。
「二人は私と年も近いし、お姉ちゃんの専属なら顔を合わせる機会も多いだろうし家の中だけなら問題ないと思うから友達になってほしいんだけどどうかな?」
「……少し考えさせてもらっていいですか?」
「もちろん。これは命令とか強制じゃないからいやだったらはっきり断っていいからね。」
そう言うと二人は少し私から遠ざかって相談を始めた。できれば友達になってほしいと思っていると相談が終わったのか話しかけられる。
「ソフィア様決まりました。」
「うん、それで友達になってくれるのかな?」
「はい。カティもそれでいいですね。」
「まあカティがそう言うんならよろしくお願いします。」
「良かった。」
「しかし、いくつか条件を付けてもよろしいでしょうか。」
「うん?何かな?」
「まず、ソフィア様と友達であるのはこの時間だけでお願いしたいんです。他の人たちがいるとき、特にリリアン様がいるときは友達でないふりをしてほしいんです。」
「それはどうして?」
「二つ目の条件にもかかわってくるのですが、ソフィア様と親しげに話していると不都合があるんです。」
「まあ確かに私に親しげに話してたりしてたら怒られてしまうことがあったりするかもしれないからそれは分かった。それで、二つ目の条件は何?」
「何があっても絶対リリアン様を嫌いにならないでほしいのです。」
「そんなことわざわざ言われなくても嫌いにならないよ。あんなにいいお姉ちゃんを嫌いになったりしないよ。」
そんなことでいいならいくらでも約束できる。お姉ちゃんはすごく優しいし、きれいでかっこよくてなんでもできる私の憧れの人だ。これ以上好きになることはあっても嫌いになんてならないだろう。
「これから話すことを誰にも言わないことを約束できますか?」
「うん、大丈夫だよ。」
「実は、リリアン様はある程度未来が予知できるのです。」
「ちょっとセシリア、そんなこと言っていいの?」
「そうだったの?全然知らなかった。」
「はい。ソフィア様は今日街に降りたと聞きましたが明日リリアン様に渡すための花を買いに行かれたのですよね?さらにその花を朝食後に渡そうと思っていた。そうですね?」
「うん、そうだけど。……もしかして私の侍女からから聞いた?」
「いえ、リリアン様から聞きました。」
「そう。それで内緒にしてほしいことってそのこと?」
「そうです。さらに、リリアン様は近い未来にこの国に災厄が来ると予言しました。それを防ぐためには、ソフィア様の力が必要になるとも。」
「そうなの?私にそんな力があるとは思えないけど。」
「詳しくは私も知りませんが、ソフィア様とパートナーが協力することで、防げるようです。そしてここからが大事なのですが、リリアン様はそのために貴女に意地悪をしようとしてきます。」
「え、なんで急にそんなことを?全然関係ないじゃん。」
「どうもリリアン様は貴女と誰かを結ばせるために意地悪をしなければならないと考えているんです。」
「どういうこと?」
「つまり、リリアン様が貴女をいじめてそれを他の誰かが助けることでその人と仲良くなっていくんだそうです。」
「それを聞いても意味が分からないんだけど。」
「私も意味が分からないので、そこは気にしないでください。重要なのはこれからリリアン様は貴女に意地悪をしようとすることです。でも、勘違いしてほしくないのですがリリアン様は貴女のことが嫌いなわけではないのです。貴女のことを思うからこそそうするのです。今は理解できないでしょうからよろしければ明日もこちらに来ていただけますか。」
「明日も来るのはいいんだけど、敬語を外すことってできる?やっぱり友達になったからには敬語がないほうがいいかな。それと明日はもっと詳しく教えてね。これだけじゃ何が何だか分からないから。」
「もちろんです。ただ、私は敬語が癖になっているのでこのままでお願いします。それと伝え忘れていたのですが、明日渡される花はリリアン様の手によってはたき落とされてしまうので、その時は食い下がらずにすぐに退出してください。」
「えー、お姉ちゃんはそんなことしないと思うけどなあ。まあいいや。とりあえず今日はもう遅いし、また明日の同じ時間にここに、でいいかな?」
「はい、くれぐれも他の人には知らせずに来てくださいね。」
「カティも今日はあんまり喋れなかったけどまた明日しゃべろう。」
「ほんとだよ。あっ、僕は敬語外してもいいならそっちの方がいいからこれでいかせてもらうね。これからよろしく。」
「これから先もたくさん喋れる機会はあるでしょうからその時に喋ればいいでしょう。とにかく明日はショックなこともあるでしょうが、必ずこちらに来てくださいね。」
「分かったよ。私も二人ともっと喋りたいからね。明日来たときは同じのでいいから私の分のお茶も入れてくれると嬉しいな。」
「分かりました。ではまた明日。おやすみなさい。」
「またね。おやすみ。」
「うん。二人もおやすみ。」
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そうして私は台所から出る。自分の部屋に帰る途中さっき言われたことを振り返る。あんなに優しいお姉ちゃんが私をいじめるなんてなんの冗談だろう。そんなことあるわけないのに。でもそれにしては、妙に確信をもった言い方をしていたな。それに、近い将来災厄がきてそれを私が防ぐっていうのもよく分からなかった。まあでも、これで一気に二人と友達になれたことだし、明日も話せるんだから明日もっと聞けばいいか。日中に話せないのは残念だけど、夜中だけでも話せるようになっただけまだましか。明日は、お姉ちゃんに花を渡したり二人と話したり楽しいことが増えたなと思っているうちに部屋に帰ってきていた。いろいろ不可解なことはあるけどとりあえず今は寝よう、そう思って私はベッドに入った。
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