メイドは見破る

「あの話は嘘ですね。」


 部屋に入るや否や私はカティに話しかける。


「急にどうしたの。姫の話は信じていたんじゃなかったの。」


「もちろん信じていますし、大筋は嘘ではないでしょう。私が嘘と言ったのは、お嬢様の処罰に関する話です。」


「確かにあの時は少し変だな~と思ったけれど、自分が罰される話だよ?誰だっていい気持ちじゃないだろうし、少しくらいいつもと違ったりするんじゃない。」


「いいえ、お嬢様は私たちに嘘をつく際にほんのわずかですが表情が硬くなります。幼いころからそばにいる私ぐらいしか気づかないでしょうけど。あの時お嬢様は最悪でも一生幽閉などと言っていましたが、おそらくはお嬢様が殺されるような展開があるのでしょう。もしくは殺される未来しかないかもしれませんね。」


「でもそんな嘘をつく必要があるかな~?」


「よく考えてみなさい。もしこのままいけばお嬢様が殺されるかもしれないと言われたらどうしますか?」


「絶対にそれを阻止するね。あ、そうか。」


「そうです。お嬢様は私たちに協力してもらうために、あえてそのことを伝えようとしなかったのでしょう。むしろそのせいで死んでしまうことがより確かなことだと言っているようなものなのに。」


「そしたらどうする、どうしたらいいかな?」


「貴女はリリィ様とこの国でしたらどちらを取りますか?」


「そんなの姫に決まっているだろう。」


「私も同じです。リリィ様がいない世界なんて私には必要ありません。私たちは何においてもお嬢様を優先しなければなりません。しかし、お嬢様はご自分のことよりも国のことを考えています。だから私たちはお嬢様の望みを叶えつつ、お嬢様をお守りしなければなりません。」


「でもこのままだと姫が死んでしまうかもしれなくて、それを阻止すれば国が滅んじゃうんでしょ?どっちかしか取れないじゃないか。」


「お嬢様はパートナーは誰でもよいと言ってもいました。ならばお嬢様をパートナーとしてしまえばよいのです。国を救うこともできるし、国を救ったという事実があればそう悪いことにはならないでしょう。」


「それはいいね。……でも、姫が素直に従ってくれるかな~?姫は、一度決めたことは簡単に覆したりしない強固な意思の持ち主だよ。」

 確かにお嬢様は一度決めたことはそうそう覆したりしない意思の強い方です。そこがお嬢様の良いところでもありますが、たまに私たちや他の方と衝突するときもありました。


「そうですね。だからこそこの作戦はお嬢様には伝えず秘密裏に遂行するのです。私たちが、それとなくこの作戦通りに事が運ぶように誘導すればいいのです。」


「え~、そんなことできるの?」


「やるしかないでしょう。大丈夫です。お嬢様は案外抜けているところがありますから。そのたびに私たちがフォローしていたではないですか。」


「う~ん。」


カティはこの作戦に乗り気ではなさそうで、さっきから否定的な態度をみせている。


「では聞きますが他に何か方法はあるというのですか?」


「……やっぱり、姫にソフィア様をいじめないでもらうとか、姫を連れてどっかににげるとか。」


「はあ、お嬢様が頑なな人だと言ったのは貴女ですよ。お嬢様がすると決めたらもう曲げたりはしないでしょう。どこかへ逃げるなんて以ての外です。お嬢様はこの国の貴族であることに誇りを持っており、義務を放棄してどこかへ逃げるなんて絶対にしません。そもそもそんな方なら国のために彼女をいじめたりなんてしないでしょう。」


「うう、そうだよね~。姫はそんなことしないし、無理やり逃げさせたりでもしたら僕たちですら嫌われてしまうかもしれないよな~。」


 カティは何か方法がないかとうんうんうなっている。カティが顔をしかめて悩み様子はなかなか見られないし、考えることは大切だからぜひ考えてほしいが、私たちの時間は有限だ。それにカティが私の案に反対する理由も分かっている。


「カティはお嬢様に隠し事ができるのが嫌なのでしょう。お嬢様の意思に反して勝手に行動したくないのでしょう。」


「……うん、そうだね。確かにきっと僕はそのことが引っ掛かっていたのだと思う。姫に隠し事したくないし、やっぱりなんか他の方法ないかな?」


「お嬢様に秘密を持つことが嫌なことは認めますが、最終的にお嬢様を救うことにつながるのですよ。お嬢様が一度決めたことは覆したりしないのですから、それを良い方向に向けて進めていくことが私たちのすべきことではないですか。時にはお嬢様の意に反することでもお嬢様のためになるのならやるべきでしょう。」


「う~ん、はあ。難しいこと考えてたら頭がこんがらがってきた。ちょっとさ、なにか飲み物でも飲まない?疲れちゃったよ。」


「寝る前だというのに重い話でしたからね。今日ぐらいはいいでしょう。二人で紅茶でも貰いに行きましょう。ただ不寝番のもの以外は寝ているでしょうから静かにしましょうね。」


「そうだね。」


 私たちは寝巻の上に上着を羽織ってそろって部屋の外に出る。部屋の外の明かりは最低限しかないので、明かりを灯す魔道具を持ちながら台所まで歩いていく。この館には、台所は一つしかなく公爵家の方が住まわれる場所と従者の場所のちょうど中間に位置している。夜中に部屋を抜け出して台所を使うのはあまり褒められたことではないが、休憩中などは従者用の素材を使い台所を使用することは許可されているためそれを使わせてもらおう。カティよりも私の方がお茶を入れることが得意なため私がお茶を入れていると、カティから声をかけられる。


「考えてみたんだけどさ、やっぱり姫に秘密にするのは抵抗があるよ。」


「そうですか。」


「でも、姫に伝えても意見は変えてくれなそうな気がする。姫自身にだけかかわることなら僕らがお願いすればある程度は譲歩してくれると思うけど、国のためや家のためって姫が考えていることは絶対に変えてくれたりしなかったもんね。」


「そうですね。」


「だから、他にいい方法が思いつくまではその方法で進めていこうと思う。」


「それは良かったです。」


「具体的にはどうするの?」


「それはですn「待って、誰か来た。」


 そういえばここは部屋ではなく、台所でした。誰が来るとも知れないこの場所で秘密の話なんて少し迂闊でしたね。それにしてもカティはすごいですね。足音を立てないようにしているのか私にはまだ人が近づいてきているか分かりません。ただもし来ているのが彼女ならちょうどいいなと考え、紅茶を口に含みながら来訪者を待つとしましょう。

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