メイドは話し合う

 私はリリィ様の専属メイドで、お嬢様が生まれた時からともに過ごしている最も付き合いの長い人間でもある。私の家は代々ベティルブルグ公爵家に仕える一族で、私の両親も公爵家に仕える執事と侍女である。と言ってもベティルブルグ公爵家はかなり特殊な立場の貴族であるため、従者のほとんどは一族で仕えている人たちで構成されている。


「ほんとに姫の話信じてないの?」


 この娘はカティ。表向きはリリィ様の専属メイドということになっているが、実際は情報を収集したり政敵を暗殺したりする暗部の一人だ。といってもまだ11歳ということもあり、暗部としての訓練は一通り受けているものの実際の任務を請け負うことは少ない。彼女は、お嬢様が4歳の頃に暗部に引き取られてきた元孤児であり、付き合いはかれこれ6年になる私の次にお嬢様と関わりの深い人間でもある。


「信じているに決まっているでしょう。お嬢様が私たちに嘘をつく必要がないし、妄言や空想の類というには変な設定が多すぎます。何よりお嬢様が嘘をついたら分からないはずがないでしょう。」


「まあ、セシリアはそうだよね~。」

 

 今私たちは、お嬢様が就寝なさった後の恒例の話し合いの最中である。私たちの生活圏が違うため得られる情報に差異があり、それの共有や次の日の予定の確認、またお嬢様の様子など様々なことを話し合っている。


「とりあえず、明日貴女は城下街に赴いてレオナルド王子が来ているかを確認しなさい。お嬢様は、夕方には王城に帰るとおっしゃっていたので、昼頃に王子が懇意にしているという食事処でも探れば、見つけられるはずです。貴女王子の顔は覚えているわよね。髪や目の色は変えられているそうですから。」


「もちろん、姫の婚約者だしね。にしても、攻略対象?だっけ、そのソフィア様が結ばれる相手に王子が入っていたのが不思議だよね。もしその王子がレオナルド王子だったら姫との婚約はどうするんだろう。」


「そのことも気になりますが、お嬢様は自分のことを最終的に処罰を受けるとおっしゃいました。その処罰が何か分かりませんが、お嬢様にとって良いことではないでしょう。」


「そうだね~。じゃあどうする?」


「幸いまだお嬢様が学園に入るまでには時間がありますからもう少しお嬢様から詳しい話を聴けるはずです。聞いた上で、私たちがお嬢様が不幸にならないように何ができるかを考えましょう。」


「じゃあ今までと何も変わらないってことだよね。」


 カティは良くも悪くも物事を深く考えない傾向にある。だから、私たちがどう動くかは基本私が決めている。それでもカティはたまに物事の本質を見抜いているような鋭い発言や行動をしたり、私と同じくリリィ様に絶対の忠誠を誓っているため私も頼りにしている。


「まあとやかく言ってもまだ何をすべきかは分かりません。何があっても対処できるよう今まで以上に頑張りましょう。」


「分かった。にしても姫は、いつも突然変なことを言うよねー。」


「そういえば、幼いころもおかしな料理法を料理人に話して困惑させたりしていましたね。結果的にあの料理はおいしかったですけど。昔から常識人のふりをして、突飛なことをしでかすので、目が離せませんでした。周りから、完璧令嬢と呼ばれているのが不思議なぐらいです。」

 

 幼いころから活発だったお嬢様は、目を離したすきに変なところへ行ってしまうからいつも目を光らせる必要があってとても疲れました。前世の記憶のせいかはたまた生来のものかお嬢様は非常に頭が回りいつも予想を超えてくるので、おかげでたいていのことでは慌てずに対応できるようになったのは良かったですが。


「そうだね。でもいつも表情をほとんど変えないから完璧令嬢よりも冷血令嬢の方がよく聞くんじゃない?」


「そうですね。お嬢様の表情はベティルブルグ公爵家の血筋らしくほとんど変わりませんし、幼いころからの令嬢教育の賜物でもありますが、それでもそんな風に言われるなんて腹立たしいことです。お嬢様はあんなに優しくてかわいらしいお方なのに。」


「まあまあ、他の人にとっては、姫が完璧すぎるから嫉妬されているだけだよ。よしっ、じゃあとりあえず明日城下街に行って確認してくるよ。」


 小さいころを思い出していたからか柄にもなく少し熱くなってしまい、カティに諫められてしまう。いけない、いけない、冷静にならないと。


「それもそうですね。明日王子の周辺には護衛などがいると思われます。くれぐれも気取られないようにしてくださいね。」


「分かってる、分かってる。そのために僕がいるんだから。任せといて。」


「よろしく頼みます。すべてはお嬢様のために。おやすみなさい。」


「すべては姫のために。おやすみ。」


~~~


 そうして、今日の話し合いは終わり私たちはそれぞれのベッドに入る。ベティルブルグ公爵家に仕える人は他の家と比べると少なく一族総出で仕えていることや安全面、その他もろもろの都合を鑑み、ほとんど全員が公爵家の方々が住まれる館に部屋を与えられている。私とカティはともにリリィ様に専属で仕えているため、同室をあてがわれている。そのためにこんな遅い時間まで話すことができる。

 今日は、いつもよりなんだか長かったように感じられる。お嬢様からあんな話を聴いたからだろう。今日から何かが変わっていくような不安が押し寄せる。お嬢様が10歳になられたことでこの春から学園も始まってしまい、大きく環境が変わるだろう。しかし、お嬢様が幸せに生きられるようにこれからも頑張っていくとしよう。すべてはお嬢様のために。そんなことを考えていたら私はいつの間にか眠っていた。

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