第1話
「202号室に越してきました、
102号室に挨拶に行った。出てきたのは同じ歳くらいの女性だった。
「あら、まあ、ご丁寧にありがとうございます。」
「山梨から越してきたので、この辺りの土地勘もなくご迷惑おかけするかもしれませんがよろしくお願いします。」
そう言いながら山梨県の名物である『
「ここは住みやすいと思うわ。住んでいる人も変な人はいないし…多分ね?」
(多分?)
そう言いながらお互いに、まぁ、と笑って流した。
「202号室、しばらく誰も住んでいなかったの。だからちょっと寂しかったのよ。でもね私も夏には引っ越しちゃうから…残念だけど。」
「あら、そうなんですか?」
「ええ、まぁ、ね。」
私もそれ以上深く聞くことはしなかった。
「では、他の方にもご挨拶してきますね。いろいろと教えてくださってありがとうございます。」
隣になる203号室のインターフォンを押した。出てきたのは20代後半くらいの少し地味目だが可愛らしい女性だった。一通り挨拶を済ませると
「あの、私出産を控えてまして…。」
「あら、それはおめでとうございます。」
「産まれたら声で泣き声でご迷惑をおかけすると思いますが…。」
「いいえ、とんでもございません。うちにも子供がいますし、お気になさらず。お身体お大事になさってくださいね。」
家に戻り、近隣住人の話を子供たちにした。
「下の階のおばさんには会ったから挨拶したよ。お隣さんは赤ちゃんが産まれる幸せな夫婦だね。」
中学生になったばかりの娘が言う。
「うん、赤ちゃんの夜泣きが迷惑になるかもって心配してたよ。」
「え、赤ちゃんって泣くもんじゃん。気にしなくていいのに。」
「うちの方がうるさいよね、きっと。だからなるべく静かにしましょうね?」
そんな話をしながら笑っていた。
夏になり、下の102号室の女性は引っ越しの挨拶に来た。それから103号室もいつの間にか退居したようだった。入れ替わりが激しいアパートなのかもしれない。
その頃からだろうか。気が付くと隣の203号室から物音が聞こえなくなったのは。けれどしばらくして男性数人の声が聞こえたり、物音がするようになった。
(旦那さんだけなら昼間は仕事でいないし、夜帰ってくるのも遅いのかもしれない。)
秋になり、102号室に入居したと人の良さそうな老夫婦が挨拶にやってきたが、冬にはもう退居していた。逆に103号室には誰か入居してきし、また、いつのまにか102号室に誰かが入居していた。
203号室からは、時折人の話し声が聞こえたりするが…いつまで経っても赤ちゃんの泣き声が聞こえることはなかった。
そんな話を娘にしたが
「まさか、赤ちゃんダメになっちゃったとかじゃないわよね?」
「まさか…。」
203号室は依然として静かだった。数日に一回、夜にガタガタと音がしたり話し声が聞こえてくる。203号室のベランダに合った二つの鳥よけの
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