第2話

 [いらっしゃいませ。異世界へようこそ]

どこから聞こえてるんだ?この声。

アニメ声で、オレの好みだ。

けれど周りを見回しても、どこもかしこも白く光っていて何も見えやしねぇ。

どこから入ってきたのかも……え?

 

 たった今、くぐったばかりの扉がどこにも見当たらなかった。

「うそだろ?マジかよ。マジに帰れなくなったのかよ?」

[あら、それを承知でくぐって来られたんじゃないんですか?]

すぐ隣で声が聞こえた。

 

 「うわっ!びっくりした」

まぶしさに少しずつ慣れてきたオレの目に映ったのは……ぱっちりとした二重の目に長いまつ毛。

小ぶりな鼻とピンク色のくちびるの超絶美少女だった──猫の耳としっぽがなければ、だが。

 

 「ネコ耳?オレ、犬派なんだけど……って、そうじゃなくて。ここマジに異世界なのかよ?」

[入口に書いてありましたでしょう?]

「いや、書いてあったけど。ガチだと思うわけないだろ?」

 

 [どうしてです?]

「異世界とか、あるわけないから」

異世界はない、だから異世界もののエンタメが楽しめるんだ。

もし日常の真横に、ガチにあんな世界が存在してたら恐ろしくて楽しむどころじゃない。

 

 [それでもここにいらっしゃったからには、指令ミッションをクリアしていただかないといけません]

「(信じる信じないはとりあえずおいといて)扉にさげてあった板に、そう書いてあったな。クリアできたら再度扉をくぐる権利がなんちゃらって」

 

 [【扉をくぐったものには、ある指令が下される。指令をクリアできた者のみが再度扉をくぐる権利が与えられる】です。ほぼご記憶されているとは、すばらしいです]

「いや、べつに褒められてもうれしくねえし。てか、話の流れから行くと、オレはその指令をクリアしないといけない、ということか」

 

 [さようでございます。それではさっそくですが、貴方への指令をお伝えします] 

そう言うと彼女は空中からボールのようなものを取りだした。

半分透明で半分は白い……ガチャガチャかよ。

 

 彼女はそのボールをきゅっとねじって開け、中に入っていた紙に書いてある文字を読んだ

[貴方への指令は【魔王を倒すこと】でございます]

「は?魔王を倒す?」

[はい]

 

 いや……いやいやいや。

そんなニッコリ笑いながら言われても。

「聞き間違いじゃ、ないよな?」

[もちろんでございます]

 

 いや……なんなんだよ。

いきなり魔王?

そんな、どっかの外食チェーンみたいなこと。


 「……ほかの選択肢はねえの?」

[ございません]

「いや、だってゲームだったらよくあるだろ?気に入らないキャラだったらリセマラできるとかさ?」

[その機能はついていません]

異世界、思ったより融通がきかねぇ。

 

 仕方ない。

百歩譲って、いきなりラスボス(魔王というんだからきっとラスボスだろう)を倒すことはありかもしれない。

でも、オレ丸腰だぜ?

あ!そうだ!!異世界といったら……。

 

 「あ、あのさ。魔王を倒すのが指令なら指令でいいんだけど。武器……とかは?」

[ございません]

「じゃ、じゃあさ、オレのスキルは?こんな特殊能力がありますとか」

[ございません]

 

 武器も特殊能力もないんだって?そんな異世界転生ありかよって、死んでないから転生はしてねえんだ。

「念のため聞くけど、スキルアップのために倒す雑魚キャラとか、武器が隠してある宝箱とか、聖水が湧き出る泉があるダンジョンとか……」

[ございません]

 

 ……詰んだ。

オレ、ここから帰れないじゃん。

あんな扉、見つけなければよかった。

罰ゲームなんて考えなきゃよかった。

それよりなにより、じゃんけんに負けなければこんなことには。

 

 [そろそろ、よろしいでしょうか?]

オレの顔を覗き込んでくる美少女の顔。

こんな状態じゃなかったら、すっげぇ嬉しいシチュエーションなんだけどな……ネコ耳だけど。

 

「わかったよ。行くよ。行って魔王を倒してくればいいんだろう?」

[はい。では魔王の元にご案内いたします。私についてきてください]

彼女の後をついて歩く。

結構長い距離を歩かされたが……こんなスペース、あの路地裏にあったか?

 

 [お待たせいたしました。魔王はこの奥にございます]

目の前には、洞窟にみえなくもない岩穴があいていた。

この奥にございますって、モノじゃあるまいし。

あ、そうだ。

 

 「なぁ、魔王を倒したかどうかってのは、どうやって判断するんだ?」

[首尾よく倒されましたら、自動的に扉があらわれてまいります]

あらわれますって、どこからだよ?

 

 「ところで、あんたいったい何者?」

[私は扉の番人で案内人です]

余計にわからん。

 

 ただ、ここに立っていても何も解決しないのは明らかだ。

オレは岩穴を奥へと進み始めた。


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