第1話
私はリサ・タルトゥ・ワトソン。
成り行きで私の命を救ってくださった少年を連れてくるように国王陛下でもあり、私の父に言われ、私はその少年を謁見の間へと案内する。
少年は何か不安に感じているようだ。
縛り首、斬首、切腹されるのではないかとそればっかり考えている。
何故そう言い切れるのか、私は相手の心を読めるからだ。
なんと想像力豊かな方だと思い、私はうっかり笑ってしまう。
時を遡ること二日前。
私は公務の帰りに、森でゴブリンに襲われ、馬車はひっくり返り取り囲まれる。
衛兵達は次々にゴブリンに負傷を負わされる。
そんな状況下の中で少年は、私が王女と知らずに無意識的に体が動き、ゴブリンから命を救ってくださった。
ゴブリンの血飛沫を浴びながらも彼はひたすらゴブリンをなぎ倒す。
しかし、彼はゴブリンの毒が塗られていた剣で右手の甲を斬られたため、気を失った瞬間、私も一緒に気絶してしまった。
そのことを話すと彼は驚いていた。
「自分でもよく分からなかった。あのまま姫様を助けなければ俺は一生後悔するかもしれない……」
彼は悲壮感を出してそう言う。
「あなたのおかげで私は今こうして会話ができています。そう気負わないでください」
名前はなんて言ってたかしら?確か、綾野丈?本名はジョセフ・ルー・ジョーンズと名乗っていた。
「しかし、姫様はどうしてあんなところにいたんです?」
ジョセフという少年はずっとかしこまった態度をとる。
「姫様ではなく、リサと呼んでください!よければ敬語もなしでお願いします!ジョセフ様」
「では、リサと呼ばせていただくよ……」
悲壮感を出すところは相変わらずだ。
謁見の間へと到着し、「お父様、ジョセフ様をお連れしました」と言う。
お父様は「そうかそうか」と玉座に座りながら待ち構えていた。
そこにはお母様もいた。
私とジョセフ様はレッドカーペットに頭を垂れる。
「そうかしこまらなくても良い、それで、ジョセフと言ったかな?我が娘の命を救ってくれたこと、心から感謝している。そなたの素性はよく分からないが、この国の王女を救った手立て、何か褒美をやるのは道理だからな、何か欲しいものはないかな?」
私とジョセフ様は面を上げる。
「冒険者になろうと思っていますので、冒険者になるために必要なだけのお金をいただけるなら……」
「ほう、冒険者になりたいと、であればリサを救った報酬があるからそれで……」
「ーーお父様、お母様!私……」
今しかない、私はそう思いながら話に割り込む。
「こちらのジョセフ・ジョーンズ様と結婚させていただきたく思います!」
言ってしまった。
大胆にも私の心の中に抑えていた感情が溢れ、一気に放出された。
「その理由を聞いても良いかな?」
「言葉では上手く言い表せませんが、ジョセフ様は私の命を救ってくださった。それだけでも理由になります。邪な気持ちはなく、ただ純粋に私が困ってるからとゴブリンを倒してくれました。ジョセフ様のそのお心遣いに嘘偽りはございません!」
普段、私はあまり自分の感情は表には出さない。
王女という立場上、感情を剥き出しにしていては国がまとまらないからだ。
「うむ、お前がそこまで言うのであれば問題はないのだろう」
「えっ、俺の意思は無視?てか、展開早すぎません?」
「あら、ジョセフ殿は何か不満かしら?」
「不満も何も、いきなり『結婚させていただきたく思います!』て言われ、王様達もあっさり納得してますが大丈夫なんですか?」
ジョセフ様は慌ただしい声を上げる。
無理もないかもしれない。
「その辺は安心してもらっても良い。リサは相手の心が読めるのでな、この能力は他国に知られ悪用されては困るから非公開にはしているが、その上でリサが選んだのだから君は悪人ではないと判断したから何ら問題はない」
「女性に失礼なことを聞くかもしれませんが、リサ姫のが年齢はおいくつで?」
「うむ、13歳になるな」
「13歳……」
ジョセフ様は何か思い当たることがあるようだ。
お母様は「ジョセフ殿はおいくつで?」と問う。
「15歳です」
「歳の差を気にしているのであれば問題はないと思う、王家のものは12歳から結婚相手を決めることもあるのでな。余が王妃と結婚したのはちょうど君と同じくらいの年齢だった」
お父様は誇らしげに白い歯を見せながら自慢する。
お母様は胸も大きく、おっとりとしている。
そんなお母様を自慢したくなるお父様のお気持ちも分かる。
「俺のいた国では、男は18、女は16でないと結婚できない法律があります……」
ジョセフ様は私との結婚を頑なに拒否しようとしている。
しかし、それは本心ではない。
「そうか、そうであれば3年のうちに決めてもらえればよかろう。冒険者になると言っていたが、リサも一緒に連れ行ってもらえるかな?」
「いいのですか?お父様!」
「勿論だ」
「リサ、ジョセフ殿の心をしっかり射抜くのですよ」
「はい、お父様!お母様!私、必ずジョセフ様の心を射抜いて見せます」
私は躍起になっていた。
これからジョセフ様の心を射抜くのは時間がかかるかもしれない。
それでも、ジョセフ様が私と一緒にいてよかったと思えるくらい、私はジョセフ様と幸せになりたい。
恐らく、ジョセフ様のハートを射抜けるのは私しかいない。
何故か自身だけはあった。
その自信は何が根拠なのかは今は知る由もなかった。
あの人達に出会うまで。
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