第十三場・今宵あなたに
明転。最終稽古、いよいよ最後の通し稽古が終わる。舞台上に百合枝、真姫、幸子、石崎、雁之助、そしてなぜかその中心に健太郎が立って朗々と台詞をしゃべっている。稲村と清四郎は舞台の隅で通し稽古を見つめる。
健太郎 「『……物悲しげなる
稲村 「……はい、オッケー。カーテンコールは明日の場当たりの時に着ける。お疲れ」
雁之介 「あれ?終わりですかい?ダメ出しは?最後の通し稽古ですぜ」
稲村 「ない。あとは本番で好きにやれ」(退場)
真姫 「……お、おわった~(ばったり)」
幸子 「ほ、本当に明日、本番なんですね。ここにお客さんが来て、私たちが本番の舞台に立って……」
真姫 「うおー、わくわくしてきたあ!」
雁之介 「ところで、当たり前のように舞台の最後の最後、一番おいしいところをかっさらって行ってくれちゃってますけど、なんでアンタがいるんだい?」
健太郎 「はっはっは、良くぞ聞いてくれました、かわいい弟が『出演者が足りないよう、このままじゃ舞台が成立しないよう、超かっこいい天才俳優のお兄ちゃん、お願いですから出演してください』と焼き土下座を三回しながら懇願してきたので、器の大きい俺ちゃまは快く引き受けてあげたのです」
清四郎 (ソデ奥から)「言ってねえよ!頼んでもねえよ!」
百合枝 「ホントはかおるさんの口車にまんまと乗せられたんです」
雁之介 「ユリちゃん、見かけによらず言葉の端に毒があるなあ。しかしアンタも役者だったとは知らなかったねえ、全然そんな風にゃあ見えなかったけどねえ」
健太郎 「こう見えても大学時代は学生劇団で名をはせていたんです」
一同 「おお~」
石崎 「劇団の予算を勝手に資産運用してクビになったんですけどね」
一同 「お、おお~」
健太郎 「倍にしてやったのになあ」
石崎 「そういう問題じゃないでしょう犯罪ですよあれ」
清四郎 (ソデ奥から声だけ)「ところでさあ」
雁之介 「ん?」
清四郎 (ソデ奥から声だけ)「本当にこれで行くの?ジュリエット」
雁之介 「んなこと言ったって明日には幕は
清四郎 (ソデ奥から声だけ)「いや、今からでも他の女優さんに……」
幸子 「往生際が悪いですよ、覚悟を決めてください」
健太郎 「大丈夫大丈夫、よく、ぷぷぷ、にあってるから、ぷぷぷ」
全員、ソデ奥にいる清四郎を見て笑いをこらえている。
清四郎 (ソデ奥から声だけ)「コラ演出、いいのかこれで」
稲村 (ソデ奥で大爆笑)
清四郎 (ソデ奥から声だけ)「笑うな!」
健太郎 「さあ諸君、いよいよ明日の夜から本番だ、悔いのないよう全力を尽くして頑張ってください」
一同 「はい!」
清四郎 (ソデ奥から声だけ)「仕切るな!」
健太郎 「じゃあ愛ちゃん、舞台監督として明日の注意事項などを一言」
清四郎 (ソデ奥から声だけ)「だから仕切るなっての!」
愛 「…………よろしく」
健太郎 「お〜、愛ちゃんいつになく雄弁だなあ」
一同 「ええ~?」
健太郎 「さて、今日はもう明日に備えて上がりましょう。お疲れ様でした~」
一同 「お疲れ様でした~」
清四郎 (ソデ奥から声だけ)「だ~か~ら~仕切るな~!」
健太郎 「よ~し、じゃあ稽古打ち上げ行こうぜ~、今日は俺ちゃまがご馳走してあげよう」
一同 「いやっほ~う」
清四郎 (ソデ奥から声だけ)「あんま飲みすぎるなよ、遅刻したら罰金だぞ~」
一同去る。その後に弁天さまが出てきて……
弁天 「みんな、がんばれ~」
音楽、照明が変わっていく。弁天さまが客席に向かって口上を始める。
弁天 「『さて、やってきたのは天下の名優たちでありまして、得意とするのは悲劇に喜劇、歴史劇、その他もろもろ何でもござれ、セネカといえども重すぎず、プラウトゥスさえ軽すぎず、台本どおりに読ませても、即興的にやらせても、当代無比の役者たちでございます。いざご照覧、ご照覧あれ』」
弁天さま、客席に向かってお辞儀。そのまま暗転
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます